衝撃の始まり
季節は冬。
暦上で一年の終わりを迎えようとしている今日、ロドウェール王国の王宮内では、王家が開催する盛大な舞踏会が催されていた。
王宮にはダンスホールが存在する。
中部はとても広く、絢爛な装飾によって彩られていた。
そして、その室内は、現在音楽隊による優雅な演奏によって満たされている状況であった。
室内に設置されているテーブルには、豪華な食事が並べられ、周りを給仕たちが忙しくなく行き交っている。
そしてその広いダンスホールでは、少年少女たちが、手を取り合い楽しげに踊っていた。
デビュタントと呼ばれる彼ら彼女らは、今宵貴族の令息令嬢として晴れて社交界入りを果たすのだ。
ロドウェール王国での成人年齢は満十八歳だが、社交界入りが出来るようになるのは満十六歳からだった。
王都の学園に通っていれば、一年生の学期末にこの『夜会』を経験することになるだろう。
そして、今年で十六歳となるヘリアンとサフィーアは、主催として参加するため、以前からこの『夜会』の準備をしてきたのだった。
彼らは、入念に下準備を行い、綿密な打ち合わせを経てこうして無事、『夜会』を開催するまでに至った。
二人は、目の前の光景を眺めながら、全てが順調だと確信する。
まだ『夜会』が始まって間もないが、トラブルらしいトラブルは一度して起きていない。
スケジュールの遅れもないため、予定通りの時間に『夜会』を終了することが出来るだろう。
二人は思った。
このまま何事もなく『夜会』は終わるだろうと。
だが、しばらくすると唐突に、異変が起こる。
それは、誰も気づくことのない異変であった。
この場において気づいたのは、ヘリアンとサフィーアだけだ。
誰も気にも留めない、人によっては些細な異変。
けれど、ヘリアンとサフィーアにとっては、人生で最も衝撃的な異変であった。
二人の表情が、それを見て驚愕に染まる。
「なっ、レイン・メアリクス……!?」
「か、カティアさん……?」
二人は、異変の正体である目の前に佇む相手の名前を呼んだ。
カティアとレイン。両名は、この国で公爵の地位に在るメアリクス家の人間であり、サフィーアとヘリアンにとってそれなりに親しい間柄の存在だった。
お互いの関係性を一言で表すなら友人というより、この場合好敵手と称した方が適切だろう。
ヘリアンとレイン、サフィーアとカティアはそのような対立する関係であり、日々お互いに切磋琢磨をしていた。
だからこそ、二人はメアリクス家の姉弟を見て強く驚いたのだった。
彼らのことをよく知るからこそ、受けた衝撃は途轍もなく大きい。
――信じられない。まさか、あの二人が、こういうことをするなんて。
ヘリアンとサフィーアは、心の中でそう強く思わずにはいられない。
意外だった。予想外だった。
けれど、事実だ。
目の前のライバル二人はこうして、たとえ天地がひっくり返ってもやらないだろう、ということをやっている。
その光景が、あまりにも信じられなくて、ヘリアンとサフィーアは何度も瞬きを繰り返しながら、二人の姿を凝視したのだった。
「……おい、あまりこちらを見つめるな、馬鹿王子」
「……じろじろ見ないでくれるかしら。失礼ね」
あまりの見つめっぷりに思わず二人が、苦言を呈してくる。その口調は、どことなく、しおらしい。
けれど、ヘリアンとサフィーアは目の前の二人から目を逸らすことが出来なかった。
二人の服装に重要な問題があったからだ。
別に、彼らが奇抜な服を身にまとっているというわけではない。
二人の服装は、どちらも最高級のブランドのものだ。
派手な意匠は施されていないが、上品で落ち着いた雰囲気に仕上がっている。
そのため、どことなく大人の魅力を二人から感じられた。
他の貴族の令息令嬢たちがすれ違うたびに二人を見て足を止めるほどに、メアリクス家の双子は魅力に満ち溢れていたのだった。
このように、身につけたそのドレスとスーツは、二人に良く似合っていた。もう、これ以上ないほどに。
そう、似合っていた。
それが何よりも問題なのだ。
何故なら――
「レイン・メアリクス!? どうして君がドレスを着ているんだ!?」
「カティアさん!? どうしてあなたがスーツを着ているのですか!?」
カティアとレインの服装がいつもとは違い、全くの逆だったのだから。




