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カバー

 護衛の顔見せは無事に終わり、キースとドロシアは一度私たちの前から姿を消すのだった。


 別に私たちから、見えない位置にいるだけで、彼らから私たちのことはよく見えているのだろう。


 彼らが姿を消した後、何となく視界の端で彼らの姿がないか探してみるけれど、まるで見つけることが出来ない。


 やはり、手慣れている。


 とても頼もしい限りだが、今現在においてはキースから聞いた懸念材料のせいで、あまり安心出来ていない状態であった。


 ヘリアン王子とサフィーア王女に似た外見者達を拐おうとしている宗教組織の存在。


 このタイミングなのは、果たして偶然だろうか。

 父に意見を仰ぎたいところではあったが、そういえばこのところいつも忙しそうにしていたのを思い出す。


 おそらく、今回の休日に関して色々手を回していてくれたのだろう。

 そのため、ケルヴィンたちのことも私たちに伝える余裕がなかったに違いない。


 今日の予定が無事済んだら、一度今回のことについて父と話そうと思う。


 そう思っていると、ケルヴィンが「じゃあ、下見をする前に俺たちの関係性(仮)についてすり合わせておこうぜ」と、声を上げた。


「一応、あんたらの方は実際に遊びに来たわけでもあると思うが、俺の場合は仕事だ。年も離れているし、一緒にいるのはちと不自然だろう。だから、設定を考えた。お二人さんには、今から言う設定に沿って、他者との会話の際に話を合わせてもらいたい」


 彼の考えた設定は、以下の通りだった。



 田舎育ちの私とヘリアン王子は、小さい頃からの幼馴染み同士であり、よく遊んでいる間柄だ。

 ケルヴィンは私の従兄であり、私たちの面倒をよく見ていた。

 そして今回、王都に私たちがいるのは、観光に来たからである。

 私たちの引率として、私の従兄のケルヴィンが共に田舎からやって来た。


 というものであった。



「とりあえずはまあ、これでいく予定だ。で、何か意見はあるか?」


 そう聞いてくるケルヴィンに対して、私たちは首を横に振る。


 まあ、特にない。

 こういった周囲に馴染むことに関しては、おそらく慣れたものなのだろうし、彼の指示に従うことにする。


「なら、いいぜ。あと、あまり堅苦しい言葉になるなよ? 崩すのは無理でも、そこそこ親しげに喋ってくれ。嫌だとは思うが、頼むぜ?」


 その言葉に、ヘリアン王子は「了解した。……ではなくて、ええと……何だ、分かった、よ?」とぎこちなくなってしまったが、いつもより砕けた口調となることに成功する。


 対して私はというと、フランクな話し方は残念ながらレッスンで培った呪いにより無理だった。


 一応、努力してみたが、正直口を開かない方がマシだという評価を自分自身で下すレベルであったため、私は早々に諦めて基本口数が少ない仏頂面の田舎の少年を演じることに決めたのだった。


「君の場合は仕方がないと思う。……思う、よ?」

「まあ今回は問題ないだろうし、そのままでいくか」


 二人がフォローしてくる。

 優しい。片方は元賊なのに。しかも一度私にボコボコにされてるのに。


 面目ない限りだ。


 申し訳ない気持ちになっていると、ケルヴィンが「そろそろ下見に行こうぜ」と席を立つ。


「お、会計は先に出て行った先輩方が済ましてあるみたいだな。気が利くぜ。なら、さっさと下見を済ませてくるか」


 その言葉にヘリアン王子も、「そうしよう」と席を立つ。


 私も、騎士団から支給された荷物袋を背負って席を立った。


 ちなみに、荷物袋の中には直剣とナイフが一本ずつ入っている。

 皆キースから渡されていた。


 置き引きやひったくりには気を付けなければ、と思いながら皆で店を出た時だった。


 不意にケルヴィンが私に声をかけてくる。


「そういえば、まだ言って無かったが、別にお前さんに負けたことに関して、特に恨みとか無いから安心してくれ。むしろ感謝しているくらいだ。何度も言うが、この現状を気に入っているから、特に思うところはない。何より小国なのにも関わらず、俺より強い奴がうじゃうじゃいるのは、楽しくて仕方がないぜ」


 彼は人懐っこい笑みを浮かべる。


 そして、


「とにかく、今日はよろしく頼むな、嬢ちゃん」


 そう言ったのだった。



 ――えっ?



 突然の彼の言葉に、私は固まってしまう。


 嬢ちゃん……?

 今彼は私のことを、嬢ちゃんと言ったのだろうか……?


 一瞬、耳を疑ったが聞き間違いでは無い。


 確かに彼は私の前で、そしてヘリアン王子の前ではっきりとそう言った。


 そういえば確か、彼と戦った時、最後に「これでも淑女なので気安く触らないで」といった内容を衝動的に呟いたような気がする。



 だから、彼は私のことに気付いていて――



 そう思った瞬間、ケルヴィンは申し訳なさそうに「ああ、すまん」と謝罪をしてくる。


「違う。坊主だった、悪い。何だか、坊主のことを嬢ちゃんだと無意識に思い込んで――ぐはぁっ!?」


 私は反射的に膝蹴りを叩き込んでいた。

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