表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/197

191.正しいほど狂気に呑まれる

 離れて地上の光を浴びると、あの異常さが際立った。女神の断罪により殺された男は、完全に壊れている。狂ったと言い換えてもよかった。


「お前さんは近寄らぬほうがよい。ああいった輩は、専門の相手がおるでな」


 専門家に任せる方法に、アウグストは異論を唱えなかった。もう一度顔を見て、同じような発言をされたら……迷惑を理解できず暴走するようなら、殺してしまうかもしれない。問答無用で命を絶ち、垂れ流す穢れた思想を消し去りたかった。


「任せます」


 こう吐き出すのが精いっぱいだった。真っすぐ立ち向かってくる敵なら、いかに強くても怯みはしない。敵の数が多くても、堂々と受けて立つだろう。だが、あのような狂人相手にどう戦えばいい? 触れた場所から腐り落ちそうで、嫌悪感は増大した。


 ぶるりと身震いし、安堵の息を吐きだす。そんな自分を恥と思わないくらいに、アウグストは狂人に恐怖を覚えた。そうだ、この感覚は恐怖が一番近い。ゆっくりと振り返り、地下牢の入り口を見つめた。今にもあの扉を開けて、狂人が姿を見せるのではないか?


「ふむ。最強を自負する騎士でも、形のない相手とは戦えぬか」


 それでよしと笑い、エッカルトは再び扉へ向かう。後ろ姿に「なぜ」と声が漏れた。アウグストの顔が強張る。老人一人行かせて、自分が残ることへの罪悪感が募る。しかし、もう二度とあの男に会いたくなかった。


「アレは宮廷に巣食う悪意と似ておる。剣で戦うお前さんには向かない相手だ」


 自分は違うと匂わせながら、エッカルトは地下へ戻った。追いかけることもできず見送ったアウグストが、庭へ転がり出る。息苦しく感じ、革鎧を脱いで転がした。乱雑に散らかる革鎧の間で、深呼吸する。


「叔父様ったら、お片づけは自分でなさってね」


 ふと顔に影がかかり、覗き込んだ姪の声に驚いた。気配を読むことも忘れていた自分がおかしく感じられる。くつくつと喉を鳴らして笑い、ガブリエルの頬に手を当てた。本物だ、その感触に目を細める。


「我が姫は何をしておいでか?」


 騎士団長時代の口調でからかう。ぷくっと頬を膨らませたガブリエルは「お茶会の帰りですのよ」と頬に触れる手を叩いた。ぺちっと軽い音がして、刺激が体の強張りを解く。


「おばあ様とソフィーお姉様もいらっしゃるの。早く起きて」


 顔に影を作ったガブリエルが移動し、眩しさに手で目元を覆った。大丈夫だ、まだ立てる。ガブリエルを守るためについてきた。あの狂人をガブリエルに近づける気はない。もちろん彼を護衛に使うつもりもなかった。


 結論があれば、途中経過も自然と決まる。革鎧をかき集め、小脇に抱えて三人の淑女に従う。手を差し伸べてエスコートする位置にいないことが、自分らしいと頬を緩めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
自分の罪悪感を誤魔化すために相手の都合も考えず「保護」するのは単なる拉致監禁だから、そんなこともわからない狂人の思考なんぞ理解する必要は無いんですよね
アウグストの心の傷が...(涙) そうですよね、前回の惨劇を一番最後まで目の前で見ていたのですから心はズタボロに切り刻まれたはず。日頃は明るく振る舞っても、怒りで力を奮い立たせても、心の傷は未だ開いた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ