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第4話 追放する①

 シオンたちが連続少女誘拐事件を解決してから数日後。その事件は多くの耳目を集めていた。

 犯人が、最近急激に名を上げていた有名人であったこと。暗黒神に生贄を捧げるのが誘拐の目的だったこと。そして、自身の娘さえ犠牲にしようとしたという異常性。それらの事情から、大きな注目を集めたのである。


 その事件を解決したシオン達のパーティは、既に相当に名を売っている実力派の有力パーティだったのだが、その名声を一層高めていた。

 だが、今、なじみの店の個室に集まっているシオン達の表情は暗い。気の重い話をしなければならなかったからだ。


 その部屋で、パーティメンバーであるアクセルという名の男――20歳そこそこで赤毛の男――1人に対して、他のメンバー全員が向き合う形でテーブルに着いている。

 アクセルは、誘拐犯との戦いの際に軽装備で戦っていた男だ。そしてシオンの指示に従わず、戦闘時に隙を作ってしまった男でもある。

 重苦しい雰囲気の中、シオンが口火を切った。


「アクセル、お前を俺たちのパーティから除名する」

「ッ!! なぜ、ですか」


 シオンの言葉を聞き、アクセルは驚いた。

 雰囲気からして碌な話にはならない。或いはまた叱責されるのかも知れない。アクセルもそんな事は感じていた。

 だが、一方的な除名、いわば追放されてしまうとは思っていなかったのである。


 シオンは淡々と追放理由を説明する。

「理由は主に三つだ。まず一つ。お前の技量は他のメンバーよりも劣る。お前がいると足手まといになりかねない。

 次に二つ目、お前はまた命令に反した。前の戦いの時、敵の策に乗せられそうになったお前を、俺は止めた。あの時、攻撃を止める事も出来たはずだ。それなのに、お前は止めなかった。その結果、隙が出来て不利になってしまった。

 お前をパーティのメンバーに加えて半年になるが、その間の命令違反は直接注意しただけでもこれで4回目だ」

「……」


「それから、もっと決定的なのはお前が臆病だからだ。敵の攻撃を食らった後、お前は怯えて動けなくなった。そんなことになっていなければ、あれほどの危機に陥る事もなかった」

「……」


「臆病自体は悪い事じゃあない。恐怖は正常な感情だ。無理やりなくそうとする必要はない。だが、恐怖で動けなくなるようでは冒険者には向かない。少なくとも、俺たちのような上を目指す冒険者には、な」


「で、でも、俺でも、役に立つことはあるはずです。皆に比べて弱いのは分かっています。でも、その代わり雑用とかは、出来る限り自分が率先してやるようにしています。それは、評価してください。命令違反はすみませんでした。もう二度としません。だから、俺も一緒に冒険をさせてください」


「他の者の分まで雑用をしているというのは、褒められたことではない。雑用は誰でも出来るようになっているべきだからだ。

 冒険者稼業では、雑用程度といって軽んじる事はできない。細かい準備が仕事の成否や死線を分ける事もありえる。だから、それを誰か1人に任せきりにするべきではない。


 前にもそうはっきり言って、勝手に人の分まで雑用をするなと言ったよな? それなのに、お前はそれを無視して、未だに勝手に他の者の分まで、雑用を終わらせようとする。他の皆にとっては、それはむしろ迷惑なんだ。

 実際、お前が勝手に雑用をしようとしているのに気付いた時には、皆それを止めている。つまり、お前のその行いは評価するどころか、むしろ失点だ」


「そ、そんな……」


 口ごもるアクセルに対して、シオンの左隣りに座っていた魔術師の男――ユーゼフという名だった――が、諭すようなゆっくりとした口調で告げる。


「あなたを除名処分にするのは、シオンの優しさ故なのですよ。

 確かに、あなたは弱すぎるわけではない。実際、場合によっては戦力になっている部分もあります。

 もしも本当に今後は命令違反をしないなら、役に立つ場面もあるでしょう。だから、損得を考えるなら、あなたを一員のままにしても良い。


 しかし、そうやってこのパーティの一員として戦い続けた場合、あなたが死ぬ可能性も高くなる。私たちは、ぎりぎり勝てるかどうかという強敵とも頻繁に戦うのですから。そんな時に、技量が劣るあなたが真っ先に死ぬ可能性は高い。

 そして、あなたは死ぬ覚悟も出来ていない。そんなあなたは、このパーティにいるべきではない。それが除名の理由です」


「ですが……」


 尚も何事か抗弁しようとするアクセルに向かって、ユーゼフが更に告げる。


「もっとはっきり言いましょう。私たちは、冒険の中であなたを見捨てる事や捨て駒に使う事も出来る。それが、損得で考えた場合の、最もパーティの役に立つあなたの使い方です。

 もちろん、シオンも私たちも、そのような事をするつもりはありません。しかし、戦いの中で見捨てないという事は、あなたが足手まといになるという事でもある。

 実際、前の戦いで命令違反をしたあなたが殺されそうになった時、シオンはあなたを助けた。あれがなければ、私達全体があれほどの危険に陥る事もなかった。あなたは、既に足手まといになっているのです」


「……」


 アクセルは反論の言葉を失った。

 そのアクセルに向かって、またシオンが告げる。


「お前たちが加入する時にも言った事だが、もう一度言わせてもらう。

 俺たちは、日々の暮らしの糧を得るために冒険者をしている訳じゃあない。上を目指すためだ。英雄級冒険者に、更にその上の伝説級冒険者になる事を目指している。その為には、確実に勝てるような弱い敵とばかり戦っているわけにはいかない。勝てる確証がない強敵にも挑む。そんな戦いを経なければ本当に強くなることは出来ないからだ。


 そんな戦いに挑む以上、死ぬ可能性は当然あり得る。技量に劣るお前は特にその可能性が高くなる。それなのに、お前には死ぬ覚悟はなく、死を意識すると恐怖で動けなくなる。

 そんなお前を抱えて戦うことは出来ない。


 お前は、お前に見合った形で仕事を探すべきだ。お前は、一般的に考えれば弱いわけではない。俺達について来られないだけだ。だから、今の自分でも余裕を持って勝てる敵だけを相手にする仕事を選べば、安定して暮らして行ける。

 或いは、冒険者を辞めて他の仕事を探してもいい。その方がお前のためだ。


 いいか、もう一度言う。

 俺たちと共に戦うという事は、死ぬ可能性が高い戦いに挑むという事だ。お前にその覚悟があるのか?」


「……わ、わかりました」


 アクセルは、ついにそう告げ、除名を受け入れた。

 そして、シオンの右隣に座る女神官に目を向ける。アクセルと同年配で長い金髪の美しい女だった。


「クリスタ、そういう事だから、荷物をまとめよう。今のまま同じ宿にいるわけにも行かないだろうから」


 アクセルはそう言った。

 クリスタという名のその女神官は、アクセルの幼馴染で共に故郷から王都にやって来て冒険者になった間柄だった。シオン達のパーティにも一緒に所属した。

 アクセルは、自分がパーティを抜けるなら、当然クリスタも一緒だと思っていたのである。


「いいえ、荷物をまとめるのはあなただけよ。アクセル」


 しかし、クリスタはそう答えた。

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