第15話 治療師が住む家
しばらくの後、シオンとゼインは、ある戸建ての家の前に立っていた。“治療師”について調べた結果、今はその家に住んでいる事が分かったからだ。
シオンが、入口の扉をノックをする。
「はい」
返答は、意外にも若い女の声だった。
「だれですか?」
そう続ける声は、若いというよりも幼く聞こえた。ただ、やけに抑揚がなく無機質な口調だ。
(まさか、家を間違えたのだろうか?)
そう思いつつもシオンはドア越しに告げる。
「私は、シオンという名の冒険者です。少し前に治療師さん、すみませんお名前を聞いていないのですが、治療師さんに事件解決の手助けをしていただいた者です。
治療師さんとお話をさせていただきたいと思ってやってきました。治療師さんは御在宅ですか?」
「まっていてください」
幼い声はそう返す。どうやら家を間違えたわけではないようだ。
少し時間が経ってから、また声がした。
「会うそうです。入ってください」
そして、扉が開かれる。
「君は!」
シオンは驚いて思わずそう告げた。扉を開いた童女に見覚えがあったからだ。
その童女は、実の父であるトマーシュによって生贄にされそうになっていた、あの娘だったのである。
「チリョウシさんは、こっちです」
童女は、シオンの事が分からないようで無機質な口調でそう告げると、奥の方に向かって歩く。
シオン達は、ともかく童女に続いた。
童女はある扉の前まで進んで声をかけた。
「来てもらいました」
「入って貰ってくれ」
そのしわがれた声は、確かに“治療師”のものだ。
童女が扉を開けると、その先は真ん中に机が置かれた部屋で、机の向こう側の椅子に“治療師”が座っていた。室内だというのに、ローブを羽織っている。流石にフードは被っていなかった。その露わになっている顔は、シオンとゼインには白髪の品のいい老婆に見えた。
“治療師”が、シオンとゼインに向かって声をかける。
「久しいな頭目殿よ。お連れの方も一緒か。まあ、話があるというなら聞こう。2人とも座ると良い」
“治療師”はシオンの事を頭目殿と呼んでいた。最初に会った時にシオンが冒険者パーティの頭目だったからだ。
シオンは一応その事を訂正した。
「すみません。頭目殿は止めてください。パーティの仲間たちに見捨てられていて、今はソロの冒険者ですから。一緒に来てもらっているのは、ゼインという名で、その、知り合いではありますが、パーティの仲間という訳ではありません」
シオンの言葉を受けて、ゼインも小さく頷いた。
「私の事は、よろしければただのシオンと呼んでください」
「そうか。では、そうだな、そなたは剣で戦うだけではなく精霊術も使えたから、精霊剣士殿と呼ばせてもらおう。お連れの方は、まあ、とりあえず戦士殿と呼ばせてもらう」
「……構いません」
「ああ、何とでも呼んでくれ」
シオンとゼインはそう答える。呼び方に拘るつもりはなかった。
「では、改めて座ってくれ」
“治療師”はそう告げ、更に扉の近くにたたずんでいた童女にも声をかけた。
「女童よ、そなたも入って来てこちらに座るといい」
そして手招きをする。その手には、皺だらけの手袋がはめられていた。
「はい」
童女はそう答えて“治療師”の右隣の椅子、童女にとっては大きすぎるその椅子に腰かけた。
シオンは“治療師”の言葉に従って、“治療師”の対面にある椅子に座りながら、その目は童女を追っていた。
そして、“治療師”に問いかける。
「その娘は、あの時の娘ですよね。どうしたのですか?」
「身寄りがなくなってしまったそうなので、私が引き取ったのだ。孤児院送りも気の毒と思ったのでな」
「そうですか」
そう返しながら、シオンは内心で思っていた。
(孤児院に引き取られるのと、この人の世話になるのと、どちらがましか分かったものではないな)
“治療師”は童女に向かって告げる。
「女童よ、この精霊剣士殿は、そなたを助けてくれた者だ。挨拶をするとよい」
「はい。私は、クレアと言います。助けてくれて、ありがとうございました」
相変わらず、平坦な声だった。“治療師”が更に告げた。
「何から、助けてもらったのだ?」
「ッ!」
クレアは目に見えて動揺した。しかし、それでもどうにか言葉を続ける。その声は、今までと違い震えていた。
「お父さん、から、私を、お父さんに殺されそうになった私を、助けてくれて、ありがとうございました」
「どういたしまして」
シオンはそう告げた。クレアと“治療師”やり取りにどう応えて良いかわからなったが、ともかく言葉を返したのだ。
“治療師”は満足げな様子で、クレアに述べる。
「うむ、良くできた」
それから“治療師”は、改めてシオンに声をかけた。
「さて、それで、話というのは何かな? その女童の事を聞きたかったのか?」
「いいえ、違います。以前、手助けをしていただいた、その、誘拐犯を倒した事件の事についてです」
シオンは若干口ごもりつつもそう告げる。
直ぐ近くにその事件の被害者、それも実の父親に殺されそうになるという衝撃的な目にあったクレアがいる状況では話しにくかった。だが、躊躇っている場合ではいと割り切って話を続ける。




