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鍵

 私たちは父と共に書斎に移動し、話を聞くことにした。


 父の話を詳しく聞くと、今回の相手の目的は、おそらくロドウェール王国が過去に捕らえた犯罪者の奪還だという。


「五年前、国内で捕らえられた盗賊団がいたことは、お前たちも知っているだろう」


 私たちは頷いた。


 覚えている。

 確か、百人くらいのならず者によって構成された大規模な盗賊団だ。

 かつて様々な国で盗みを行なっていた。


 その盗賊団は、蟻を団の象徴(シンボルマーク)としており、団員は皆黒尽くめの格好していた。

 彼らは、極めて統率された一糸乱れぬ動きで商隊や村を次々と襲っていったのだった。


 彼らは、盗む以外のことをしない、ということを信条にしていた。

 そのため、動きが素早く、駆けつけた時にはすでに金品を奪われた後であることが殆どであったため、なかなかどの国も彼らを捕まえることが出来ずにいたのだ。


 そして彼らは、五年前ロドウェール王国にも現れて盗賊行為を行なった。その時、いくつもの村や商隊に被害が出てしまうことになる。


 しかし、国もただやられっぱなしというわけではない。

 ロドウェール王国騎士団持ち前のフットワークの軽さを活かして盗賊団を追い詰め、そして最終的に壊滅させることに成功したのだった。


 同時に盗賊団の頭領が騎士団に捕縛されることになる。

 騎士団の尽力により頭領が捕らえられると、すでに半壊していた盗賊団はたちまちに自然消滅していった――そんな流れだったはずだ。


「まさか、その盗賊団が完全には消滅してはいなかったと?」

「そうなるな」


 父は私の言葉を肯定した。


 私たちの話を聞いて突然、嫌な予感を覚えた父は、王宮や騎士団の下を訪れて情報を集め――その結果、このように判断を下したのだった。 


 ――どうやらかつての盗賊団の残党が、捕らえられた頭領の奪還を企んでいるらしい、と。


「何かしらの兆候がないか国や騎士団の資料と記録を片っ端から漁ってみたら、わずかだがここ最近奴らが行動したと思われる形跡が発見出来た。直感に任せてそのまま調べていったら、当たりだ。間違いない」


 敵の正体が分かった。そして、いつ動くかも。

 近日中に王族が公の場に姿を見せ、そしてなおかつ大多数の人間と関わりを持つ機会があるのは現在『夜会』以外に存在しない。


 父の今回の予感が形になった瞬間であった。


「おそらく今回の首謀者は、当時の副団長だと思われるのだが……。それにしても、今になって何故行動を起こそうとしたのかが分からない」


 確かに、そう思う。

 盗賊団の頭領が捕らえられて五年が経つ。


 父曰く、今までそういった動きが一切無かったらしいので、今回突然そう思い立ったかのようだった、とのことだ。


 それならば、確かに不自然だな、と思う。


「もしかしたら、密かに機会を狙っていたのかもしれません。そして、今回が最良だと判断した、ということでしょうか」


 父は、「そうかもしれない」と相槌を打つ。

 が、やはりその程度の考えでは憶測の域を出ない。何一つ確証足り得ない。


 私は、弟の方をちらりと見た。

 頭が良い弟ならば、何か分かるかもしれないと思ったが、弟はおもむろに首を横に振るだけであった。


「とにかく盗賊団の残党は、今回王族を人質として頭領の解放を要求してくるだろう。ならば、是が非でも未然に防がなければならない。いつものように敵の手に王族が渡ってしまうことは絶対に避けねばならない。そのことを肝に銘じておきなさい」


 父の言葉に私たちは頷く。


 ――ああ、だからなのか。


 だから、私たちは意外性を求められたのだ。


 相手の思い通りには一切させない。


 どんな手段でも構わない。

 相手が立てた計画を尽く破綻させる。


 それが、狙いだ。


 おそらく、父は直感的に思ったのだ。

 今回鍵を握るのは、私たち二人なのだと。


 おそらく敵は必ずある程度計画を練ってきているだろう。


 その計画が綿密であればあるほど、小さな失敗が大きな失敗につながることになる。


 故に相手としては、失敗は許されない。

 少しでもしくじれば、いずれ取り返しのつかない事態になるからだ。


 そして、そんな計画を完璧に挫くために、父は私たちを動かすつもりなのだった。


「頼んだぞ、お前たち。おそらく、今回危険が伴う可能性が高い。だが、どうかこの国のために力を尽くして欲しい」


 もちろんである。

 二人揃って首を縦に振った。


 元より、悪役として生きることが決まったあの日から覚悟は済んでいる。


 故に私たちは、今回も完璧に自分の役目を全うしてみせるだろう。


 そして、同時に私たちの念願の想いも果たしてみせる。


 本来このような事態であれば、ヘリアン王子たちの身を案じてそれ以外のことについては可能な限り慎むべきだろう。


 だが、私たちはそうはしない。

 何故なら、それが私たち双子だからだ。


 ――どちらか一つしか選べない?


 ――違う。どちらも選んでみせる。


 ヘリアン王子たちの誘拐を阻止し、同時に入れ替わったままの私たちから元の状態に戻ってみせる。


 私たちには、それが出来る。

 故に、絶対にやり遂げてみせる。


 私たちは二人して、そう心に決めたのだった。

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