303.数日でも長く、あと少しだけ
正式に儀式として執り行われ、ウテシュ王国の譲位が確定した。王太子テオパルトは、この瞬間から王になる。王族の席に並ぶ双子は、昨夜の騒ぎが嘘のように大人しかった。場を弁えて動く、当たり前のことだが昔の双子を知る貴族は瞠目した。
厳粛な場でも関係なく騒ぎ、自分達が世界の中心であるかのように振る舞う。ネロとミロが過去に場を乱した記憶を持つ大人は、今回の立派な振る舞いに驚いた。静かに椅子に収まり、兄の雄姿を見つめる。終わって挨拶する兄の後ろに控え、王族らしい穏やかな笑みを湛えて挨拶を受けた。
近い国から挨拶するのが一般的だが、隣国であるカペル共和国に王族はいない。そのためアードラー王国へ移るが、そちらも侯爵の代理だった。となれば、国境を接していないが距離の近いゼークト王国、離れたロイスナー公国の順番になる。
第二王子イグナーツは王族として、立派に役目を果たした。国の代表に相応しい挨拶を終え、続くラファエル達に軽く会釈する。
「頑張れよ」
小声で励まし、にやりと笑ってすれ違った。しっかり頷いたラファエルが挨拶に向かい、きちんとした振る舞いで敬意を示す。双子王子にも軽く目配せし、そつなくこなした。ここからアードラー王国、カペル共和国の使者が新王との挨拶を済ませた。
「これで帰れるのぉ」
エッカルトがそう呟くと、ラファエルはそうだねと返しながら王族の席を振り返った。初対面の印象が最悪だったのに、いまでは離れがたく思う。それでも互いに王族である以上、一緒に過ごす選択肢はなかった。
たまに会える程度の関係であっても、何かあれば助ける。ネロとミロはそう決意し、ラファエルも心に誓っていた。
「出発は、そうじゃな……三日後でどうじゃ? すぐでは忙しない」
「そうね。王宮を辞する他の使節団と重なるのは、大変だわ」
見送りに立つウテシュ王国側を気遣う言葉を選びながら、二人が気にしているのは孫のラファエルだった。エッカルトもクラーラも、可能な範囲で時間を調整している。その気持ちが伝わるから、ラファエルは笑顔でお礼を言った。
「帰りは途中まで送ってもらうのもよかろう。どれ、わしが交渉してこようかの」
「大丈夫なの? あなた」
送る話を口にして、ダメになったらラファエルが傷つくわ。そんなクラーラの心配に、エッカルトはウィンクして笑った。
「問題ない。これでも外交で名を馳せた男じゃ。それなりに掴んでおる」
何を……の部分を省いたエッカルトはひょいひょいと軽い足取りで、ウテシュの大臣達の元へ向かう。逃げたそうな数人を捕まえ、交渉を始めた。しばらくして、笑顔で手を振る。交渉成立したようだ。
「相変わらずね」
苦笑いするクラーラの隣で、ラファエルは誇らしげに胸を張った。
「でも、おじい様は約束を守ってくれる。外交で大事なのはそこでしょう? おばあ様」




