194.海辺へ向かう過酷なルート
思わぬ寄り道をしたが、それ以上の収穫もあった。予定より長い滞在となった街を後にする一行は、山道に差し掛かる。ロイスナー公国は山の中腹にあり、ゼークト王国からはひたすらに登り道だった。だがルイス王国は海辺の街だ。本来は下り道になるはずだった。
間に細く長い山が存在しなければ、の話だ。ゼークト王国側からは登りが少ない。すぐに乗り越えて、下り始めた。その先はひたすら下りていく。
見えている距離をまっすぐ進めば早いが、それでは馬車が馬を追いかけて潰してしまう。危険回避のため、道はくねくねと曲がりくねって作られた。大きく蛇行しながら時間をかけて進む馬車は、ひどく揺れる。
「うっ……」
ソフィーが最初に酔った。続いてガブリエル、追いかける形でクラーラも吐き気や怠さを感じる。休憩をこまめにとり、外の風に触れることで症状を騙し騙し進んだ。
「ふむ、この頭痛は久しぶりじゃのぉ」
のんびりした口調ながら、エッカルトも体調不良を訴える。けろりとしていたのは、馬に跨るアウグストだけだった。同行する騎士の中にも体調不良を訴える者がいるほどだ。体を鍛えていれば平気という症状でもないらしい。
海から潮風が届き始めると、今度は慣れない匂いに夢中になった。目を輝かせるガブリエルの元気な様子に、症状は軽そうだと判断したアウグストが手を差し伸べる。
「一緒に乗るか?」
「ええ」
久しぶりだと喜んだガブリエルを鞍の前へ乗せ、再び一行は進んだ。この場に留まっても症状が改善するわけではない。時間が解決すると知っているエッカルトも同意したため、馬車は左右に揺れながら海岸を目指した。
「叔父様、馬のほうが楽だわ」
「ほう。ならばソフィー殿も馬のほうが楽なのではないか?」
「でも、騎士様の前に座るのは……どうかしらね」
馬上も揺れるが、揺れ方が全然違う。馬車は轍から外れたり、石に乗り上げたりするたびに左右に振られた。馬の上では目で確認しながら進むため、揺れる方角がおおよそ判別できる。身構えた状態で揺れに対処できるので、楽なのだろう。
徐々に気分も良くなってきたガブリエルは、道沿いに揺れる白い花に気づいた。大きな花弁はなく、小花がひしめくように広がる。その間から青い花がちらほらと覗いていた。海岸の近くには赤い絨毯となった花の群生地が見える。
「すごい!」
「見事だな」
よく見れば赤い絨毯のような花は、数種類の花が混ざっていた。赤、オレンジ、ピンク……少ないが黄色も散見される。
「ソフィーお姉様、おばあ様、おじい様も。とても綺麗よ」
馬車を振り返って声を上げるも……返ってきたのは酔った三人の呻き声だった。そこから数時間、馬車の中の三人が回復するまで休憩をとる。ガブリエルは靴のまま砂浜を歩き、足を取られて転んだ。それもまた楽しい思い出となるのだろう。




