204.真っすぐ帰るのは……
やや低いながらも山脈として連なっていた頂きが、低く二つに分かれている。元から二つだったように、自然な形で中央に道が出来ていた。緩やかに登っていく坂は、左右に蛇行しながら高さを稼ぐ。道の頂点は、山脈の半分ほどに標高が落ちた場所を通過して向こう側へ消えていた。
「……向こう側も揺れたのかしら?」
ふと、気づいたガブリエルが不安を漏らす。地図を信じるなら、この街道の先はロイスナー公国の背を守る山脈だった。こちら側がこんなに揺れたのなら、家族の住む屋敷も揺れたのではないか? 弟のラファエルは怖がったはず。
「どうじゃろうな。女神アルティナ様が付いておられる。きっと一夜の嵐で終わったと思うぞ」
にやりと笑うエッカルトの言葉に、ガブリエルは素直に頷いた。新たな整備が必要ないほど見事な道は、今後、ロイスナー公国とルイス王国を繋ぐ架け橋となる。この道を通って帰れば、距離も……。
「ガブリエル、ゼークト王国経由で帰るのよ?」
表情から考えを読み取ったクラーラが、笑いながら訂正を入れる。きょとんとするガブリエルに、エッカルトも説明を始めた。
「まず、買った土産などはすべて公爵邸に届いておるぞ。それを持たずに帰るのは、惜しいじゃろ。それから我が息子達が首を長くして待っておる。顔を見せてやってくれ」
すっかり帰るつもりでいたガブリエルは「もちろんよ」と答えた。
「ロイスナー公国へ移住する準備をしている父も同行させていただく予定ですし、私も王都で爵位継承に関する手続きがあります」
ソフィーにも言葉を重ねられた。苦笑いするガブリエルの背を叩いたアウグストが「まだあるぞ」と付け加えた。
「ロイスナー公国の外交特使として、ゼークトの国王陛下にご挨拶する。大事な仕事だ」
兄上に頼まれた、と明かしたアウグストが肩を竦める。どうやら自分が任された仕事を、姪のガブリエルに丸投げするつもりのようだ。
「はっはっは、帰る話をしておられるところ悪いが、先に歓待させていただこうか。我がルイス王国でしか味わえぬ珍しい料理の用意を命じた」
アードリアンの姿が見えないことに気づき、彼が走ったのかと驚く。この国は王族と民の距離が近い。王はごく普通に我が子に接し、特別扱いをしなかった。こういった国の考えや風習の違いは、狭い世界しか知らないガブリエルの目を開かせる。
「せっかくだ。この国を学んで帰るといい」
国王の提案に、エッカルト達も同意した。アードラー王国の偏った教育や思想を正すのに、正反対のルイス王国は最高の教材だ。
「食事の前に少し時間がある。海辺を散策されると良いだろう」
王の勧めで海岸へ向かう。クラーラによれば、美しい貝殻や水晶なども見つかるとか。はしゃいで砂浜に駆けていくガブリエルとソフィーの姿に、残された大人は頬を緩めた。




