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第12話 かつての親友

 その日の夜。シオンは、場末の酒場の一角で、1人で酒を飲んでいた。仲間たちから見捨てられた衝撃と絶望を、酒で誤魔化そうとしていたのだ。

 シオンは今まで、自分についてこられない者を何人も追放してきた。当然、逆の立場になれば自分が追放される事も覚悟していた。

 しかし、今回の出来事は余りに突然すぎた。彼はまだ、この出来事をまともに受け止める事が出来ていなかった。


 そんな、打ちひしがれ、うつむいていたシオンに声がかけられた。


「ざまぁねえな、シオンさんよ」


 嘲りに満ちた声だ。だが、シオンはその声に懐かしさを感じた。


 シオンが顔を上げ、声のした方を向くと、そこには居たのはシオンと同年輩の男だった。

 シオンよりも幾分背が高く、体格もがっしりとしている。短く整えられた栗色の髪。顔は凛々しいと評して良い造形だが、今は嘲るような笑みを浮かべていた。

 そしてその顔は、確かにシオンにとって懐かしいものだった。シオンはその男の名を呟く。


「ゼイン、お前か」


 ゼインという名のその男は、シオンの同郷の元親友にして、シオンが最初に追放した男だ。


「俺の名前を覚えていてくれたとは嬉しいよ、無様な追放者のシオンさんよ」


「忘れるはずがないだろう。話しかけてもらえたのは随分久しぶりだがな。何か、俺に用でも?」


「用? 用なんざあるわけねぇだろ。俺は、無様な手前を肴に酒を飲もうと思ってきただけよ。どうだ? 散々他人を追放してきて、とうとう自分が追放された気分は? ああ、今どんな気持ちだよ。シオンさんよ」


「最悪だ。惨めだよ。自分が情けない。だが、これも仕方がないことだ。俺が不用になれば捨てられる。分っていた事だ。お前が言うとおり、おれ自身が散々そうやって来たんだからな」


 達観したような、現状を受け入れているかのような台詞だ。


「ああ、何だと……」


 シオンの返答を受け、ゼインの声から嘲りの色が消えた。代わりに、強い苛立ちが露わになる。シオンの言葉が相当癇に障ったようだ。

 ゼインは、苛立ちを隠しもせずに言葉を続ける。


「で、手前、この後はどうするつもりだ?」


「故郷に戻るさ。家族のもとに戻って、畑でも耕しながら村の自警団にでも入らせてもらうよ。それに、田舎で子ども達でも相手に道場を開いてもいい。それが出来る位の腕はあるはず――」「ざけんなぁ!!」


 ゼインは突如激昂し、シオンを殴りつけた。

 シオンは、あえてゼインの拳を避けなかった。ゼインが自分を殴りたいなら殴らせようと思った。そして、その拳が自分にとって脅威ではないと思っていたからでもある。


 実際、ゼインに殴られても、さほどのダメージはなく、弾き飛ばされるような事もなかった。シオンは椅子に座ったままだ。

 だが、ゼインはそんなシオンの様子など無視して、大声を張り上げた。


「手前、俺を、どんだけ馬鹿にするつもりだッ! 追放されたら、田舎で楽隠居だぁ!? ふざけんのも大概にしろッ。俺は、お前に追放された後、お前を見返すために、ずっと努力して来たんだぞ。馬鹿にされても、蔑まれても、冒険者の職にしがみついて、惨めに、無様に、足掻いて、足掻いて、足掻いて来た。お前を見返すために、だ。

 それが、そのお前は、自分が追放されたら、あっさり全てを諦めて隠居!? それじゃあ、俺が、今まで足掻き続けて来た俺が、馬鹿みてぇじゃねぇかぁ。


 足掻け、足掻けよ。手前、悔しくねぇのかよ、あんな若造に馬鹿にさてよ、仲間に手のひら返されてよ。やり返してぇと思わねぇのか?

 何だ、手前は、村にいた頃の良い子ちゃんに逆戻りか? 俺たちが、何を夢見て田舎を出てのか、忘れたのか? あの人と、あのすげぇ人と同じ場所を目指す。遮二無二目指すんじゃあねぇのかよ。伝説になるんじゃあねぇのかよ。俺たちは、よぉ」


 その言葉は、確かにシオンに最初の気持ちを思い出させるものだった。


(そうだ、俺は、あの人に憧れて、あの人と同じように、いや、それ以上に強くなると、そう誓って冒険者になった)


 シオン達が言う“あの人”というのは、今から十年以上前に知り合った“伝説級冒険者”の事だ。その圧倒的強者との出会いが、シオンに上を目指させたのである。

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