休日 7
レストランに着いたサフィーアとカティアは、服屋の店員から聞いたオススメのメニューを注文する。
二人が店員に案内されたのは、向かい合って座るタイプの二人用の席であった。
その後二人は、運ばれてきたオムライスを見て、互いに感想を言い合う。
「とても美味しそうですね、カティさん」
「そうかしら、まだ味のほどは分からないわ」
そして、次には各々スプーンを手に取り、「それではいただきましょう」とオムライスを口に運ぶ。
「! 美味しい。とても美味しいですよ、カティさん」
「……ふん、確かにまあまあね。やるじゃない」
二人して、「美味しい」と感想を言い合いながら、昼食を堪能するのだった。
♢♢♢
「何? オムライスの上にソースで好きな文字をかけるのか? なら、そこにあるソースを貸してくれ! 僕はハートマークが描きたいんだ」
サフィーアたちから少し離れた席に座ったヘリアンたち。
オムライスが運ばれてきた後に発したヘリアンの言葉に対して、レインが反応する。
「気色の悪いことをぬかすな。黙って食え」
「そう言うな。そうだ、君にも一つ描いてあげよう。遠慮しないでくれ」
「いらん。代わりにそこの間抜けに描いてやれ。物欲しそうに見ているぞ」
「いや、全く見てないんだが……風評が悪くなるから、よしてくれねえか?」
「貴様の風評なぞ端から最底辺だろうが」
「あっ、そういや、そうだったわ」
忘れていたぜ、とケルヴィンは陽気に笑う。
「ハートマークだとアレだし、猫だ。猫を描いてくれ」
「猫か。承知した」
ヘリアンはソースが入った容器を手に取り、気合を入れる。
「お、自信有りそうだな」
「ああ、これでも絵は得意だ。任せてくれ」
ヘリアンは、ケルヴィンのオムライスに絵を描き始めるのだった。
♢♢♢
「もうお腹一杯です。美味しかったですね、カティさん」
「そうね、まあ少しくらい認めてあげてもいいと思うわ」
料理を完食した二人は、満足げな様子で言葉を交わす。
「少し休憩してから、次にいきましょう」
「そうね、そうしましょう」
カティアは、賛成の声を上げる。
今回の王都巡りは、三時頃まで続ける予定であった。
今の時刻は、正午の十二時過ぎ。
自由に動けるのは、あと二時間ほどしか無いないだろう。
サフィーアは、目の前の少女を見つめる。
彼女は、今回の休日を楽しんでくれているだろうか。
そんな疑問が湧いてくる。
「何? どうかしたの?」
カティアが怪訝な表情で、声をかけてくる。
「あ、いえ。ただ制服以外の姿を見たことがなかったなので……だから、その新鮮だなあと思いまして」
「ああ、そういえば、そうかもしれないわね。まだデビュタントの舞踏会の前だしね」
ロドウェール王国では、一年が終わる頃になると、王宮で毎年デビュタントの舞踏会が開かれることになっていた。
その際に、満十六歳となる令息令嬢たちが煌びやかなスーツやドレスを身にまとってダンスを踊るのだ。
覚えている限り、メアリクス家の双子がお茶会やパーティーに参加したことは今まで一度も無かった。
だから、舞踏会の時がとても楽しみだとサフィーアが話題を逸らすようにして言うと、カティアは「そうね。でも、最終的にどうなるか分からないけれど」と肩を竦める。
「一度、父に話をしてみるわ。こういったことを経験するのも大事だと思うしね」
カティアの前向きな答えに、サフィーアは「はい!」と期待の声を込めるのだった。
♢♢♢
オムライスを見てヘリアンとケルヴィンが、微妙な顔をする。
「おい、どうするんだ、これ……」
「いや、本当に申し訳ない……」
そこには、猫にかろうじて見えなくもないかも、と言うレベルの何かが描かれていた。
そう、ヘリアンは、ケルヴィンのオムライスに絵を描こうとして、見事に失敗したのだった。
ヘリアンは、申し訳なさそうな顔でケルヴィンに対して、自分のオムライスと取り替えると言う。
そして、これは僕からの気持ちだと、自分のオムライスをケルヴィンに渡そうとしてくる。
しかし、ヘリアンのオムライスには、すでに大きなハートマークが描かれていた。
「その猫もどきより、こちらのハートマークの方がマシだと思う。どうか受け取って欲しい」
「……いや、アレだ。食えりゃ別にいい。だから、このままにしておこうぜ。な?」
ハートマークのオムライスを受け取るのは、さすがに堪えたのかケルヴィンはすぐさまスプーンを自分のオムライスに突き刺すのだった。




