205.この方こそ我が国の希望だ
ウテシュ王国では、王位継承権を持つ三人の王子が無事戻ったことに重鎮が胸を撫で下ろしていた。隣国との境で起きた土砂崩れは、神々の怒りであろうと受け止める流れもある。その懸念を、王は一言で吹き飛ばした。
「これは怒りではなく試練である。王太子はその試練を乗り越えてみせた」
堂々と肯定して意味を読み替える。王の言葉に神の怒りが落ちれば、その言葉は否定された。だが神々は沈黙し、王は淡々と神殿へ供物を捧げる。あまりに見事な対応に、騒いだ貴族達も沈黙するしかなかった。
「ネロとミロの体調が回復したら、すぐに城へ帰る。準備をしてくれ」
騎士の軍馬も回収され、王都から新しい馬車も手配された。馬車が到着するまでの期間、王太子テオパルトはアルバロの街で民から話を聞く。他国と接する地域ならではの問題、トラブル、困りごとを尋ねて歩いた。
カペル共和国から入った商人にも話を聞き、短くまとめていく。付き従う騎士達の、王太子への対応が少しずつ変化し始めた。王族だからと距離を置いていた彼らは、ここで初めて「王位を継ぐ者」への敬意を抱く。積極的に民との交流を行う王族に、尊敬の眼差しを向けた。
王族とは贅沢をしながら、上から命令する者。そんな認識があったのは、騎士達も否定しない。高位貴族の子息ならば、王族の大変さを知っている。だが、子爵や男爵の家に生まれた者は知らなかった。
学ぶ量の知識の多さ、難しい議論へついていくための学び、体を鍛えて身を守ること。毒に体を慣らし、常に人に見られるがゆえに気を抜けない。出来て当たり前と言われ、出来なければ存在ごと否定されるのだ。その厳しさは経験しなければ、理解できないだろう。
民と同じ視線に立ち話す。それだけのことだが、王族にはその時間も余裕もなかった。役人が吸い上げ、貴族が押し上げてようやく伝わる。ほんの爪の先ほどの情報ですら、正確に届かなかった。
「王太子殿下、お疲れではありませんか?」
「いや……民と話すのが楽しくて仕方ない。護衛は交代して構わないから、もう少し視察をしたい」
テオパルトの言葉に、護衛の騎士達も気を引き締める。危険はないはず、そう思い込むことの危険性は身に沁みて覚えた。この方を守り抜いて、無事に王城へ戻る。その決意を固めた。
危機を乗り越えたことで、テオパルトは成長した。滅びへ向かっていたウテシュ王国を立て直す希望が見えるほどに。
――神々よ、ご照覧あれ。この方が我が国の希望だ。胸を張る騎士の言葉を聞き届けたかのように、空は青さを深くした。




