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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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185/187

185.思い出したわ!

 がっしりと鍛えた体、背は高い。腹が出ていることもなく、貴族というより……騎士のようだったとガブリエルは語った。短く刈られたダークブラウンの髪、暗く深い青の瞳に日焼けした肌。指折りながら特徴を口にするガブリエルが、静かに首を傾げた。


「絶対に見たことがあるの。でも……屋敷ではなくて……あれは、そう……後ろに薔薇のアーチがある庭園近くの、小道だった」


 出会った場所を記憶から手繰り寄せる。本人の名前や肩書きより先に、どこで出会ったか。そのとき、何をしていたか。風景から紐解こうとした。アウグストは顔は覚えても名前はすぐ忘れる。けれど、ガブリエルは王太子妃教育の一環で、人の顔や名前を覚える訓練をしていた。


 それなのに思い出せないのはおかしい。薔薇のアーチはピンクの花が咲いており、あれは王宮の庭への入り口だった。そこまで来たところで、ガブリエルは息を呑む。


「……近衛騎士? いえ、制服が違う。でもアードラー王宮に出入りできる騎士よ!」


 自分の専属騎士でもなければ、王宮の一騎士の名前など憶えない。騎士が名乗るとしたら、忠誠を誓う場面や専属騎士として紹介されたときくらいだろう。近衛も含め、王宮に勤めるとはそういうことだ。己の個性を捨て、ただ壁のように守りに徹する。


 目立つ騎士は不要なのだ。風景の一部となって守り、存在を誇示する場面では華やかな制服で胸を張る。ガブリエルがすぐ思い出せないのも道理だった。おそらくアウグストも同様で、自分の直属の部下でもなければ、王宮すべての騎士の名は知らない。


「叔父様に知らせなくちゃ!」


「侍従に伝言を頼みましょう、だから落ち着いて」


 クラーラに止められ、ガブリエルは深呼吸する。焦っても仕方ない。叔父への伝言を頼み、クラーラの手から果物を受け取った。侍女の運んだ果物を一口、甘酸っぱい柑橘の香りが広がる。


 焦りや混乱が収まっていく。もう一口放り込み、ガブリエルは味わって咀嚼した。丁寧にゆっくりと噛み、喉を意識しながら飲み込む。それだけで気持ちが晴れた。心得たように、侍女がお茶を用意する。あたたかな飲み物を入れたカップを両手で包むだけで、ほっとした。


「ありがとう、おばあ様」


「どういたしまして。こういうのを年の功と呼ぶのかしら?」


 ソフィーも事情を聞いて心配している頃だった。あの子は愚かではない。無理にこちらへ向かう愚は犯さないだろう。その分だけヤキモキして、憔悴するタイプだ。


「エッカルトに頼んで、宿へ戻る手配をしましょう」


「そうね……いえ、もし可能なら……ソフィーお姉様にこちらへ来ていただいたら? この別邸にも部屋があるんですもの」


 それがいいと二人で微笑み合い、結論を記した紙をエッカルトへ送る。妻と孫からのメモを手に、大急ぎでエッカルトが戻ってくるのは、お茶の湯気が消える前だった。

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― 新着の感想 ―
まあ使用人だの護衛だのは用があるまで背景にとけ込む家具になるのも仕事の一環でしょうから、特定個人の専属でもない限り思い出せなくても仕方ないのかな……
背景の一部と化して、名のることも無い騎士。そりゃ見かけたくらいじゃ思い出せませんよね。その誘拐騎士は、誰のために、何のために誘拐を企てたのか…。速く捕まってほしいですね…。平穏の為に。
って事は、アウグストの部下?裏切りの部下ですね(*゜∀゜)*。_。)*゜∀゜)*。_。)
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