休日 9
サフィーアは、カティアと共に花園を見て回る。
お互いに歩幅を合わせながら、二人は美しい景色を楽しむ。
歩きながら、サフィーアはカティアの横顔をちらりと盗み見た。
隣にいる彼女は、何だかここのところずっと調子が悪いように見えた。
何かあったのかとサフィーアが訊いても、当の本人は何事も無いかのように振る舞おうとする。
カティアが何を考えているか分からない。
何せ目の前の少女は、いつもサフィーアの想像を超えていくのだから。
けれど、だからといって彼女のことを「カティア・メアリクスとは、そういうものだ」と割り切って考えることは出来なかった。
知りたかった。彼女のことを。
理解したかった。彼女の考えを。
彼女は、いつも独りだ。
敵がいて、けれど味方はいない。
なのに、彼女は少しも怖気づくことなく踏み込んでいく。
彼女の心は、とても強かった。
どれだけ叩かれようと罅が入ることはなく、むしろ叩いた相手の手が痺れてしまうようなそんな強さだ。
どうして、あんなにも彼女の心は揺るぎないのだろうか。
――カティア・メアリクスとは、どのような人物なのか。
サフィーアは、自身が近頃そのことばかりを考えていることに気付いた。
そして、いつしかサフィーアは彼女と友達になりたいと思うようになった。
♢♢♢
「そろそろ時間のようね」
カティアが、懐中時計を取り出して言う。
時刻はちょうど二時四十分を指していた。
少し早いが、そろそろ迎えの馬車が来ていてもおかしくない。
来た道を戻ろうとカティアは提案する。
「はい、あっという間でしたね。今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
「そうね、まあ少しは楽しめたかしら。及第点といったところね」
カティアは、ややそっぽを向いた状態で言う。
それに対してサフィーアは、「そうですか、良かったです」と微笑を浮かべる。
「カティアさんは、このところずっと元気がないように見えましたから……。もしかしたら、ほんの少しはお役に立てたかもしれません」
「何? まさか今回私を誘ったのは、それが理由なの?」
カティアは、若干驚きの声を上げる。
サフィーアは、少し俯きがちなりながらも、頷いた。
「えっと、それだけではないのですけれど……はい、実は。その、ご迷惑でしたでしょうか……?」
「そんなことで、私を誘ったの……? 友達でもなく、大して親しいわけでもないのに。あなた、なかなかのお人好しね……」
怖ず怖ずとした様子でサフィーアが言うと、カティアは呆れたと言わんばかりに溜息を吐く。
やはり呆れられてしまったと、サフィーアは思う。
それに最悪、彼女は余計なことをするなと、自分の心配の気持ちを突っぱねることだって出来た。
けれど、目の前の彼女はそうはしなかった。
自分がやったことは、単なる善意の押し売りに過ぎないのに。自分の気持ちを決して無碍にはしなかった。
彼女は、「……まあ、一応は感謝しておくわ」とそっぽを向いたまま言う。
「赤の他人をここまで気にかけられるなんて、さすがは王女様ね。正直、真似できないわ」
カティアは称賛の声を上げる。
一見、皮肉げに聞こえるが、そこに悪意は一切含まれていない。
それに対してサフィーアは、手を振って「とんでもありません」と返す。
「私は、兄ほど良い人間ではないですから。だから、いつもずるいことばかり考えています。今回だってそうです」
だから、そのような目で見られては困るのだとサフィーアは、言った。
「今回、カティアさんをお誘いしたのは、カティアさんを少しでも元気づけられたらな、と思ったこともありますが、それともう一つ――カティアさんのことを知りたかったからです」
サフィーアは、彼女に対して正直に自分が思っていることを話す。
それが、目の前の彼女への最低限の礼儀だと思ったから。
決して、彼女のことを裏切ってはならないと感じた。
だから、サフィーアはカティアに心の内を明かすことにしたのだ。
彼女に対して真摯な態度で臨むために。
「あなたのおかげで、自己中心的だった私は変わることが出来ました。私はあなたのことをもっと知りたいと思っています。今日あなたと過ごしてそのことをより強く思いました」
そして、サフィーアは意を決して自分の思いを伝える。
「――カティアさん、良ければどうか私とお友達になってくれませんか? もちろん無理にとは言いません。ただ私はあなたの力になりたいんです。カティアさんが何かずっと思い悩んでいることは知っています。私がカティアさんのその悩みをどうにか出来ると思い上がるつもりは決してありません。けれど、誰かに話すことが出来ればきっと――」
「――そうね。その申し出は有難いわ。本当ならそうするべきなのでしょうね、きっと」
サフィーアの言葉を遮るようにして、カティアは言う。サフィーアを見る彼女の目はとても優しげだった。
けれど次に表情をきつく引き結び、毅然とした態度でサフィーアに告げる。
「悪いけれど、それは出来ないわ。――何があろうと絶対に」
彼女の意思は、明確な拒絶だった。




