第32話 勝利宣言
戦いが終わった後、ゼインがシオンに声をかけた。
「やったな、シオン。作戦勝ちって奴だ。まあ、心配はしていなかったが」
ゼインは、シオンが命を賭けて戦いに臨んでいた事を知らない。シオンはあえて伝えていなかったし、ゼイン自身ヘルハウンドと必死になって戦っていた為にシオンの戦い方に違和感を持ったりもしていなかった。
「ああ、ありがとう」
シオンは後ろめたさの様な感情を抱きつつそう答える。
ゼインに自分の真意を伝えなかったという事は、要するにゼインを戦いにおける相棒として認めていなかったという事でもある。そのように扱った事に若干の罪悪感を持ったのだ。
だが、シオンとゼインの間には戦士として大きな隔絶がある。だから、相棒として不適格なのは単純に事実でもあった。
シオンは、“伝道師”に向かっても声をかけた。
「ありがとうございました伝道師さん。それで、アークデーモンの魂は、今はその封具の中にいるという事ですか?」
「ああ、間違いない。封印は確実に成功した。まあ、前にも言った通り、封印とは言っても、外と意思疎通は出来るのだがな。
流石に今は、私たちが正体を知っている事を察したのか、だんまりを決め込んでいるが、周りの様子くらいは把握しているはずだ」
“伝道師”は、手に持った紫貝の封具を軽く振りつつそう答えた。
“伝道師”の言葉を聞いたシオンは、その封具に向かって告げる。どこまで通じるか分からないが、今回の件の本当の敵といえるアークデーモンに、言っておきたいことがあったのだ。
「アークデーモンのビージャニア。聞こえているかどうかわからないが、一応言っておく。
貴様の力は俺よりも強かった。だが、貴様が道具として使った男。アクセルという名のあの男の出来が悪すぎた。
出来損ないの道具を使った為に戦いに負ける。そんな事も当然あり得る。貴様の敗因はそれだ。だから、今回の戦いは俺の勝ちだ」
それは、シオンの勝利宣言だった。彼は、己を一敗地にまみれさせたアークデーモンに対して、今度は勝ったと、勝利を宣言したかったのである。
アークデーモンの答えはなかった。
代わりに“伝道師”が答える。
「その通りだ、精霊剣士殿よ。『自分』というものさえしっかりと確立しているなら、他者に依存したり、自分の主導権を他者に渡したりしていないなら、その自分が『どのような道具を使うか』は、自分の裁量の範囲内だ。
優れた道具を用意して自分の力をより強くするのも、劣った道具を用いて実力を発揮できなくなるのも、どちらも己の力の延長というものだ。
精霊剣士殿は、本当の敵はアークデーモンだと正しく認識し、そのアークデーモンが道具として使っている者が、ある点で著しく劣っている事に着目して、そこを攻めた。そして、自分が出来る事の全てを用いて打ち勝った。これは紛れもなく、アークデーモンに対するそなたの勝利だ。
もちろん、ただ道具として使われただけのあの愚者にも勝ったのは言うまでもない」
そして、気を失ったままのアクセルを指さし、更に言葉を続ける。
「もっとも、本気の殺し合いと言いながら、最後の最後で慈悲をかけたようだが」
“伝道師”は、シオンが意図的にアクセルを殺さなかった事を見抜いていた。
シオンは、弁解のようなことを口にする。
「ええ、最後の一撃を与える時に、私は手を抜いてしまいました。一度は仲間と思っていた者を、殺す踏ん切りがつかなかった。これは過ちだと思いますか?」
「いいや、そうは思わない。強者は何をしても良い。自分の強さの範囲内ならば、な。
弱者を無慈悲に惨殺するのも強者の特権なら、弱者に慈悲を垂れて悦に入るのも強者の特権だ。勝ったそなたがそうしたいと思ったならそうすればよい。
ただ、慈悲をかけた結果、足元をすくわれる事だけはないように気を付けるのだな」
「わかりました。ご忠告、肝に銘じておきます」
「さて、それでは後始末にかかろう。とりあえず、あの愚者を縛り上げて官憲に連絡。それから、賢者の学院にこの封具の事を説明して、厳重に管理させよう。それが、現状では最も安全な方法だろう」
「そうですね」「ああ、分かった」
シオンとゼインは、そう告げて、実際に後始末のために動き始めた。




