193.女神の神託の行方
今回の騒動があったため、少しばかり旅程を縮める算段をつけた。ゆったりと観光しながら向かう予定だったが、まずは女神様の指示通りルイス王国へ到達する。何らかの神託があるであろう。その神託を終わらせてから、のんびり帰ることにした。
途中で予定していた、ゼークト王都の観光やシェンデル公爵家への立ち寄りも後回しだ。直進に近いルートへ変更することで、湾曲して回り道になる場所は省かれた。
「アルティナ様の神託、本当に降りるのかしら」
「すでに受けたのだから、大丈夫じゃろ」
エッカルトと二人で、朝から別邸の庭で過ごす。ちらりと振り返る先は、メルテンス子爵が療養する部屋の窓だった。クラーラが付き添い、ソフィーが父親にしばらくの別れを告げに行ったのだ。
「私のせいね。一緒にいられたら楽しいけれど……」
病弱な父親が心配だと思うの。途中で言葉を濁したのは、ガブリエルに自覚があるからだ。ソフィーを手放したくない。だから「待っていて」と願い置いていく手段を選ばなかった。
「それでいいと思うぞ」
アウグストが不器用な一言を放った。ソフィーは本心から同行する意思を固めている。その話をしても、ガブリエルは「ソフィーお姉様は優しいから」と曲解するだろう。助けられた恩で同行してくれると思い込んだ。
誤解や曲解、人の言葉の裏を読んで絡まっていくのは世の常だが。エッカルトはそれ以上介入しなかった。一国の王女と同等である公女殿下となった以上、孫には似たような選択が何度も訪れる。そのたびに祖父母が介入できるわけではなかった。
いずれ自ら判断する日が来る。ならば、早くに悩んで選ぶ癖をつけさせよう。何かあれば、祖父母や両親が助けられるうちに経験を積ませるのが、せめてもの親心だった。
「明日には出発じゃ。今夜はソフィーも子爵と過ごすだろう。わしらと一緒に休むのはどうだ?」
「そうするわ」
「……俺だけ一人か?」
わざと拗ねた口調で入ってきたアウグストに、エッカルトがしっしと手で追い払う仕草をする。剣を抜く振りで応じるアウグストが笑い出した。三人の明るい声は窓際のクラーラにも聞こえる。
「あらあら、楽しそうだこと」
「少し妬けますね」
くすっと笑うソフィーのヤキモチ発言に、クラーラが笑顔で同意した。医者を呼び寄せて診察と治療、体質改善のための努力を続けるメルテンス子爵は、ここ数日で顔色が良くなった。目に見えて回復する父親に、ソフィーは笑顔で出発予定を告げる。
「わかった、立派に役目を果たしておいで。先にロイスナー公国で待っているから」
体調が回復し次第、ロイスナー公国での療養に出発する。医師同伴の体制を整えたクラーラは、シェンデル公爵夫人としての顔で約束した。
「ロイスナー公女殿下の側付きとして、ソフィー嬢をお預かりします。無事にお返ししますので、安心なさってね」




