休日 13
カティアが、サフィーアに振ったのは子供の頃を思い出すような他愛もない話題。
しかし、それはカティアとレイン、メアリクス家の双子の根幹に関わる話であった。
「――私たちは何事に対してもいつも真面目だった。何故ならそれは、楽しいから」
何かをする時、楽しいと感じるのは大抵決まって真剣に取り組んでいる時だった。
全力で取り組むからこそ、楽しいと感じることが出来る。
真剣だから、自分たちはこうして楽しめるのだ。
幼い時、カティアとレインは、そう考えたのだった。
そして、それを次々と実行に移した。
昔も今も、その考えは何一つ変わっていない。
二人は真面目な性格をしていた。
遊びも勉強も悪戯も、手を抜くことは決してしない。
――とても楽しかったから。
享楽的でありながら、極めて勤勉。
相反するように見えて、上手く噛み合っている。
それがメアリクス家の双子だった。
「だから、自分たちで決めたルールを破りたいとは思わない。何故なら、私たちがそう決めたから」
途中で気軽に止めることが出来るという気持ちでは、二人は楽しめなかった。
だから、二人は自身に強い枷を課したのだ。
「物事には、必ずルールというものがある。そのルールを守らなければ、どのようなことであっても途端につまらなくなってしまうわ」
たとえば競技だ。
決められたルールを無視して行えば、競技ではなくなってしまう。それは、果たして楽しいのだろうか。
決められたルールの中で、真剣に頭を捻りながらよく考えて行動に移す。その方が断然、楽しいに決まっているのではないか。
少なくともカティアとレインの二人は、そう考えていた。
「ルール違反ほどつまらないものはない。――だから、私たちは今もずっと『遊び』続けている。……子供の頃から今日までずっと。そのことをどれほど後悔しようと、あの時、他ならぬ私たちがそう決めたのだから無責任に止めるわけにはいかない」
二人の『遊び』は、未だ終わらない。
その理由は彼女が言った通り、そう決めたからだ。自分たちで決めたルールは守らなければならない。
それを否定することは、これまで生きてきた自分たちの在り方を否定することに等しい。
だから、目の前の少女は言うのだ。
――構わないで、放っておいて、と。
「たとえこの選択が、自分たちの首を締めることになるとしても。それでも私たちは、選ばずにはいられない。理屈で説明出来るような話では決してないから。これは、私たち双子にしか理解出来ない。カティア・メアリクスとレイン・メアリクスは、この世で私たちしかいない。替えなんてきかない。私たちだけのこの気持ちを誰にも分かってもらうつもりはない」
そう断言する。
サフィーアは、何も言えなかった。
全てでは無いがカティアが、自分を拒絶した理由がようやく理解出来たからだ。
けれど、何か言わなければならない。
サフィーアは、何故かそう思った。
湧いて出た逸る気持ちを吐き出すように、サフィーアは言葉を絞り出す。
「……その、もしもの話なのですが、その在り方を変える、といったことは出来ないのでしょうか……?」
「愚問ね。あなたは、今日から男として生きろと言われて『はい、分かりました』とすぐに返事が出来るの?」
カティアの言葉に、サフィーアは口を噤むことになる。
彼女の言う通りだ。少なくとも想像する限り容易であるとは思えなかった。
今、彼女が悩んでいるのは、双子である彼女たちが、彼女たちであるからだ。
彼女たちが違う生き方をしていたら、悩むことなど無かった。
もしかしたら今の彼女たちの話を聞いて、そんな話があるか、馬鹿馬鹿しいと、笑い飛ばしていたかもしれない。
けれど、双子の彼女たちはメアリクス家に生まれ、そしてその馬鹿馬鹿しいと思われるような生き方を選んだ。
それを、今更改めることなど出来ようもない。
何故なら彼女たち――少なくともカティアの中では、そう在ることが正常なのだから。
彼女にとって、それが普通であり、かけがえのない日常なのだ。
「私たちは、そう生きる道を選んだ。こぼれたミルクは嘆いても戻らないように、たとえその道が間違っていたとしても私たちはこれからもそう歩んでいくしかない。だから悪いけれど、誰にも助けを求めるつもりはないの。これは私たちだけの問題なのだから」
カティアは、そう告げる。
サフィーアに対して、諭すように。
サフィーアは、言葉を発しようとするも何も言えずに口を閉じてしまう。
覚悟を決めた彼女の前では言葉が何も上手く思い浮かばない。
出来れば、そんなことはない、他の道があるよ、と言ってあげたかった。
けれど、口に出そうとした自分の言葉の何もかもが陳腐に思えてきてしまう。
無力だった。彼女の前では、いつものように。
しかし、思考とは裏腹にサフィーアの心中を言いようのない衝動が支配する。
一言では言い表せない。
たとえるなら、炎のようなものだ。
ゆらゆらと揺れて掴みどころがない。
けれど、次第に膨れ上がっていく。
――何でもいい。とにかく、何でも構わないから何かを言わなければならない。
先ほどから、サフィーアはそのような衝動に突き動かされていた。
……不思議だ。一体、何故そう思うのだろうか。
何故そこまで赤の他人である彼女に対して、自分はこうして何かを思うのだろうか。
まだ半年間の付き合いに過ぎず、友人同士というわけでもないのに。
サフィーア自身、分からない状態だった。
だが、戸惑いながらもカティアの言葉を聞いていくうちに次第に自ずと理解していく。
サフィーアの心に灯る、揺れる炎が明確な形を成していく。
サフィーアが胸の内に秘めるそれは、紛れもなく――苛立ちという名の感情だった。
――ああ、そうか。私は今、心の底から彼女のことが気に入らないのだ。
ようやくサフィーアは、自分の心をはっきりと自覚した。




