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戦闘開始 3

 私は思わず、笑みを浮かべた。


 賊のリーダーが私に対して言ったのだ。


 今から遊んでやる、と。


 ――へえ、私と遊んでくれるんだ。悪くない。むしろ大歓迎だ。


 私たち(・・・)は、何をするにしても頗る真面目だった。

 勉強も、運動も、悪戯も、そして遊ぶことに対しても――


 理由は至極単純。そうでなければ、面白くないからだ。


 だから、常に私たちは全力を尽くしてきた。

 辛く厳しいレッスンだって、決して手を抜くことは無かった。


 自分たちに課せられたお役目も、今までしっかりとこなしてきた。


 ――そうでなければ、面白くないから。


 極めて純粋でありながら、限りなく不純な動機。


 何事も全力で取り組むからこそ、意義がある。


 それが私たち双子の行動原理であった。


 そのため私たちは、自ずと私たちに全力を出し尽くさせてくれて、なおかつ私たちに対して全力を出し尽くしてくれる相手を心の底から歓迎する。


 目の前の彼らは、見るからに私たちが期待するその水準に達していた。


 ゆえに、私は笑った。つい嬉しくて。


 彼らは、きっと私に対して死力の限りを尽くして挑んでくるだろう。

 ならば、私もその気持ちにきちんと応えなければならない。


「――ああ、なるほどな。それはいい。是非そうさせてもらおうか。精々、俺を楽しませてくれよ、溝鼠共?」


 さあ、存分に楽しませてもらおう。どんな風に私と遊んでくれるのだろうか。どこまで私を楽しませてくれるのだろうか。退屈なのは嫌いだ。どうかがっかりさせないで欲しい。存外、私の舌は肥えている。


 これでも私は、一つの『遊び』を十年間毎日続けているほどの筋金入りなのだから――



 ♢♢♢



 ヘリアンは、思わずその笑みに見惚れていた。


 同性である彼でさえ、無意識のうちに息を飲むほどに、その笑みは在らん限りの魅力に満ち溢れていた。


 ――初めて見る顔だ。彼はこのように笑うこともあるのだな。


 彼――レイン・メアリクスと会って半年が経つ。

 けれど、今まで見せたことのない彼のその表情に対して、ヘリアンの中で言いようのない感情が湧き上がる。


 それをあえて言葉で言い表すのならば、彼をもっと知りたいという強い『好奇心』であり、彼ともっと打ち解けたいという『友愛』でもある。

 もしくは、彼のような人間になりたいという『羨望』や、いつか彼に並び立つ人間になりたいという『憧憬』も含まれていた。


 いずれにしても、ヘリアンは目の前の彼に対して心を奪われた。

 そして、そんな彼の表情を引き出した傭兵たちに対して少なからず嫉妬の心を持ったのだった。


 ――ああ、悔しいな。それと、なんて情け無いのだろう。


 自分は、おそらく彼の中ではそう大したものではなかったに違いない。


 何しろ彼に対して、未だ一度も勝てたことはない。

 彼に対して、未だまともに剣を使わせたことがない。


 分かっていた。自分が一度も好敵手として、そもそも敵とさえ見做されていないことは。


 分かっていた。対抗意識を持っていたのは自分だけで、彼はまるで自分を気にしている様子がないことくらい。


 分かっていた。自分の存在など、彼にとって些事でしかないことを。


 彼は決闘の申し出があったから、ただ受けただけに過ぎない。


 そんなことは、自分が誰よりも理解していた。

 そして今、そのことをより一層実感することになる。


 だからこそ、ヘリアンは思う。目の前の彼の姿を見て、こう思わずにはいられない。



 もっと強くなりたいと――

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