198.迎賓館の花天井
絢爛豪華ではない。けれど、居心地の良さそうな別荘に似て落ち着いた佇まいだった。迎賓館の名称で呼ばれるのは、普段は使っていないからだろう。門をくぐれば、見たことがない鮮やかな花が咲き乱れていた。
「すごい!」
「綺麗ね」
ガブリエルとソフィーが声を上げる。窓際に寄って、あの花が素敵と指差して大はしゃぎだった。馬車が停まれば、すぐにでも飛び出していきそうだ。
「一番よい季節に訪れましたよ」
アウグストとの会話が一段落したアードリアンが微笑む。自慢げな表情が、この迎賓館を誇るように思えた。きっと思い入れがあるのだろう。
木造の別宅といった風情の建物は、大きく三角の屋根が左右に広がる。山小屋のような独特の雰囲気があった。二階部分は三角の屋根の一部に取り込まれ、立派なベランダがある。仰々しいアプローチはなく、木製のパーゴラに似た張り出しがあった。
玄関より一階のテラスに似合いそうな雰囲気だ。四隅に柱、建物に対して縦方向の木材が上に並ぶ。だがぶどう棚のように隙間があった。そこに黄色い花が咲く蔓が絡んでいる。屋根の覆いがないので、生き生きと蔓植物が伸びていた。
「うわぁ……初めて見る花の屋根よ」
ガブリエルは嬉しそうに上を見ながら、アウグストの手を取って馬車を降りる。視線が足元に注がれていないので、クラーラが注意しようとしたが。転ぶほうが早かった。予想していたアウグストが受け止め、やれやれと首を横に振る。
「び、っくりした……ありがとう、叔父様」
「降りてからゆっくりどうぞ? お姫様」
にやりと笑うアウグストに「もう!」と唇を尖らせた。ガブリエルの仕草にくすくすと笑い、ソフィーが続く。手を差し伸べたのはアードリアンだった。エッカルトが先に降りて、妻の手を取る。足を止めて花の天井を楽しんでから、迎賓館へ足を踏み入れた。




