195.ルイス王国、第二王子の出迎え
伝令で騎士を走らせたこともあり、休憩している間に迎えが来た。国境を接するゼークト王国とルイス王国は、外交面で繋がりが深い。海産物が主な輸出産業であるルイス王国にとって、最大の貿易相手国だ。海藻は乾燥させて保管するが、魚は生で運ばれることも多い。その意味で、距離が近いのは強みだった。
関係の深い隣国の公爵夫妻が訪れる。新たな国家ロイスナー公国の公女も同行すると聞いて、ルイス王国は迎えに王族を出した。第二王子のアードリアンは、父王に命じられて海岸へ急ぐ。
よくよく言い含められたのは「ゼークト王国の公爵夫妻を甘く見るな」である。政治的な意味か、それとも武力か。どちらにしても王族並みの扱いをするよう命じられた。到着した海岸には、馬車の近くで座り込む老夫婦と海辺で遊ぶ若い女性が二人がいる。
よく見れば、護衛らしき逞しい騎士も砂浜に降りていた。その腰に剣があるのを見て、思わず声をかける。
「剣は海風で錆びます! 覆いを貸しましょう」
装飾のされた典礼用の剣ではない。実用一点張りの使い込んだ剣に見えた。柄に無駄な装飾を施さない武人なら、剣は大切だろう。アードリアンは自らも武術を貴ぶ傾向にあるため、アウグストの剣が錆びるのは惜しいと感じた。
振り返った身のこなしは静かで、だが力強い。あの人はかなり強いだろう。体をひねった際の動きに無駄がなく、砂に足を取られなかった。一緒に振り返ったガブリエルは、砂に足を取られて転ぶ。だが数歩踏み出したアウグストが、ぎりぎりで受け止めた。
「リル、ソフィー、戻るぞ」
「はい」
大人しく返事をしたのはソフィーだ。もう少し遊びたいと訴えるガブリエルは、唇を尖らせて抗議した。その唇を指先で押し戻し、ひょいっと小脇に抱えて歩き出す。
「ちょ! やめて、叔父様。自分で歩くわ!!」
恥ずかしいのと怒りが混じった叫びに、アウグストは器用に片眉を持ち上げた。
「本当か?」
「本当よ!」
あっさりと降ろされ、言質を取られたガブリエルは肩を落とした。ソフィーが駆け寄り、スカートの裾を直す。
「ありがとう、ソフィーお姉様」
手を繋いで歩く二人の容姿は似ていない。顔立ち、雰囲気、持っている色。何もかもが違ったが、微笑みだけは似ていた。アードリアンは見惚れた事実に顔を赤らめ、老夫婦に向き直る。
「大変失礼いたしました。ルイス王国を代表して、来訪を歓迎いたします。王との謁見を希望なさいますか?」
「丁寧に痛み入る。そうじゃな、せっかく来たのだから帰る前に一度、ご挨拶申し上げよう。こちらは我が妻クラーラだ。ルイス王国は初めてだから、案内をつけてもらえるか?」
「もちろんです。どうぞ」
滞在予定の迎賓館に使用人を含め、準備を整えた。可能ならもう少し早く連絡が欲しかったが……女神アルティナの天使の意向とあっては断れない。アードリアンは微笑んで促した。




