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激突 4

 ある一人の男が『天使』教の組織にいた。


 彼は、並外れた信仰心を持っていた。

 彼の持つその信仰の強さは、教祖をも上回り、故に宗教組織のメンバーから一目置かれた存在であった。


 本来ならば、彼が教祖を務めるべきであったのだろう。


 しかし、彼には重大な欠点があった。


 それは、彼の性格だ。


 信仰のためならば手段を選ばない非情さと、極めて感情的で暴力的な一面を有していた。


 そのため、一度癇癪を起こせば、手がつけられないほどに暴れ回り、周囲を滅茶苦茶に破壊し尽くす危険人物であったのだ。


 一般的な成人男性と比べて二回り、いや三回りほど大きなその巨躯を止められる者など誰もいない。


 彼は『天使』教の切り札であった。


 数多の敵を、彼を用いることによって滅ぼしてきた。


 誰も彼――『狂信者』には敵わない。


 重要な場面であればあるほど、彼のその力は発揮される。

 それ故に、教祖は今回も彼を使うことに決めたのだった。


「あれが我らの天使だ。それ以外はどうでもいい。分かるな? 手段は問わん。天使をこちらに連れてこい」


 教祖は、部下が連れてきた『狂信者』にそう命令する。


 『狂信者』は笑った。


 まるで肉食獣のように口を歪ませて、ぼさぼさの伸びきった髪を揺らす。

 長い髪に隠れていた両目が露わになり、まるで猛禽類のような鋭い眼光を放つのだった。


「天使ィ……ッ!」


 彼は咆哮する。


 歓喜に打ち震えるように、あるいは救いを求めるように。


 彼は、この瞬間を心から感謝する。


 そして、


「――行け、『狂信者』よ」

「天使ィィィィ!!」


 教祖の命令と同時に、駆け出したのだった。



 ♢♢♢



 戦い続けていた六人だったが、突如として現れた乱入者により、体の動きが止まることになる。


 言葉にならない叫び声を上げながらこちらに向かって突進してくる巨体の男。


 その体の大きさは、悠にチンピラのリーダーをも上回っていた。


「何だこいつ!?」


 先ほど参戦した騎士団二人が驚きながらも前に出て、進路を妨害する。


 だが、止めることが出来ない。


「ぐっ!」

「がっ!?」


 衝突した衝撃と痛みで、くぐもった声を漏らしながら、吹き飛ばされる二人。


「何だてめえ!」


 さらにそこへ立ちはだかるのは、チンピラのリーダーの男であった。


 組み合うことになる二人。


 純粋な力比べとなると、どうしても体格が大きい方に軍配が上がる結果となる。


「ば、馬鹿な……!」


 チンピラのリーダーの男が、驚きに目を見開く。


 彼は、少しずつ押されていた。


 今まで力で負け知らずだったため、少なからず動揺してしまい、その隙を突かれることになる。


 再び『狂信者』が咆哮し、そして力任せにチンピラのリーダーの男を投げ飛ばしたのだった。


「兄さん!」


 地面に投げ飛ばされた兄へ、眼鏡の優男は慌てて駆け寄る。


 そして『狂信者』は、その光景に目もくれずヘリアンの姿を凝視するのだった。


「天使ィ!!」


 叫ぶ。


 それに対して、ヘリアンは「え……? 僕? 妹じゃなくて、僕……?」と困惑する。


 満面の笑みを浮かべながら、にじり寄る『狂信者』。


 対して、何か得体の知れない危険を感じて後退するヘリアン。


 あと少しで、『狂信者』がヘリアンに迫ろうかというところで、ふと『狂信者』はあることに気付く。


 彼は伸びた髪により、前方が見え辛くなっていた。

 もっと言えば、前髪のせいで視力が幾分か落ちていた。


 そのため、彼は『色』でヘリアンを識別していたのだった。たとえば、目の前の少年のその髪と瞳の色はまさしく天使であると言うように。


 近付くにつれて目の前の少年の輪郭がはっきりとしてくる。


 そして、彼は自分の中である違和感を覚えるようになっていたのだ。


 ――あれ、何か違くない?


 と。


 その違和感を明らかにするため、『狂信者』はまじまじとヘリアンを見つめた。


「――ッ!!」


 見つけた。

 その違和感は、目の前の彼の頭部にあった。


 彼の頭部からは、三角形の突起物が二つ生えていたのだ。


 猫耳である。


 『狂信者』が崇拝する天使に、猫耳は付いていない。


 さらに言うと、彼にとって人ではない一部が混ざっていることは、異端者の証だという認識であった。


「――あああああァーッ!!!」


 絶叫する。


 このような悪魔憑きの異端者を、今まで自分は天使だと思っていたのか。


 何たる失態。何たる屈辱。

 この失態を返上するには、目の前の少年を排除する以外に方法はない。


 そう考え、実行に移そうとした時だった。


「――おい、デカブツ。この俺を前にして頭が高いとは、いい度胸だ」


 そんな声が下から聞こえてくる。


 視線を下ろせば、そこにはネズミ耳を生やした黒髪の少年――レインがいた。


「跪いて頭を垂れろ。ウスノロ風情が」


 その瞬間、レインが勢いよく足払いをかける。


 いくら頑強な巨体であろうと、その構造は人間のそれだ。たとえ、どれだけ鍛えようと体の造りを無視することは決して出来ない。


 レインの足払いは、人体の構造を利用した極めて合理的な技術を用いたものだった。


 故に、


「天使ぃ、いいっ!?」


 足元をすくわれた『狂信者』が、盛大に姿勢を崩す。


 『狂信者』はそのままべちゃりと無様に転倒した。

 加えて、体を強打した拍子に「あがっ」と情けない声を上げる。


 そして、そこにすかさず――


「てめえ! よくもやってくれたな!!」

「そうです! よくも兄さんを投げ飛ばしてくれましたね!!」


 チンピラの兄弟が、反撃に出た。


 加えて、吹き飛ばされた騎士団員二人も「よくも吹き飛ばしてくれたな!」と怒り心頭の状態で反撃に参加する。


「あがっ、おごっ、てっ、て、天使っ! あぺっ!?」


 地面に倒れたままの『狂信者』は、複数人に寄ってたかってボコボコにされるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おかしい。正しいはずなのに悪役にしか見えない、でも悪は滅びた?
2020/06/01 16:50 退会済み
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