184.違う、もう一人いたの!
ガブリエルの休む客間へ顔を出した祖父母は、ほっと胸を撫で下ろす。無事に救出したと連絡を受けていても、顔を見るまでは不安が尽きない。寝息を手で確認したクラーラが微笑む。その光景にエッカルトは安堵し、近くの椅子に座り込んだ。
「無事でよかったわ」
「ああ。女神様の加護があっても心配になるのは……仕方ない」
そんな二人の様子を見た侍女が、お茶の支度を始めた。無言で壁に寄りかかるアウグストの分も含め、四つのカップがセットされる。身を起こしたアウグストがベッドに近づき、ガブリエルの顔を覗き込んだ。
「起きているだろう」
「……ごめんなさい」
優秀な騎士の目は誤魔化せなかった。祖父母が部屋に入ったときに目が覚めたが、なんとなく気恥ずかしいような気がして起きそびれた。アウグストの手を借りて身を起こし、抱き着くクラーラを受け止める。ガブリエルを抱く祖母の強い力と、真逆の震える指先。ガブリエルの鼻の奥がツンと痛む。
「おばあ様」
「どこか痛いところはない? 苦しかったりもしない?」
クラーラの涙声につられて、ガブリエルの目元が潤む。口元が震えて……堪えるように唇を引き締めた。
「わしも心配したぞ。無事で何よりじゃ。こんな醜態はこれきりと約束しよう」
自分がうかつに攫われたのに、自分を責める祖父と涙する祖母。ガブリエルの感情が溢れだした。涙は一粒流せば、筋となって頬を濡らす。しゃくりあげるように息を乱し、クラーラに抱き着いた。その上から二人纏めて腕を回すエッカルトが、ぽんぽんと優しく背を叩く。
静かなリズムに落ち着くのに、涙は止まらなかった。しばらく抱き合って動かない三人を横目に、アウグストは淹れたばかりのお茶を口にする。もらい泣きするほど涙脆くないが、ずずっと無作法にも音を立てて飲んだ。やや赤い目を瞬きで誤魔化し、洟を啜る音を無作法に紛れ込ませる。
「犯人は全員捕まえた。五人とも衛兵に引き渡したぞ」
エッカルトの言葉に、ガブリエルが「違う」と声を上げた。
「違うわ、もう一人いたの! 六人よ!!」
がたんと立ち上がったアウグストが、大股で出ていく。後ろ姿を見送るガブリエルが、さらに新たな情報を口にした。
「待っていたの、湖のそばで立っていたわ。あの人……見覚えがある。叔父様と先日見かけて、でも思い出せないの」
その情報を伝えにエッカルトが立ち、部屋には二人が残された。侍女は退室しており、クラーラは抱き合ったままガブリエルの話を聞く。絶対にどこかで見たことがあるのに、思い出せない人物の特徴を……一つずつ並べていった。




