休日 8
午後からサフィーアとカティアは、ペットショップに訪れ、様々な動物と戯れたのだった。
「とても良かったです。子猫や子犬たちが可愛いくて癒されました」
「確かに、なかなか愛くるしい姿形をしていたわね。認めるわ」
二人とも満足の様子で店から出てくる。
時間はもうすぐ午後の二時になろうかとしているところだ。
二人は懐中時計で時間を確認した後、「それでは」とサフィーアが声を発した。
「おそらく後一ヶ所回れるかと思われるのですが、どこに行きましょうか?」
「そうね……」
カティアは、少し考える素振りをする。
そして、サフィーアを見て口を開いた。
「最後はあなたに決めてもらうことにするわ」
「私に、ですか」
「そう。最後にあなたが行きたいと思う場所に私を案内してくれるかしら?」
そう言われて、サフィーアはどうするか考える。
そして、
「分かりました。では、カティさん。確か、こちらです。ついてきてください」
サフィーアは、カティアを目的の場所まで案内するのだった。
♢♢♢
十分ほど歩くと、サフィーアは足を止める。
そこは、息を飲むほどに綺麗な光景が広がる花園だった。
辺り一面が鮮やかな色の花々で覆われている。
花の種類だけでも何十、いや何百種類だろうか。
その敷地はあまり広いわけではないが、まるで敷き詰められるているかのように咲き乱れる花々によって、自分たちが一つの別世界にいるような錯覚に陥る。
けれど、これだけ綺麗な花園であるのに対して、来園者は疎らだった。
おそらく人の賑わう中央通りの中でも、花園の入り口が隣接する店と店の僅かな隙間を縫うような位置にあるため、普通に歩いていては見落としてしまうからだろう。
「ここは学園のお友達に聞いた場所です。とても綺麗だけど人はあまりいないからゆっくりと見て回れるよ、とのことでした」
「そう、確かにそうね。それにしても凄いわね、ここ……」
周りを見渡し、思わず感心するようにカティアは息を吐く。
「気に入っていただけましたか?」
「ええ、気に入ったわ。すごく」
「それは良かったです。私も聞いていたお話以上の景色で驚きました。ええ、本当に綺麗ですね……。まるで夢を見ているかのようです」
サフィーアも、感嘆の声を上げながら、周囲を見回す。
その光景に魅入った二人は、ゆっくりと歩を進めながら、花園を心ゆくまで堪能するのだった。
♢♢♢
「凄いな……ここは」
「ああ、悪くない」
彼女たちから少し離れた位置に、私たちはいた。
咲き誇った花々がとても綺麗だった。
まるで地面に書かれた一つの絵画のようだ。
ヘリアン王子が、周囲の景色を見ながらぽつりと感想を漏らす。
「しかし、王都にこんなところがあるなんて知らなかった」
「何度かここら辺りには来ていたんじゃ無かったのか、貴様」
「いや、確かにそうなのだが……彼らはこういったお洒落な場所には興味が薄かったから……」
なるほど、確かに最初に待ち合わせ場所に設定された喫茶店もやや控えな雰囲気だった。
まあ、そちらの方が落ち着くといえば落ち着くのだが。
ケルヴィンも、称賛の声を上げる。
「きちんと手入れされているな。見事なもんだぜ」
「ああ、王宮に招きたいくらいだ。正直、王宮内の庭園と比べても何ら見劣りしないレベルだと思う」
その花園の出来栄えに、ヘリアン王子が躊躇いなく太鼓判を押す。
咲き誇る花々を眺めていたケルヴィンが、ぽつりと言葉を漏らした。
「蜜吸いてぇ」
………おい、やめろ。
私は素早く危険を察知する。
頼むから、それ以上言うなと、何度も心の中で念じる。
傭兵はもう辞めたのだから、今は映えある騎士団の一員として相応しい行動を取って欲しい。
そう真摯に願う。
公衆の面前であまりにもあんまりな行動を取ろうとするならば、こちらも強硬手段に出るほかない。
ヘリアン王子が真似をしたらどうするんだ。
そう思っていたが、手遅れであった。
「何? 蜜だと……? もしかして吸えるのか?」
ケルヴィンの一言に反応するヘリアン王子。
駄目っ、のらないで! スルーして、ヘリアン王子ィ……!
心の中で思わず悲鳴を上げる。
今日の彼は知的好奇心の塊だ。
知らないことがあれば、何にでも反応する厄介な存在と化していた。
止めなければ。
誰かが暴挙に出る前に。
私がそんなことを考えている時だった。
突然、どこからともなくナイフが飛来して、地面に突き刺さる。
ちなみに、ナイフが刺さった場所はケルヴィンのすぐ足元である。
それを見て真顔になるケルヴィン。
私はあっと驚く。
そのナイフには見覚えがあった。
ドロシアのものだ。
彼女は、私の代わりに「馬鹿な真似をするなよ?」と注意をしてくれたのだった。
ケルヴィンは、真顔のままヘリアン王子に語りかける。
「……まあ、そうだな。やり方さえ知っていれば花の蜜ってのは簡単に吸えるものなんだが、今はやめておこうぜ。やっぱり、ここでそんなことをするのはマナー違反だと思うし」
効果覿面だった。
ヘリアン王子もナイフに視線が釘付けのまま「そうだな、良くない」と彼につられて何度も頷くのだった。




