186.感涙の場面をぶち壊す無粋
父の療養する別邸に向かうソフィーは、侍女や侍従達と一緒だった。馬車を三台仕立てて急ぐ。公爵家の騎士が両側を守り、さらに別の貴族が派遣した騎士も同行した。万全の守りを固めた一行は、荷馬車も含めて四台で到着する。
騎士の手を借りて馬車から降りたソフィーは、大急ぎで玄関へ向かった。つい数時間前に出発した時と変わらぬ扉を開き、目を潤ませる。誘拐された年下のガブリエルへ両手を広げ、崩れて座り込む形でしがみついた。
「無事で、よかった……っ、よかったわ」
自分の見送りをした後で、誘拐されたと聞いた。心臓が止まりそうなほど、驚いて……同時に息が詰まるほど不安が押し寄せる。子爵令嬢の誘拐より、ずっと大きな事件になる。心無い言葉を使う人も出るだろうし、嫌な憶測をする人達も出るはず。
一刻も早く見つかってほしい。無事であってほしい。その願いを口に出しながら、女神アルティナ様へ祈り続けた。どうか、優しく美しいあの方をお守りください、と。その願いを叶えてくれた女神への感謝を噛みしめながら、しっかりと抱きしめた。
間違いなく本物だ。ガブリエルが無事だったと涙するソフィーに誘われ、周囲ももらい泣きする。
「無粋ですまん。リル、犯人について思い出したと聞いたが」
場を読まない、ある意味最強の男が口を開いた。アウグストのこの遠慮のなさは、騎士の武骨さと勘違いされて良いほうへ認識されてきた。実際は感動の場面をぶち壊すことも遠慮しない、失礼な男である。
顔を上げたガブリエルが、泣き笑いの顔になった。感動はまだ続いているのに、叔父が笑わせる。というか、苦笑させるのだ。
ただ、この失礼な行為にも意味はあった。気持ちが軽くなったのだ。ソフィーも涙を拭く余裕ができ、周囲もそっと瞬きで涙を隠した。
「お部屋で話すわ、ねえ……おばあ様」
クラーラが「まったく、男はなぜこうなのかしら」とぼやきながら、歩き出す。その手を取るのは、公爵家の騎士だった。さっと前に出て淑女のエスコートを買って出るのは、エッカルトの姿を見ているからか。真似しようとしたアウグストに「叔父様、二人いるのよ?」とガブリエルが肩を竦める。
「安心しろ、二人纏めてエスコートできるぞ」
おどけた口調で言い切ると、左右の手をさっと差し出した。正規の立ち位置をソフィーへ譲ったガブリエルが、叔父様らしいと笑う。
客間へ向かう一行を見送り、騎士達は気を引き締めた。今回の不祥事に、二度目はない。もし次があれば……命を懸けて償うべし。互いに確認した認識を共有し、頷いて姿勢を正した。
問題があるとすれば、名前も知らないアードラーの騎士である犯人の情報を、どうやって伝えるか。ガブリエルは考えながら、もう一度記憶を浚った。




