第27話 封印されていたもの②
「しかし、前に、誰かに与えられた力は、与えられた者の力ではなく、与えた誰かの力だと言ったが、今回はそれどころではなかったな。デーモンそのものを使役して、その力を行使していたとは。
しかも、そのデーモンも想定していたよりも遥かに小者だった」
「既に何人もの被害を出しているのに、小者ですか?」
「そうとも、少なくとも能力は思っていたほどではない。
考えても見よ、他者に能力を与えるなどという事が出来る者が弱いと思うか? 少なくとも、能力を与えられただけの者よりも、与えた者の方が数段強いと考えるべきだろう。要するに、黒幕であるデーモンの強さは、偽暗黒神信者や愚者の強さなど及びもつかないほどに強大だろう。と、私はそう考えていた。
だが、実際には黒幕のデーモンの力そのものが使われていた。つまり、偽暗黒神信者や愚者の強さは、そのままデーモンの強さだったわけだ。要するに、私の想定よりも数段低かったという事だ。
それに、デーモンの気配が一向に感じ取れないのも不審に思っていた。私にはデーモンの気配を感じとる術がある。ところが、今回はいくら探し回っても、デーモンの気配が一向に感じ取れなかった。
だから私は、今回の件に関わっているデーモンは、私の感知の術を超えるほどの優れた身隠しの技術を持っているのだろうとも考えて警戒していた。
だが、実際には単純に実体を持たぬ魂だけの存在だったから感じ取れなかったという訳だ。この点でも、想定していたよりも遥かに小者だ。
まあ、それやこれやと、想像と違っていた部分もあるが、デーモンが関与していたという点は間違っていなかった。
そして、この紫貝の封具を手に入れたのは想定以上の成果だ。
ここに置いたままにして番人を付けていたのは、前の時には、肌身離さず持っていたことが仇になって正体を見極められ、封印されてしまった事に懲りたからなのかな?
まあ、どちらにしても、これを手に入れたからには、最早事態は解決したのも同然だ。封印の術式は完全な状態で残っているから、近くで封印対象の固有名詞とごく簡単な呪文を唱える事で即座に封印できる。
その、アークデーモンの名もこの魔道具が教えてくれている。ビージャニア。それが今回の件の元凶となったアークデーモンの名だ。
まあ、封印しても、外界と意思疎通できる事は変わらないから、厳重に管理する必要はあるが、賢者の学院にでも事情を説明して保管させれば、まずは安全だろう」
「なるほど、確かにそうですね……」
シオンはそう告げると考えこんだ。
賢者の学院とは、魔術師達が運営する教育・研究機関である。そして、古代魔法帝国における魔術師達の残虐極まりない行いを省みて、魔術師は政治や軍事に近づいてはないという規律を作っている。つまり、国家とは独立した存在なのだ。
そして、賢者の学院は、魔道具の保管や管理にも長けており、危険な魔道具は賢者の学院に持ち込まれるのは通例となっていた。犯罪に関わるようなものも官憲の了承の下に賢者の学院に送られる事が多い。
しばらくしてから、考えをまとめたシオンは、“治療師”に対して要望を口にした。
「その、治療師さんがこの封印具から得た情報というのは、私たちが直接知ることは出来ますか?」
シオンはそう問う。彼は、“治療師”が語った事が事実か、自分でも確認したいと思っていた。
「もちろん可能だ、やり方を教えてやろう」
そう告げると、“治療師”は、紫貝の封具の発動方法をシオンとゼインに教える。その通りに操作すると、シオンとゼインの脳裏にも直接情報が伝えられた。それは、“治療師”の説明と概ね同じものだった。
情報を得た後、シオンはまた“治療師”に問いかけた。
「これが事実だとすると、デーモンの動機は復讐という事なのでしょうか? 考えようによっては、随分ひどい目にあっているとも言えそうですが」
シオンがそんな事を問うたのは、見方によってはデーモンも古代魔法帝国の魔術師による被害者であると思い至ったからだ。
何しろこのデーモンは、肉体から分離されて魂だけを召喚された。その時点で実質的に肉体を殺されたも同然だ。しかも封印されたうえで、他者の意思によって使役される事を強制された。相当激烈な怒りを抱いてもおかしくない状況ではある。
「さあな、私もデーモンが魂だけ召喚されたなどという事例を見聞きするのは初めてだ。だから、魂だけにされたデーモンがどのように考えるかなど分からない。だが、実際の行いは他のデーモンたちと似たようなものだ。だから、動機も他と同じなのではないかな」
「その動機というのは何でしょう?」
「娯楽だ。デーモン共は、悲劇をまき散らすことを楽しむ。楽しみを得るために悲劇を起こす。奴らにとっては、この世界の住人が怒り、悲しみ、絶望する様は、よほど面白いらしい。このデーモンの行動原理も同じように思える。
どちらにしろ、デーモン共の精神構造は我々とは異なる。我々の感覚では理解出来ない面も多々ある。そして、理解する必要もない。デーモンなどただ討滅する事だけを考えればよいのだ」
“治療師”は突き放すようにそう告げる。
彼女の中では、デーモンはただひたすらに討伐対象であり、デーモンの立場を慮るつもりなど更々ないのだ。
「確かに、そうですね」
シオンもそう応じた。
仮にデーモンにもデーモンの思いがあったとしても、既に多くの被害を出している以上野放しには出来ない。
そしてシオンは、改めて今得られた情報を吟味し、考えをまとめる。




