休日を振り返って 2
私がヘリアン王子とランチを食べていると、大食堂に弟とサフィーア王女が入ってくる。
歩く二人の様子は、前より仲が良さそうに見えた。
とても楽しそうに談笑をしている。
まだ休日が明けたばかりで詳細は不明だが、どうやら学園内での二人の関係性は、前と比べて変化が起きたらしい。
まあ噂に聞いた程度だけれど、休日の後、二人はより仲良くなったが、より深く対立するようにもなったのだという。
互いに、何事も徹底的に白黒つけることを望むようになり、けれどそれが終わったら楽しそうに笑い合う、みたいなそんな感じらしい。
それとこれは弟本人から聞いたのだが、サフィーア王女が表立って弟と対立する意思を見せたことで、弟と直接口論をしようとする他の女子生徒の数が目に見えて減ったという。
弟を敵視する女子生徒筆頭の存在がサフィーア王女なので、弟のことを快く思わない場合、まずは一度サフィーア王女に相談する、という流れになったかららしい。
結果的に弟の負担が減り、そのことについてどうやらサフィーア王女も喜んでいるようだった。
私がそんなことを考えていると、二人はこちらを見つけるなり歩み寄ってくる。
そしてサフィーア王女は、私の前に立つと挨拶をしてきた。
「こんにちは、レイ……カティアさんの弟君さん。今日はお兄様と一緒なのですね」
途中で名前を言い直すサフィーア王女。
私同様に、どうやら弟も身近な他人であるサフィーア王女に自分の名前を呼ばれるとくすぐったいような気持ちになるらしく、「弟の名前を呼ばないで欲しい」とサフィーア王女に強くお願いしているようであった。しかも、休日後その気持ちがより強くなったらしい。
本当、この気持ちは、一体何なのだろう。
私より物知りで頭が良い弟でも分からないというのだから、正直お手上げだ。
まあ、いつかは理解出来るだろう。
そう考えて、ひとまず私たちはその疑問を頭の片隅にしまうことにしたのだった。
「この度は、お兄様を助けて下さりありがとうございました」
そうお礼を言ってくる。
とても律儀だ。
やはり、双子の兄であるヘリアン王子に似て、とてもしっかりしている。
彼女の言葉に私は「気にするな」と頷く。
そして、ちらりと視線をヘリアン王子に向ければ、今は普段より優しいモードの状態であるため、私に対して何も言ってこなかった。
いつものヘリアン王子なら、「レイン・メアリクス! もっと明るくサフィーアに返事をしてくれないかっ!」と勢いよくテーブルに拳を叩きつけていたところだ。
……やはり、優しい。
しかもちょっと私を見て、微笑んでいるし。
今のところ、ヘリアン王子が優しすぎて怖くなってきていた。
そろそろいつものようなヘリアン王子に戻って欲しい。少し不気味だ。
そう思っていると、「どうやら最近、兄は運が悪いようでして」とサフィーア王女が言う。
それに対して、私は大きく頷いた。
確かにそうかもしれない。
やっぱりヘリアン王子、呪われているのではなかろうか。
でも騎士団としては、私が関わるようになってから起き始めたからヘリアン王子ではなく私が呪われているのだという考えらしい。
本当はどっちなのだろう。ちょっと気になってしまう。
でも、実はどちらもそうでした、いう話かもしれないので、気にしない方が良さそうだ。
その場合、救いようがないので、二人揃って泣くしかない。
私は、そう思いながらサフィーア王女に「手紙は読んだか?」と尋ねる。
サフィーア王女は、「はい」と頷いた。
手紙とは、チンピラたちが書いてきたラブレターのことである。
あの時行った勝負は、結局有耶無耶になってしまった。
けれど彼らの尽力があったおかげで、誘拐されたヘリアン王子を救出することが出来た。
そのため、その恩返しということで手紙については私たちの方で一度預かり、その後彼女たちに渡したのだった。
内容に関してはヘリアン王子と共に心配していたのだが、蓋を開けてみれば全くの杞憂であった。
何故ならそのラブレターは二つとも、僕とお友達になってください、というチンピラにあるまじき奥ゆかしい内容であったのだから。
そのため私とヘリアン王子は即オーケーを出した。
友達なら、いくらでも作ればいい。
また遊びに行ったら、二人に王都を道案内して欲しい。
そう思う。
そして、その後サフィーア王女は弟と共に「ランチを注文してきます」と言って私たちから一度離れる。
私は、ランチを注文するために仲良く並ぶ二人を姿をおもむろに見つめた。
楽しそうにしている二人を見ていて思う。
――ああ、早く元に戻らないといけないな、と。
先日の二人のやりとりを見て、強くそう思うようになった。
私たちが決めたルールは、守らなければならない。
それは決して変えられない。少なくとも私には。
けれど、私たちは前より積極的に行動すべきだと思った。
チャンスが有れば、いつもより貪欲に活かしていくべきだと。
弟は、最近そう思い続けてきたのだろう。
前に行った作戦が失敗してしまった時から、今まで弟はずっと思い悩んできていたのだ。
私は気にするな、と言った。
けれど、やはりあの時の失敗を容易に割り切れるものではなかったようだ。
そんな弟を、サフィーア王女は元気付けてくれた。
彼女には、どれだけ感謝しても感謝し切れない。
彼女は、弟の『遊び』相手となった。
弟には、この先どれだけ失敗しようと彼女――サフィーア王女がいる。
だから、弟は――レインはこの先どれだけ失敗しようと不安に押し潰されることは決してなくなったのだ。
――必ず、サフィーア王女との『遊び』を果たすために。
この先、どんなことがあろうと意地でもめげるようなことはしないだろう。
それが私たちの在り方だ。
そして弟は今、二つもの『遊び』を行なっている。
ならば、少しでも早くどちらか一つを片付けた方がいいに決まっている。
もう一つの『遊び』に集中出来るように。
――よし、帰ったら、今後のことについて弟とよく相談しよう。
そう私は、心の中で決めたのだった。
これで第二章は終わりです。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
次話から第三章に移る予定です。
よろしくお願いします。




