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第14話 ずる野郎

 2人で酒を飲み始めると、ゼインはシオンを嘲るような発言を繰り返した。だが、シオンには、その言葉は自分を叱咤激励するもののように聞こえていた。自分に対する悪意を感じ取れなかったのだ。

 実際ゼインの言葉は、やがてシオンから名誉と仲間達を奪ったアクセルに対する非難へと変わって行く。


「だいたい、何なんだ、アクセルとかいう奴は! 追放されたとたんに強くなるなんてのは、どういうことだよ。強いなら、最初から実力を出せよ。

 それとも、本当に追放された直後に、突然強くなったとでも言うのか? どんな偶然だ! そんな偶然があってたまるか! そんな事が、そんな事が、実際に起こるなら、起こる事があるなら、何で、俺には起こらないんだ!

 俺だって強くなりたい。強くなって、お前を見返してやりたい。ずっとそう思っていた。なのに、俺は強くなれないで、アクセルとかいう奴は急に強くなる。何でだ! どんなずるをしやがった! ずる野郎め!」


 そんな事を叫んでいたゼインだが、やがて酔いつぶれてしまった。

 ゼインは酒好きだが余り強くない。そのため、良く飲みに誘ってくるが、先に酔いつぶれてしまう。それは昔は良くある事だった。


 何度も声をかけたがゼインが起きる気配はない。結局シオンは、ゼインを自分が借りている宿に連れて行く事にした。ゼインが何処に住んでいるのか知らなかったからである。


 宿に着いたシオンは、未だに起きる気配もないゼインをベッドに横たえた。


「気持ちよさそうに眠りやがって、いい気なもんだ」


 ゼインの安らかな寝顔を見ながら、シオンはそう呟く。だが、別に怒っているわけではない。むしろその言葉からは親愛の情を感じる事ができる。

 実際、シオンは嬉しく思っていた。幼馴染で元親友のゼインに声をかけても貰い、随分久しぶりに酒を共にして、幾分気持ちが上向いていた。 


 シオンはまだそれほど酔ってはいなかった。彼は椅子に座り黙考を始める。


(しかし、『ずるをした』か、実際にそうなのかも知れないな)


 シオンは、アクセルについてゼインが語った言葉を思い出し、そんな事を考えた。

 今までシオンは、今回の出来事はアクセルに負けた自分が悪いと考えていた。アクセルが『ずるをした』など考える事は意識的に避けていた。

 負けた者が、勝った者に対して『ずるい』と叫ぶなど、正に負け犬の遠吠えそのもので、見苦しいと思っていたからだ。


 だが、ずるかどうかはともかく、どのような方法で急に強くなったのか。その原因を検討する事は必要だ。何しろシオンはこれから、アクセルに打ち勝ち、やり返し、全てを取り戻す為に行動するのだから。相手の強さの源泉を知るのはとても重要だ。

 そう思って考察を続ける。


(そういえば、アクセルと戦っている時、奴の動きをどこかで見たことがあるように気がしていた。何時だ? 俺は何時あの動きを見た?)


 しばらく考えて、シオンは答えに行き着いた。


(そうか、トマーシュだ。あの、自分の娘を生贄にした男の動きと似ている。武器が短剣とロングソードと全く違っていたからあの場で直ぐには気がつかなかったが、確かにあれは同じ動きだ。そういえば、あの時気になっていた事もある。まずは、それを確かめよう)


 シオンは、とりあえずの行動指針を決め、そして、椅子に座ったまま眠りに落ちて行った。




 翌朝、シオンのベッドでゼインが目を覚ました時、椅子に座ったまま眠っていたシオンも敏感に気配を感じて直ぐに目を覚ました。そして、首を振ったりしているゼインの様子を、黙ってほほ笑ましく見守った。


 やがて、ゼインは自分が見知らぬ部屋にいて、そして、同じ部屋にシオンもいる事に気付いた。ゼインはシオンに声をかける。


「悪りぃ。迷惑をかけちまったようだな」


「別に構わないさ。酔っぱらったお前の世話をするのは、昔から俺の役目だっただろ。昔を思い出して、懐かしかったよ」


 バツが悪そうに頭をかいたりしているゼインに向かって、シオンが言葉を続ける。


「ところで、もし余裕があるなら。俺に付き合ってもらえないか? 昨日話した、アクセルの奴をやり込める為に、少し調べたいことがあるんだ」


 シオンはそんな提案をした。今更、そんな事を頼める間柄ではないが、久しぶりに気安く話すことが出来たかつての親友と、もう少し旧交を温めたかったのである。


「ああ、別に構わねぇよ。丁度暇だったし、な」


 ゼインはそう答える。

 その口調が少し嬉しそうに聞こえたのは、シオンの願望だっただろうか。


「で、調べるってのは、具体的に何をだ?」


「旅の治療師と名乗る女性と話をしたいと思っている。彼女は、多分何かを知っている」


 ゼインの問いに対して、シオンはそう答える。

 その口調は、厳しいものに変わっていた。あの“治療師”と話すことは、ある種の覚悟を必要とする。そして、上手く話せれば、きっと重要な情報を手に入れることが出来る。

 シオンはそう考えていたのだ。

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