155.遇される者と排除される者の違い
リーム男爵は丁寧に挨拶をして、謙虚な姿勢で対峙した。その姿に、シェンデル公爵夫妻も冷静に応じる。無礼者は叩きのめせばいいが、下手に出てこちらの顔を立てる者には、相応の礼を返すべきだ。王族に次ぐ公爵家を切り盛りしたエッカルトは、そう判断した。
「なるほど。誤解があったようだな、申し訳ない」
理路整然、破綻のない説明にエッカルトは納得する。隣でクラーラが「申し訳ないわ、奥様とお嬢様に私からもお詫びをさせて頂戴」と言葉を重ねた。
「いえ、ご理解いただけただけで十分にございます」
商人らしい謙った態度は、エッカルトに好感を与えた。気に入ったと口にし、新しい商売について話が広がっていく。過去から繋がる公爵家への納入は、既存の商人がいた。出入りの業者を落ち度なく変更すれば、その商人達が困る。内情を知る者が敵に回る可能性もあった。
だから、新しい開拓ルートを任せる。ロイスナー公国が建国して、商売のルートはまだ確立していない。向こうにもカペル共和国から逃げてきた商人セラノがいる。彼と上手に付き合い、だが損をしないよう立ち回れる商人が必要だった。
この街に根を下ろす男爵家ならば、パブロ商会主相手でも引けを取らない。対等以上の商売ができるだろう。提案にリーム男爵は目を見開いた。妻子の誤解を消したいとは思ったが、思わぬ申し出に心躍る。
「謝罪の意味でも、我々が誤解を解いて良好な関係であると示すためにも、受けてほしいのだが」
エッカルトは公爵家当主だ。まだ代替わりしていないため、王家に物申せる筆頭公爵のままだった。その彼が、地方の一男爵に対等の申し出をする。感激したリーム男爵は「必ずや満足いただけるお取り引きをしてみせます」と約束した。
オルフ侯爵らとは一線を画す。本当の意味で、得難い人物との縁を繋いだ。エッカルトはそう感じ、満たされた気持ちで微笑んだ。
クラーラは謝罪について考えていた。誤解で一方的に断じてしまった己の失態だ。彼女らの名誉を回復するには何が効果的か。社交界の荒波を泳ぐ公爵夫人として、リーム男爵夫人と令嬢を傷つけた詫びは倍以上の利を与えなければ補えない。
「ソフィーも巻き込んでしまいましょう」
ぽんと手を打って、クラーラは笑顔になった。晩餐の店で起きた騒動で、ソフィーを誤解している貴族も多い。当事者であるロイスナー公女ガブリエルも参加できるよう、昼間のお茶会がいいわ。ソフィーとリーム男爵夫人、令嬢を中心に集まる。
彼女らの不名誉を消し去り、逆に無礼を働いた者を見せしめにして。クラーラは社交界の中心にいた。今も昔も……これからも。その影響力を存分に発揮する催しを提案する。リーム男爵は恐縮しながらも「妻子が喜びます」と受け入れた。
旅は遅れるけれど、楽しいほうがいいはず。部屋に戻ったクラーラの提案に、ガブリエルは手を叩いて喜んだ。




