休日 6
私がヘリアン王子とケルヴィンの態度に傷ついてしょんぼりしていると、弟とサフィーア王女が服屋から出てきたのだった。
そういえば、服屋ならば店員か誰かが弟のことについて気づいていそうなものだ。
そこの所、どうなんだろう。
気になる。
そう思っていると、服屋から出てきた弟は、何だか死んだ目をしていた。
――ああ、あの様子だと駄目だったらしい。かわいそう……。
私は心の中で、弟に同情する。
時刻はもうお昼なので、どこかのお店で何か美味しいものでもたくさん食べて、胸に秘めたその悲しみを乗り越えて欲しい。
私はそう思わずには、いられなかった。
♢♢♢
サフィーアは、先程から隣の少女の様子が気になっていた。
服屋に入ってから、彼女の元気がないというか、少し落ち込んでいるように見えるのだ。
一体どうしたのだろう。
サフィーアは、心配に思いながらカティアに声をかける。
「あの、カティさん。どうかしましたか? もしかして具合が優れないとか……?」
「そういうわけではないわ。着替えるのに少し疲れただけよ」
「ああ、そうでしたか。そうですよね、確かに店員さんのお願いで何着も着替えていましたから」
サフィーアは、納得する。
服屋の女性店員は、二人を見るなり、似合いそうな服をダッシュで探して持って来たのだった。
合わせて二十着以上の服を突き出され、「お願いします! これらを着てください! 一生のお願いです!!」と必死に懇願されたのである。
サフィーアは「一生のお願いならば仕方がない」と了承したのだが、カティアの方は着替えるのを渋ったのだった。
けれど、サフィーアがこちらを見ていることに気がつくと、意を決した様子でカティアは服を受け取った。
どうやら、彼女としてはあまり乗り気ではなかったらしい。
途中から、自棄になったのか自ら進んで「遅い! 早く、その服を渡しなさい。さっさと着替えられないじゃない!」と女性店員に対して命令していたのは、サフィーアの記憶の中では特に印象として強く残っている。
サフィーアとしては、その時「あの、あまり無理は……」と止めようとしたのだが、カティアは「何? まさかこの私の着こなしに文句をつけようというの? 生意気ね。黙っていなさい」と有無を言わせぬ口調で突っぱねたため、どうすることも出来なかった。
「ええと、その、どれもとってもお似合いでした」
「当然よ。私を誰だと思っているの?」
サフィーアが会話を振ると、カティアは髪をかき上げてさも当然だというような傲慢な口調で、応える。
――ああ、良かった。いつもの調子に少し戻った。
サフィーアは、そう思って安堵する。
やはりせっかくの休日なのだ。
出来る限り楽しんで欲しい。
心の中でそう思いながらサフィーアは、提案する。
「そういえば、もうお昼ですね。どこでランチを食べましょうか?」
「そうね、あの店員が言っていたレストランでいいんじゃないかしら?」
「ああ、そうでしたね。では、そこにしましょうか」
「そうね。庶民の料理が、私の口に合うか試させてもらうわ」
「それは食べてからのお楽しみですね」
カティアの言葉にサフィーアは、小さく笑う。
二人は、そして目的の場所へと向かうのだった。
♢♢♢
私たちが弟とサフィーア王女の後をついていく最中に、ぽつりとヘリアン王子が呟く。
「もう昼だ。少し空腹を感じないか?」
確かに、お腹が空いた。
私が賛同の言葉を上げようとすると、呪いのせいで「黙れ。魚の餌でも食ってろ」と、とんでもない発言をしてしまう。
「いや、買ってたら食べていたが、結局買わなかったじゃないか」
そんな私の最悪な暴言に対して、非難がましい目で見つめてくるヘリアン王子。
いやそんなこと言われても……。だって、露店から魚のいる池まで少し遠かったし……。魚に餌をあげに行ってたら、弟とサフィーア王女に置いていかれるかもしれなかったから……。
残念そうな表情のヘリアン王子を見ていると、何だか申し訳ない気持ちになってくる。こんなことなら、一袋くらい魚の餌を買っておけば良かったかもしれない。
そして、すぐに「いや、そんなわけないだろ!?」と目を覚ます。
一体どこの世界に、進んで魚の餌を食べる王族がいるというんだ。クッキーの形をしているとはいえ。
とにかく、有り得ない。おかしいだろう。
危ない危ない。
危うくその場の空気に流されるところだった。
気をしっかり保たねば。
私はヘリアン王子に注意をする。
「ふざけたことをぬかすな。大体問題なく食えても、味が無くて食えたものじゃないだろうが」
そう言うと、ケルヴィンがこちらを見て「あ? 味が無いだけなら、余裕だろ」と私たちの話に入ってくる。
「腐ってなけりゃ大抵はいけるぜ、人間ってのは」
いや、今はそんな0か1かみたいな話はしていないから……。
傭兵基準で意見を言われても、その、困る。
返答に困った私は、終始無言になることで、よく分からないこの状況を切り抜けることにしたのだった。




