182.父親同士の顔合わせ
メルテンス子爵は、ベッドの上で身を起こして対応した。恩人の親族とあれば、丁寧に接したいと自ら申し出た。
「楽にしてくれ。これで体調を崩したら、ソフィー嬢が泣くぞ」
娘の名を出されたメルテンス子爵は、アウグストに一礼してからクッションに身を沈めた。屋敷を借りた礼を口にしたアウグストに、子爵はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、こちらこそ……シェンデル公爵閣下と奥方様のお陰で生きております」
シェンデル公爵家の名が出て、ここは別邸だったと納得する。こういった事情を理解せず動くのは、アウグストらしい。仕事の面では副官のヴィリが対応してきたので、ここまでボロは出なかったが。
「バーレ侯爵閣下」
「アウグストでいい」
呼ばれ慣れない肩書きに、苦笑いしたアウグストは首を横に振った。
「ソフィーのこと、よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げる様子に、アウグストは首を傾げる。すぐに思い至った。婚約話のことだろう。
「我が息子二人のどちらか、ご令嬢のお気に召すなら縁を結ばせてほしい。だが強要はしない」
「はい。公女殿下の話し相手の仕事も頂いたと聞いております」
どこまでも丁寧な子爵の口調に、むずむずするアウグストがシャツの襟を緩めた。明らかにサイズの違う服を纏うアウグストの姿に、メルテンス子爵の口元が緩んだ。
「申し訳ありませんでした。私の服では小さかったですね」
ようやく口調が崩れる。アウグストはにやりと笑い「そのほうがいい」と肯定した。鋭い犬歯が覗いて、悪い顔になる。そんなアウグストに、メルテンス子爵は好感を抱いた。飾らず、まっすぐで強い。病弱な自分が子供の頃に憧れた、騎士そのものだった。
「失礼いたします」
侍女のノックに入室を許可した子爵は、現れた可憐な少女に目を見開く。慌てて姿勢を正そうとして、アウグストに止められた。
「ロイスナー公国のガブリエルですわ」
挨拶を交わす間はぎこちなさが前面に出たが、すぐに子爵も肩の力を抜いた。飾らない二人のやり取りは、父娘の会話に似て柔らかい。ソフィーの話を聞き、娘が幸せなのだと判断した父は胸を撫で下ろした。
部屋を辞すのを待っていた騎士に呼び止められ、アウグストは屋敷の外へ向かう。その途中でおっとりした侍女に呼び止められ、乾いたばかりの服に袖を通した。やはり体に合う服は違う。意気揚々と出ていく叔父を見送ったガブリエルは、あふっと欠伸が漏れた。
「少し休ませていただくわ」
老いた侍女について、客間で横になる。皴の刻まれた手が、丁寧に上掛けを直した。温かく安心な場所で、ガブリエルは目を閉じる。外から聞こえた物音を子守唄にしながら。




