見学
あの後、すぐに注文したランチが来たので私たちは普通に着席した。
今まで何事もなかったかのようにさっと座って「さあ、皆で食べようか」となっている私たちを見て、サフィーア王女はぎょっとしていたのだった。
正直、熱が入ってしまい騒ぎ過ぎたと思う。
せっかくのランチタイムなのに、申し訳ないことをしてしまった。
それと明らかに周囲にも迷惑になっていたはずだ。完全に視野が狭まっていた。
私は、深く反省することになる。
私とヘリアン王子は、これまでに言い争いになったことが幾度となくあったのだが、その決着を全て放課後の決闘で決めていた。
なので、今回もいつもの通り勝負は放課後に持ち越しとなり、私たちは一時休戦をして仲良くランチをともにしたのだった。
ちなみに弟はおそらく、こうなることを薄々理解していたのだろう。何度も弟に自分たちのことを話しているので、「ああ、これが聞いていたあれか」と終始やや呆れた風であった。
一方、サフィーア王女は、そのようなことを知っているわけがないので、喧嘩から一転して普通に戻った私とヘリアン王子に対して、初めてナマコに遭遇した人類のような奇異の視線を向けてきたのだった。
未知の生物を見るような、そんな地味にきつい視線であった。
ちなみにだが、私とヘリアン王子が諍いとなっても、その場で喧嘩に発展したことは一度もない。
そんなことをしても不毛であるし、やはり正式な試合において勝負をつけた方が後腐れがないので、そちらの方が良いという判断だ。
まあ、これはあくまで私の意見だ。
ヘリアン王子が本当はどう思っているのかまでは分からない。
何故なら、未だに私に勝ったことがないのに、それなのに決闘で決めようと提案してくるのだから。
何か裏があるのだろうかと思ったが、まあ多分全く無いのだろうなあとも思う。
今までヘリアン王子の言動を見てきたけれど、正直彼がとてつもなく心が広い善人なだけだと思うのだ。
そういえば、ヘリアン王子も少し「熱くなり過ぎてしまった……」とへこんでいた。
実の妹の慣れない外出を心配して、一緒になってついていこうとするほどだ。
彼がサフィーア王女を心から大切に思っているということを今日だけで十二分に伺い知ることが出来た。
それと、後でヘリアン王子から「君もとても姉思いなのだな」と言われてしまったのだが、正直それに関しては非常に申し訳ない思いである。
姉思いなのは、当然だ。何しろ私の方こそがその姉なのだから。
ヘリアン王子が家族思いという点で共感してくれたけれど、家族というかそもそも本人なのである。
しかし、それにしても知人に自分の名前を呼ばれることが、あんなにもこそばゆいものだとは思わなかった。
そういえば、弟はヘリアン王子に自分の名前を連呼されていたけれど、別に平気そうだった。
やはり、他人は他人でも初対面の赤の他人とそれなりの期間付き合いがある身近な他人とでは、全然違うのだろうか。
屋敷に帰る途中、そこら辺どうだったか弟に聞いてみようと思う。
ああ、それと打ち合わせについては上手くことが運んだ。
護衛対象である弟とサフィーア王女が同席した上での話し合いだったので、とんとん拍子に話が進んでいったのだった。
どうやらヘリアン王子は、大体私と同じ説明をしたらしい。
そのため、サフィーア王女から「私たちの護衛についてはよろしくお願いします」と言われる。
それと彼女は私に「兄のこともどうかよろしくお願いします」と小声で伝えてくる。
さすがはヘリアン王子の妹。彼に似て人間がよく出来ている。
そう思いながら、「ちっ、いいだろう」と私も小さく頷き返したのだった。
♢♢♢
そして、放課後になると私とヘリアン王子は修練場でいつものように剣を持って向かい合っていた。
今回は、弟とサフィーア王女が見学に来ている。
そのためかヘリアン王子は、いつもより張り切っているように見えるのだった。
「そういえば、お兄様たちの戦いを見るのはこれが初めてです。お二人とも頑張ってくださいね。応援していますから」
そしてサフィーア王女の激励を受けて、ヘリアン王子のやる気が全開となる。
「すまないが、レイン・メアリクス。今日は勝たせてもらおう。悪く思わないでくれ――」
そう言ってくるその姿は、一人の兄としてとても頼もしく見える。
けれど、ヘリアン王子。忘れてもらっては困る。
今この瞬間、張り切っているのは、ヘリアン王子だけではないということを。
――『ガンバッテ』。
――『カタヅケル ジュウビョウ イナイニ』。
弟に応援され、張り切った私は、繰り出された攻撃を避けると速攻でヘリアン王子に対して足払いをかけて転倒させるのだった。
倒れたヘリアン王子に対してその喉元に剣を突き付ければ、「勝負あり!」と審判役の教師が声を上げる。
「お、お兄様が、秒殺……!?」
驚きの表情を浮かべ、あまりの衝撃に口元を両手で覆うサフィーア王女。
――あまり驚かないで欲しい、サフィーア王女。ヘリアン王子が秒殺されるのはいつものことである。
そう思う。
もちろんそんなこと決して口には出さないし、出せないけれど。
「くっ、また負けてしまった!」
心底悔しそうにしているヘリアン王子。
私は彼を見下ろして思う。
……本当、何でめげないんだろう。
彼のメンタルが強すぎて逆に心配になってくる。
私は心の中で不思議に思いながら、「ふん、たわいもないな負け犬め」といつものようにヘリアン王子を煽るのだった。




