交代
「――私は明日、再度王宮に向かう。改めて王家と騎士団に話をしなければならない」
父の言葉に私は返事をする。
「分かりました、父上。先ほどの件はお任せ下さい」
「ああ、頼む。場合によっては、当日私も出ることになるだろう。相手が相手だ。人員は、多くて困ることはないだろうからな」
「そうですか、分かりました。共に剣を振るうことにならないよう祈っています」
「ああ、そうだな。そう願うよ」
父が最後にそう締め括る。
そして、私たちは退室した。
♢♢♢
――『レイン ドウシタノ?』。
私は瞬きで、弟に訊く。
弟は、先ほどからあまり口を開いていなかった。
私が父と話している時も、ほとんど会話に加わろうとはしなかった。
――『ベツニ ナニモ ナイ タダ――』。
――『タダ?』
弟は、考える素振りをみせる。
そして、私に対して後で説明すると言ったのだった。
――『カンガエ マトマッタ トキ イウ』。
――『……? オケマル』。
一体どうしたというのだろう。
まあ、弟が後で話すというのだから、今訊いても迷惑になるだけだ。
とりあえず、今日はレッスンで疲れたから早めに休もう。
そう思い、私は弟と別れたのだった。
♢♢♢
翌日から私たちは学園を欠席することにした。
たとえ登校日であろうと、今は大事な時期だ。
『夜会』まで後一ヶ月ほど。
王族の誘拐を未然に防ぐため、私たちは当日に向けて念入りに準備を行わなければならなかった。
ヘリアン王子もサフィーア王女と共に、今頃から『夜会』の準備を本格的に始めていくはずだ。
お互い忙しくなるため決闘はしばらく出来なくなるが、こればっかりは仕方がない。
あ、そうだ。一応、手紙でも送っておこうかな。
そうすれば、ヘリアン王子もきちんと納得してくれるだろう。
……でも、この前手紙を出したら、ヘリアン王子から「君の字はかなり愛嬌があるな。丸っこくて可愛らしい。君の人柄がよく出ていると思う」と返事に書かれていたので、あまり送りたくないとも思ってしまう。
それを思い出すせいで、手紙を書いていると何だか気恥ずかしい気分になってしまうのだ。
仕方ない。今回は後で弟に代筆してもらおう。
弟も大体同じ理由でサフィーア王女宛ての手紙の代筆をときどき頼んでくるので、事情は大方理解してくれると思う。
そう決めて、私は寝巻きからスーツに着替えると、自室を後にした。
♢♢♢
朝食を済ませて、私はレッスン用の部屋に向かう。
サイラスとのレッスンで、時々そういった部屋を使うのだが、今日はいつもとは異なる他のレッスン用の部屋に足を運んだ。
扉を開けるとそこには、私が来るのを待っていた人物がいた。
弟の従者であるメイドのマリーだ。
昨日父が話を通してくれていたらしく、今日から『夜会』まで、私はサイラスではなくマリーのレッスンを受けることになったのだった。
一体、彼女はどのようなレッスンを課してくるのだろうか。
少し怖いような、少し楽しみのような、そんな半々の気持ちで私はマリーの前に立った。
目の前のマリーは、サイラス同様に常に無表情だ。
そのため、何を考えているのかとても分かりづらい。
私が、前に立つとマリーはすぐに「おはようございます、レイン坊ちゃん」と挨拶をしてくる。
私はそれに対して「ああ」と答えると、次にマリーは私の目を見てこう言った。
「それでは、早速レッスンを行いましょう。レイン坊ちゃんが『夜会』までに立派な淑女としてある程度振る舞えるようになるためのレッスンです。よろしいですか?」
私は頷き、了承する。
するとマリーは、「それでは」と口を開く。
「今から十秒差し上げますので、サイラスから教わったことは一度、全て綺麗さっぱり忘却して下さいませ」
いきなりの無茶振りを要求されたのだった。




