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第34話 それぞれの道を

 シオンとゼインが別れた日の夜。シオンは、元の自分の仲間たちを集めて話し合う機会を持った。

 仲間たちは、既にアークデーモンによる精神操作を解かれ、完全に正気に戻っている。そして皆、不甲斐なくも操作されてしまっていた事にショックを受け、意気消沈していた。


 そんな仲間たちに、シオンが事情を説明する。仲間たちは皆、シオンの言葉を信じた。

 自分達が操られていたという事を自覚出来ており、シオンの言葉は自分たちの状況を適切に説明するものだったからだ。

 その結果、更に意気消沈する仲間たちに向かって、シオンが言葉を続ける。


「今回の件は、大きな教訓になったと思う。分かっていた事だが、俺たちはまだまだ最強には程遠い。より強い者と遭遇すれば、操られたり、倒されたりしてしまう。今回は実際にそうなってしまった。

 もし、今回の経験に懲りて、今後は強敵と戦うような冒険はしたくないと思うようになったなら、そう言って欲しい。残念だが、このままパーティを解散しよう。だが、この経験も生かして、更に上を目指す気持ちがあるなら、また一緒にやっていきたい」


 魔術師のユーゼフが言葉を返す。


「それは、まだ私たちを仲間と認めてくれるという事ですか? あなたに、あんな態度をとってしまったのに」


「当然だ。あれが、お前たちの本心ではない事は分かっている。ただ、操られてしまっただけだ。それはアークデーモンの精神操作能力に抵抗できなかったという点で、皆の力不足を証明している。

 けれど、それだけだ。それは俺達が別れる理由にはならない。強者に抵抗できない事は当然あり得る。


 実際、アークデーモンの力に抵抗できなかったという点では、決闘で負けた俺も同じことだ。俺たち全員がまだまだ未熟だった。だから、俺たちは皆、もっと励まなければならない。ただ、それだけだ。

 そして、励むなら、俺たち全員で協力した方が良い」


「そう言ってもらえるなら、もちろん、また仲間に入れてください。私は、こんな一度の敗北だけで、上を目指すことを諦めるつもりはありません」


 続けて、女神官のクリスタも発言した。


「もちろん、私も。また一緒に冒険をさせてもらいたいと思います。私は、これからも、あなたと共に戦いたい。心から、そう思っています。冒険者としてだけではなく、1人の女としても……。

 また、あなたと共に歩むことを認めてもらえますか?」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。こちらこそ、一緒に居させてくれ。冒険の仲間として、そして、個人的なパートナーとしても」


「はい。よろしくお願いします」


 こうして、シオンとクリスタは同じパーティの仲間と言うだけではなく、今もまだ恋人同士でもある事を互いに確認した。


 他のメンバー達も、次々と共に冒険を続けたい旨を表明する。

 それを受け、シオンがまた告げた。


「ありがとう、皆。なら、俺たちはまだ仲間だ。

 前から言っているとおり、この関係がずっと続くとは限らない。実力に差が出るようになれば、否応なくパーティから抜けて貰う事になる場合もある。だが、少なくとも今は、皆で上を目指そう。

 とりあえず、今日はみんなで飲もう。パーティ再結成の祝いだ」


 そうしてシオン達は、今一度結束を高める事を期して、宴を共にすることとなった。




 しばらくの時が過ぎ、シオン達の宴は解散となった。ただ、クリスタだけはシオンの下に残っている。そのクリスタがシオンに告げる。


「シオン。もし良ければ、今夜はあなたの部屋で、共に過ごさせてもらえませんか?」


 年頃の男女、それも恋人同士が同じ部屋で夜を過ごす。その意味する事は明白だ。


「いいのか?」


 シオンはそう聞いた。

 シオンとクリスタは恋人同士だが、まだ肉体的な関係を結んではいない。付き合い始めて間もないのに、その様な関係に進むことをクリスタが躊躇ったからだ。

 しかし、今はそのクリスタの方が誘ってきた。


「はい。今回、私は危うくアクセルに犯されるところでした。女の身で危険な冒険者を続けるなら、今後も貞操の危機に晒される事もあるでしょう。そんな事になる前に、愛するあなたに捧げたい。心だけではなく、身体も。そう思っています」


「嬉しいよ。クリスタ。俺も、本心を言えば、君との関係を望んでいる」


「私も、です……」


 2人は、しばらく見つめ合うと、軽く唇を重ねる。そして、2人で連れ立ってシオンの部屋へと向かった。続きは2人きりになってからだ。

 こうして、シオンの現在の人間関係も、新たな段階に進むこととなった。




 同じ夜、ゼインは1人、酒場で酒を飲んでいた。

 ゼインはソロで活動する冒険者だ。それは、彼の特殊な仕事の選び方に理由がある。


 強くなるために足掻くというゼインの言葉に嘘はなく、彼は自分が強くなるための糧になるような仕事を選んで受けていた。それは概ね危険なもので割にあわない仕事である事も多い。時には採算度外視で仕事を受ける事すらもある。

 そんな仕事に、他人をつき合わせるわけにはいかない。ゼインはそう考えていたのだ。


 そんなゼインに、声をかけて来る者があった。


「ゼインさん、今日会えて良かった。しばらく見かけなかったんで、探していたんです。また手助けしてもらえませんか?」


 ゼインが声のした方を向くと、そこに居たのは4人の若い男女だった。全員がまだ10才代のように見える。

 その者達は、全員冒険者で、以前ゼインを助っ人として臨時メンバーに加えて冒険に臨んだことがある者達だ。


「ぬるい仕事をするつもりはねぇぞ」

 

 ゼインはそう答える。


「ぬるいどころか、結構やばいんです。予想外の事があって、俺達だけじゃあとても解決できそうにないんです。また、助けてください」


「詳しく言ってみろ」


「はい、実は……」


 そう言って若い冒険者たちは、ゼインに状況を説明し、助力を乞う。

 ゼインは、確かにソロで活動していた。だが、別に他の冒険者たちとの関係を断っている訳ではない。時には臨時で他のパーティに参加するなど、交流もあった。

 

 そんな交流がある冒険者達の中には、ゼインの事を嘲笑する者もいる。

 ひた向きに強くなることを求めて努力を続けながら、思うように強くなることが出来ないゼインの事を蔑むような者達だ。


 だが、そんな者達ばかりではない。ゼインの事を認める者もいる。それどころか、尊敬する者も。

 ゼインは確かに、シオンに比べれば才能がなかった。しかし、全くの無能という訳ではない。そんなゼインのひた向きな努力は、才能に恵まれた者達と比べてしまえば見劣りはするものの、それでも確実な成果を上げていた。

 

 そんな成果を認め、尊敬する者もいたのである。そして、若い冒険者を中心に、ゼインの事を頼りにしている者達もいる。

 ゼインもまた、シオンのパーティから追放されたあと、新たな人間関係を築き、彼なりの人生を歩んでいるのだ。




 シオンが仲間だったアクセルを追放した事を切っ掛けにして起こった事件により、シオンとゼインの道は一時交わり、2人はしばし共に歩んだ。

 結局、その道は再び別れ、今、2人はまたそれぞれの道を進む。


 しかし、今回の一時の同道は、2人にとって無駄ではなかった。

 久方ぶりに言葉を交わし、冒険を共にした2人は、それぞれ己の目標を再確認し、それを目指す決意を新たにした。

 彼ら2人は、今後も互いを意識して、迷うことなく己の道を進むことだろう。例え、その道が別の道であっても。

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