休日 11
――悪役として生きることを決められたあの日から、後悔しなかった時はない。
不安で心が掻き乱され、日に日に焦燥感が募っていく。
けれど、こうして今の姿のまま毎日を過ごしている。
決して、手を抜こうなどとは思わない。それによって、元に戻れたとしても自分たちが喜ぶことは絶対にない。
そう思う理由は、理屈では到底説明出来ない。ただ自分たちは、そういう存在だった。
そう生きることしか出来なかった。
それ以外の生き方を知らなかった。
双子の自分たちが幼い頃に始めた『遊び』は、未だ続いている。
ルールは一つ。『期限は、誰かに気付かれるまで』。
自分たちから他者へ気づかせるような真似は決してしてはならない。
もちろんそれ以外の方法でならば、何をしたって構わない。
けれど、今のところ思いの外上手くいってはいなかった。
しかし投げ出そうとは思わない。
彼女がカティアで、俺がレインだから。
だから、俺たちは今日も『遊び』を続けている。
いつか、入れ替わったお互いが元に戻れる日が来るのを夢見ながら――
♢♢♢
「あまり誤解しないで欲しいのだけれど――」
サフィーアに対してカティアは、ゆっくりと口を開く。
風が吹き、二人の髪が揺れる。
花園に咲き乱れる花々も揺れ、無数の花びらが空を舞った。
「確かにあなたの言う通り、私には悩んでいることがあるわ。それと、あなたの提案はとても魅力だと思ってる。何も問題がないならば、すぐにでもそうするべきなのでしょうね。第三者である誰かに話すことが出来たなら、私の気はとても楽になるわ。正直、それだけで解決出来てしまうでしょうしね」
「で、でしたらっ――」
「――悪いけれど、それは絶対に出来ないの」
カティアは、首を横に振った。
「最終的に、どうにもならなくなったら、その選択肢を選ぶことになるでしょうけれど、その場合私はこの先ずっと後悔し続けることになる。もちろん、今も後悔しているけれど、けれどそれよりももっと強く、より深く私は後悔し続けることになる」
だから、出来ない。
そう、カティアは言うのだった。
「だから、私の答えは『ノー』。あなたと友人になることについても、残念ながら私には出来ない。あなたは、私を裏切りたくないと思って本心を語ってくれたのでしょうけれど、私はあなたと会った時からずっとあなたを裏切り続けている。そして、この先もずっと――」
カティアは、言葉を一度区切る。
そして、こう締め括った。
「とにかく答えとしては、『私に構わないで、放っておいてくれるかしら』ということになるわね。悪いけれど」
対してサフィーアは、口を強く引き結ぶ。
そして、次に声を絞り出すように言った。
「……カティアさん、それはあなたが『メアリクス公爵家』の人間だからですか……?」
「――あら、それはもう知っていたのね」
驚くカティアに、サフィーアは「はい」と頷いた。
「お父様たちの言葉に、教師たちの対応。それに、他人に対するあなた方の言動も。特に私たち王族に対してです。それに、どうして公の場ではほとんど姿を現さないのか。どうしてあなた方はそんなにも優れた能力を身につけているのか。少し考えれば、誰でも分かります。……お兄様は……その、気付いているかどうか分かりませんが……」
カティアは、「なるほど」と納得する。
「まあ別に隠しているわけではないから、辿り着いても不思議ではないわ。口外するのは禁止だけれど」
そして、カティアは「でも」と続ける。
「残念だけれど、そのこととは一切関係ないわ。私は、メアリクス家に生まれたことを誇りに思っている。私たちに与えられたお役目についても、これ以上ないほど名誉なことだと思っているわ」
「えっ、そうなのですか……?」
サフィーアが目に見えて動揺する。
彼女の中で、カティアの悩みが悪役として振る舞うことに関するものだと思っていたのだろう。
当てが完全に外れた。しかも早とちりしてしまった。
どうしようと、狼狽するのだっだ。
「あっ、その、いえ、本当は全くの無関係ではないけれど、そのお役目について不満に思っていることは何も無いと言うことよ」
カティアが慌ててフォローする。
そして、こう告げるのだった。
「私が悩んでいるのは、私と弟のことについて。つまり私たち双子だけの問題についてよ。だから、第三者が介入する余地が無い。それだけの話なの」
カティアはそう説明するのだった。




