197.友は付き合った長さで決まらない
警戒しながら馬車を警護するアウグストは、隣の男に困惑していた。第二王子という肩書きなら、一般的には鼻持ちならない驕り高ぶった人物が思い浮かぶ。だがアードリアンは愛想よく、笑顔でアウグストに話しかけてきた。
「剣術の腕前を見込んで、ひとつ……手合わせをお願いできませんか?」
「構わんが、腕も知らないのにいいのか。型通りの綺麗な剣術ではないぞ」
「そのほうが好ましいです」
まるで部下達のような反応だった。構ってくれ、遊んでくれ、一緒に稽古しよう。そう訴える部下を、少しばかり懐かしむ。先ほどの海岸で「剣が錆びる」と警告されたのを思い出す。ロイスナー領には海がないので、潮風で錆びるという現象は知らなかった。
「海からの風で錆びるのはなぜだ?」
「後で海辺の家や船をお見せしましょう。金具がすべて錆びているので、見ていただいたほうが早いかもしれません」
原理を知りたいわけではない。どんなふうに錆びるのか、どのくらい早いのかが気になるだけだ。そのため、実際の状況を見せてもらえるのは助かる。アウグストは素直に礼を言って、案内を頼んだ。きょとんとした顔で、アードリアンが目を瞬く。
「どうした?」
「いえ、他国の方々はもっとその……尊大な態度の方が多いものですから」
アウグストはちらりと馬車を見て、なるほどと頷いた。エッカルトを筆頭に、ゼークト王国の貴族は傲慢な傾向がある。アードラーも同様だが、歴史の古い国ほど強気に振る舞う者が多かった。歴史の古さ、先祖の勇猛、家の格式。それらは己の力量ではないというのに、勘違いが増すのだ。
「俺は成り上がりみたいなもんだ、振る舞い方を知らん」
なぜか嬉しそうに笑うアードリアンは、馬首を並べて歩き出した。あれこれと目についたものを質問するアウグストに、片っ端から応じていく。凸凹が嚙み合う不思議な相性の良さだった。
「叔父様、楽しそうね」
「ふむ、友は付き合った長さではないからな」
「年齢や肩書き、財産、すべてに縛られないの」
エッカルトとクラーラの付け足しに、なるほどと頷いた。隣のソフィーの顔を見て、ガブリエルは祖父母の言いたいことを実感した。頭で理解するより、こうして感じるままに納得するほうが深い。出会ってからの時間が短くとも、ずっと一緒にいたい人ができた。
「私は本当に恵まれているわ」
笑顔で言い切ったガブリエルに、エッカルトは言葉を詰まらせた。『前回』の記憶がないから言える、だが知っているはずだ。クラーラは話を逸らすように窓の外を指差した。
「あれが迎賓館かしら?」




