護衛たち 3
文章を少し修正しました
「すみません、お見苦しいところをお見せしました」
「……申し訳ありません、つい」
注文した紅茶が来たので、ヘリアン王子と一緒に楽しんでいると、横からキースとドロシアが頭を下げてくる。
彼ら曰く、どうやら万が一の際のケルヴィンたちの処遇について、未だ団員内で意見が分かれている状況らしい。
まあ、ケルヴィンたちの入団については、急に決まったことらしいので仕方がないとは思うけれど。
ケルヴィンは、「まあ、安心しろよ。というか、今の俺一人じゃ出来ることなんてたかが知れてるしな。それに、俺たちの中でそんな馬鹿な真似をする奴なんていねえよ、これでも今の待遇は気に入ってる」と笑う。
ヘリアン王子誘拐という名の馬鹿な真似をした彼の言葉なので、正直言うと説得力など皆無なのだが、まあ今回は騎士団員二人の言葉を信じることにする。
何かあれば、彼らが何かしらの対処をしてくれるらしいし、ケルヴィンのことについては彼らに一任しよう。
「それでは少し遅くなりましたが、今回の護衛についてのお話をさせて頂きます」
そして三人は、私とヘリアン王子が移った席に移ってくる。
「今回、あなた方には『アーフィサ』さんと『アティカ』さんの護衛を行なってもらいますが、基本自由に行動してもらって構いません」
「また安直な偽名……僕たちよりは幾分か言いやすいけれど。まあ、今は気にしないでおこう」
「自分のセンスがないことに気づいてないのか貴様。やめたらどうだ? 悲しくならないのか?」
「……お二人とも、今は俺に話をさせて下さい。どうか、よろしくお願いします」
再度、頭を深々と下げてくるキース。
なので、私たちは再度口を噤むことにしたのだった。
安堵の息を吐いて説明を続けるキース。
私たちが、普通に弟とサフィーア王女の護衛をしながら、自分たちも王都巡りをするという予定は変わらない。
彼女たちから離れすぎなければ、基本自由に動き回って構わないということだった。
ただし条件として、そこにケルヴィンを同行させて欲しいということだった。
それについては、どうか了承して欲しいとキースは私たちにお願いをしてくる。
まあ、特に異論はない。
なので二人して頷く。
今回、ケルヴィンは護衛として重要な戦力になることは理解している。
自分たちの気持ちを除けば、断る理由は見つからない。
ちなみにキースの役割はというと、護衛全体の現場指揮役であった。
ドロシアは私たちの近くで身を隠しながら、ケルヴィンを監視し、一方キースは周囲の状況を逐一確認しながら、護衛全員を統括する。
そういう役割分担らしい。
「もちろん、俺とドロシアさん以外に護衛はいますので、安心してください。今回顔見せ出来るのは俺たちだけというわけです」
まあ、そうだろうな。
護衛が騎士団員三人だと、さすがに少なすぎる。
私とヘリアン王子を入れても五人だ。
もっと居てもいいだろう。
最低でも十人は欲しい。
なので、私もヘリアン王子もキースの言葉に「分かっている」と頷いた。
「この場にいない護衛の方々たちは、大半が超ベテランの上級騎士なので、個々の判断で動いても十分な仕事をしてくれる方々ばかりです。なので、正直『俺いる?』と思ってしまうのですけれど、まあ精一杯頑張ります」
余談だが、本当はキースも現場指揮ではなく実行部隊の一人として動きたかったらしいのだが、先輩や上司たちから意気揚々とその役目を奪われてしまったらしい。なので、「普通、逆では?」と思いながらキースが、現場指揮の担当になったのだとか。
「まあ、騎士団内では狙撃手を任されているので、戦場を俯瞰するのはそれなりに得意です。適材適所と言われれば、それまでなんですけどね」
そう言って、苦笑する。
そんなベテラン勢と共に護衛任務に抜擢されているのなら、彼の実力も中々のものなのだろう。
彼の活躍に期待したい。
そう考えていると、ヘリアン王子が「そういえば」と声を上げる。
「第一騎士団の団長殿は、彼らの入団の際に苦い顔をしなかったのだろうか?」
「うーん、そうですね……。むしろ『メアリクス公爵家をいつかぎゃふんと言わせる会』の会員候補なので、団長は積極的な姿勢を見せていました」
え、何それ。
そんな会があるの???
私は内心驚愕する。
「ケルヴィン下級騎士たちは、あなたにボコボコされ、それと確かあなたのお姉さんにも尋問の際にこっ酷くやられていたはずなので、新入会員の中でもかなりの有望株ですね。このまま出世すれば、いつか会長就任も夢では無いんじゃないですか?」
そう語りかけてくるキース。
いや、知らないよ。そんなこと。
キースは会員では無いらしく、「まあ俺もドロシアさんも『世代』では無いので、彼らの気持ちがよく分からないんですけどね」と笑う。
「まあ、そのことはさておき、今は護衛のことに関する話をしましょう」
そう言って早々と話題を切り上げるキース。
私としては、めちゃくちゃ気になる話題ではあったが、確かに今は談笑している場合ではない。
「今回、護衛するにあたり、障害となるであろう危険因子についての情報です。今のところ、一つあります」
それは確認しておかなければならない情報だ。
私は「何か兆候はあるのか?」と問えば、キースは「はい」と頷く。
「前回の誘拐事件で王都内を隈なく見回ったため、あまり怪しい動きをする存在はいなくなったのですが、実はここ一週間ほどでめちゃくちゃ怪しい新興宗教組織が現れて、王都で人攫いを行なおうとしていますね。今のところ、まだ未遂のようですが」
何度か彼らが拐おうとした人間の外見は、『金髪碧眼の少年少女』。
――つまりは、ちょうどヘリアン王子とサフィーア王女っぽい外見の人をターゲットにしているらしかった。
……うわあ、絶対それじゃん……最悪。
思わず、頭痛がしてくる。
何でこんな時に限って……。この国の王族って、呪われているんじゃなかろうか。
そんな気さえしてくる。
事態が悪化した場合、最悪そのアジトに乗り込むことになりそうな予感がする。
それだと、前回より骨が折れることになりそうだ。
明らかに相手の数が前より多いだろうし。
嫌だ。普通に何事もなく今日を終えたい。
思わず天に祈りたい気分になってくる。
「もちろん捜査は行っていますが、残念ながら彼らの足取りは未だ掴めていません。ですが、今回は万全を尽くしていますので、早々何も起こらないと思いますよ。仮に起きてもすぐに対処してみせます。安心してください」
――本当に? 大丈夫かなあ?
キースの自信有りげな言葉に今では思わず、不安を抱いてしまう。
事前に万全の準備をした。けれど、それでも予想外過ぎる事態が発生して、ヘリアン王子が拐われた。
それが、前回のことだったのだ。
なので、私は父の言葉を思い出して最悪中の最悪を想定することにする。
――王族は、なぜかよく分からない拐われ方をする。だから、気を抜いてはいけない。王族を皆、竜に魅入られた姫君だと思え。
父から、口酸っぱくそう教わった。
ああ、また一人で乗り込むことになりそうだなあ、と心の中で涙を流しながら私はひとり覚悟を決めたのだった。




