休日 12
カティアの言葉にサフィーアは、目を白黒させた。
彼女の悩みは、彼女自身と弟のことであると言う。
少し考えてみるが、まるで見当がつかない。
とにかく考えついたことを口に出すことにする。
「ええと、もしかして、姉弟で喧嘩を……?」
「残念だけれど、全然違うわ。生まれてこの方一度も弟とは、喧嘩をしたことなんてないし、口喧嘩さえしたことがないわね」
「え、そうなのですか……? それなら、どうして……」
サフィーアの頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
別にお互いが不仲と言うわけではない。
なのに、彼女たち双子には、ずっと悩み続けるほどの大きな問題があると言うのだ。
サフィーアは、お手上げだった。
目の前の彼女が何について悩んでいるのか全く分からない。
思い切って、「一体どういうことなのか」と訊いてみると、カティアは首を横に振った。
「悪いけれど、それは教えられない。あなたが、私に対して真摯な態度で臨んでくれたから、私もあなたに敬意を払ってある程度のことは話すつもりだけれど、こればっかりは無理なの」
サフィーアの『カティア・メアリクスと言う人間を知りたい』と言う願いに対して、カティア自身も精一杯応えようとしていた。
その証拠に先ほどから、カティアは、悪役としていつも行っていた見下すような視線をサフィーアに対して一切向けていない。
傲慢な態度も取らないし、罵る言葉も発さない。
サフィーアを対等な人間として、見ようとしているのだった。
「……そう、ね。なら、たとえ話をしましょうか」
カティアは、サフィーアに語りかける。
過去を懐かしむように。
「子供の頃、ヘリアン殿下と遊んだことはあるかしら? お人形遊びやおままごと、庭で追いかけっこをしたり、悪戯をしたり――。とにかく何でも構わない。おそらく、王族であるあなた達は、あまりそう言った経験は少ないとは思うけれど」
「……そうです、ね。確かにあまりありませんが、でもお兄様とそういう風に遊んだことは何度かあります」
「そう。それなら、良かったわ」
カティアは、そう言って、次に「それじゃあ」と言葉を続ける。
「石畳の地面で、色が白い石の部分だけ足がついてもいい、というルールで遊んだことはある? それ以外の石を踏んだら、奈落の底もしくは溶岩や敷き詰められた剣山だから落ちてしまうと助からないといった感じよ。あとは普通に、庭の地面に丸をいくつも描いてその中から出ないように飛び跳ねながら移動する、というものでもいいけれど」
サフィーアは、幼い頃の記憶を思い出そうと目を閉じる。
「ええと……はい。似たような遊びをしたことは、ありますね」
「その時、落ちたら本当に死んでしまうと思ったかしら?」
「いえ、あくまで遊びなので、そんなことは……」
カティアは、「でしょうね」と頷いた。
「でも、その時は真剣に遊んでいたでしょう? 死という概念が理解出来ていなくても、仮に落ちてもいいだなんて考えは無かったはずよ。でないと、これっぽっちも楽しくないもの」
「それは、その、そうでしょうけれど……」
カティアの質問に、サフィーアは一つずつ回答していく。
しかし、何故彼女がこのような問いを投げかけてきたのか、分からなかった。
目の前の少女の真意が読めない。
サフィーアが内心困惑していると、カティアが言った。
「どれだけ楽しくても、いつかはその遊びを止めることになる。ずっと同じ遊びをし続けることなんて普通は出来ない。飽きてしまうから。けれど――」
カティアが、サフィーアを見据える。
彼女の黒い瞳には強い輝きがあった。
強固な意思が見て取れた。
それは意地だ。だが目の前の少女が持つその輝きは、あまりにも強すぎて、最早狂気の域に達しているといっても過言ではなかった。
「私たちは、止めない。止めなかった」
カティアは、そう告げた。




