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第26話 封印されていたもの①

 “治療師”は、シオンとゼインにその封印具と封印されていた存在についての説明を語る。


「この封具に封じられていたのはやはりデーモン。上位種のアークデーモンだ。だたし、封印されていたのは魂だけだ。召喚の儀式を失敗して、魂だけを異世界から呼び出す事になったのだそうだ。


 魂だけの状態では、アークデーモンは何の力も振るうことが出来なかった。そのデーモンが扱える能力は、肉体に依存するものばかりだったからだ。

 それでも召喚主は、せっかく呼び出したのだから出来る限りは利用しようと考え、まず、魂だけの存在を安定的に捕らえておくために、この紫貝の封具を作らせた。そして、封印したままでも念話が可能な設定にした。知識だけでも得ようと考えたからだ。


 そうやって扱っている内に、誰かの身体にアークデーモンの魂を憑依させることで、アークデーモン本来の力を使う方法が見出された。

 憑依という方法で肉体を得る事によって、力を行使できるようになったわけだ。


 召喚主は、アークデーモンの魂に新たな支配の術式を施し、その上で、信頼する召使にアークデーモンの魂を憑依させ、その力を扱わせるようにした。アークデーモンの力の行使は、当然憑依された者の意思で行えるように設定された。

 いわば、アークデーモンは能力の出力装置として、憑依された者の意思に従って、ただ使役されるだけの存在になったわけだ。


 そして、召喚主は、安全策として紫貝の封具に強力な保護の魔術をかけて壊れないようにし、更に簡単な合言葉でいつでもアークデーモンを封印できるようにした上で、召使に携帯させた。

 その身に憑依させたアークデーモンを使役するなかで、何か支障が生じれば、即座にアークデーモンを封印できるようにする為だ。


 召喚主はこのやり方でアークデーモンを安全に管理できると考えた。だが、召喚主の認識は甘すぎた。そのアークデーモンを憑依させた召使は、その後主である召喚主を殺害した。はっきりとは分からないがアークデーモンに唆されたのだろう。


 術師である召喚主を殺したことで、支配の術式が緩んだ。誰かに憑依しなければ力を行使できない事、そして、力の行使は憑依されている者の意思による事。それは変わらないが、アークデーモンの意思で、力を使えないようにすることは可能になったのだ。出力を止める自由だけは手に入れたという事だな。


 それも利用して、アークデーモンは憑依した相手を操り、何度も乗り換え、多くの者を惑わし、必要もないのに生贄を求めた。

 それも、わざわざ相手が尊いと思っている者を、あえて殺させた。デーモンにはよくある行動だ。おかげで、相当の被害が出た。その頃から既に暗黒神アーリファを騙っていたようだ。


 しかし、最初にアークデーモンを召喚した召喚主の弟子が、アークデーモンの封印に成功した。

 当時アークデーモンは、憑依した者にこの紫貝の封具を携帯させていた。自身を封印する魔道具を、目の届く所において管理しておきたかったのだろう。

 召喚主の弟子は、その紫貝の封具を見つけて憑依されている者を特定した。そして隙を見て封具を奪い、これを用いて速やかにアークデーモンを封印したのだ。


 アークデーモンを危険と考えた召喚主の弟子は、紫貝の封具に封印されたままのアークデーモンをこの場所に置き、入り口を封鎖した。

 そして念のために、紫貝の封具に、簡単な操作を行う事で、封印されたアークデーモンの説明などを知ることが出来る機能を設定した。偶然手にした者が、アークデーモンに誑かされないようにと考えての事だ。

 その機能のおかげで、今私もこのような事情を知れたという訳だ」


 シオンが問い返す。


「……つまり、封印と言っても、何もできないのではなく、外界の者と念話とやらで意思疎通できる状態で、この場に置いたという事ですか? だから、トマーシュという男がデーモンに誑かされて封印を完全に解いてしまった、と」


「そういう事だろうな。簡単な操作で事情を知る事が出来ると言っても、それは古代魔法帝国時代の“簡単”であって、現代の者達には簡単には分からないからな。事情を知らないうちに、先にデーモンに語り掛けられ、愚かにもその言葉を信じてしまうという事もあり得るだろう」


「なんて、半端な事を。危険なデーモンだと分かったなら、さっさと送還すべきだし、せめて外界と全く接触できないように厳重に封印しておけば、こんな事にならなかっただろうに……」


「恐らく、弟子には師ほどの技量がなく、そういうことは出来なかったのだろう。或いは、いずれは自分でもアークデーモンを利用したいと思ったのかも知れないな」


「だとしても、せめてもっと厳重に隠しておくべきだ。それこそ迷宮の奥深くだとか、常人では立ち入れないような場所に。こんな、ただの一本道の先の部屋に置いておくなんて」


「どうかな? 大げさな事をした方が目立つという事もあるぞ。大掛かりな封印用の施設を作るなら、それだけ時間もかかり関係する人数も増えるからな。

 何かを隠したらしい、などと噂になりかねない。そのくらいなら、簡単な隠し場所を、さりげなく作って埋めておくというのも悪くはないのではないか?


 実際、この地に何かがあるなどという話はどこにも伝わっておらず、必然的に誰も封具を手にすることもなく、封印後千数百年が経っていたのだ。偶然地滑りが起きなければ、今も見つかっていなかっただろう。そう思えば、これは割合と成功した隠し方だったのではないか?

 まあ、どちらにしても、今更古代の魔術師の行為をどうこう言っても意味はない。今後の事を考えよう」


「……」

 

 素直に納得は出来なかったが、これ以上言い募っても意味がないのは事実だ。そう考えてシオンは口を噤んだ。


 沈黙したシオン達に対して、“治療師”は更に説明を続ける。

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