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第28話 我が儘

(とりあえず、治療師さんの考えが正しかったとみていいだろう。確かに、暗黒神アーリファの名を騙るデーモンが元凶だといえそうだ)


 諸々を考えあわせたシオンは、そのように判断した。

 そう考えた方がずっと現実的だと思ったからだ。


 もしも“治療師”の言葉がシオン等を騙すためや或いは他の目的の為の虚言だったとするならば、“治療師”はその虚言に真実味を持たせるために、予めこの古代の遺跡を見つけておき、そこにケルベロスの特殊個体を配置し、更にこのような魔道具を用意して、それを用いて意図的に情報を与えたことになる。


 そんな事を、“治療師”が行っていたと考えるのは、殆ど誇大妄想とも言うべきものだ。ここで得た情報は真実のものだったと考えるべきだろう。そして、その情報は全て、“治療師”の想像を補強するものだったと言える。即ち、“治療師”の想像が正しかったと考えた方が現実的だ。


(といっても、全てが正しいとは限らない。例えば、この封具があれば、簡単にアークデーモンを封印できるというのが、事実かどうか。それははっきりしない。だから、本当にこれで事態が終息されるとも限らない。

 だが、どちらにしても、俺のしたい事、いやするべき事は変わらない)


 シオンはそう考え、いくつか確認する事にした。


「この情報が事実なら、アークデーモンが解放された後も、その能力はあくまでもトマーシュという男の意思で扱われたという事になります。つまり、今倒したケルベロスの特殊個体を呼び出したのも、トマーシュの意思だったという事ですよね。なぜそんな事をしたのでしょう?」


「アークデーモンに誑かされたというだけの事だろう。適当に理由をつけてこの場所を守る必要があると思わせた。騙した方法までは分からないが、何人もの人間を操った経験があるアークデーモンならばいくらでも手はあったはずだ」


「では、私たちがトマーシュと戦った時に、ケルベロスを召喚しなかった理由は?」


「単純に出来なかったのだと思うぞ。本来、召喚術というのはそれなりの準備をして時間をかけて行うものだ。それを省略して呪文ひとつで召喚するとなれば、対象は限られる。このアークデーモンの能力では、即席で召喚できるのはあの5体が限度なのだろう。実際、それだけでも大したものではある。それ以上は無理だったと考える方が妥当だ」


「なるほど。納得しました……」


 そう告げると、シオンは心中で決意をより強くし、そしてそれを気取られないように注意しながら、また“治療師”に向かって口を開いた。


「確かに、これなら事態は終息したのも同然ですね。なら、私が多少の我が儘をしても、問題はないですね」


「我が儘? 何の事だ?」


「私は、もう一度アクセルと、いやアクセルが使うアークデーモンの力と、一対一で戦いたいと思っています。アークデーモンを封印する前に、今一度戦う事。それが私の我が儘です」


 “治療師”が言葉を返す前にゼインが告げる。


「一回やって負けたばかりだろ。それほど日も経っていないのに、また戦っても同じだろ?」


「いや、あの時は、あくまでも試合だと思っていた。だから、戦い方も制限していた。今度は、本気の殺し合いで戦いたい」


「危険だ! いくらお前が本気になっても、アークデーモン相手に1対1は分が悪すぎる。それに、さっきお前も言っていただろ、そいつは魔物を召喚できる。1対1にすらならねぇじゃねぇか」


「魔物の召還も含めて敵の能力だ。それも含めて、戦いたい。それに、ケルベロスが即座に召喚されないなら、召喚されるのがオストロスとヘルハウンドだけなら、まだ、戦いようはある。俺は精霊術師でもあるからな。ケルベロスは即座には召喚されないと聞いたからこそ、戦いたいという気になったんだ」


「そんな事を言って、死んじまったら元も子もないだろうが。今回は、確実に解決できる方法があるんだから、それで解決しちまえばいいだろう?」


「確実に解決できる方法があるからこそ、挑むんだよ。俺が負けても、殺される前にデーモンを封印して貰えれば、死なずに済む。要するに、命の安全を確保した上で、強敵に挑むことが出来る。こんな機会を逃すべきじゃあない。そうだろ?

 治療師さん、あなたなら、そんな機を見計らって封印する事も可能ですよね?」


 “治療師”が答える。

「ああ、可能だ。その一撃を食らえば死ぬ。という、その直前に封印することが出来る。まあ、精霊剣士殿の考えも妥当だな。強さを求めるなら格上に挑むことも時には必要だ。しかし、死んでしまっては元も子もないというのもまた事実。

 命の保証がある状況で格上に挑めるなら、そんな機会は逃すべきではない。


 しかも、一対一で戦える機会もきっと直ぐに訪れるだろう。そろそろ、アークデーモンが生贄を求め始めるだろうからな。生贄の儀式を行う時には、当然1人になる。そこを襲えばよい。そうすれば、勝ってその愚者を殺しても、罪に問われない状況を作る事も可能だ。おあつらえ向きだな。

 もっとも、死ぬ危険がないのだから、本気の殺し合いとは言わないがな」


「そうですね。それで行きましょう。治療師さんお願いします」


「ああ分かった」


「……その戦いには、俺も付き合わせてもらうぞ。もちろん、邪魔をするつもりも、加勢するつもりもない。だが、最後まで見届けさせてくれ」


「……分かった。この3人で、この一件を終わらせよう。

 なら、早速王都に戻って準備だな。出来るだけ急ごう。出来れば生贄の犠牲者を出したくない」


「ああ、確かに、ここでこれ以上得るものはないだろう。承知した」


「分かったぜ」


 こうして、事の真相と、解決するための魔道具を手にしたシオン達は、速やかに王都に戻った。

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