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戦闘開始 2

 騎士崩れの傭兵は、内心焦りを浮かべる。


 あっという間だった。自分の仲間が、倒されたのは。


 今回、依頼を引き受けるに当たって連れてきたのは、彼自身が厳選した正真正銘選りすぐりの仲間たちである。


 だが、そんな彼らを歯牙にも掛けない様子で目の前の少年は容易にあしらってみせたのだった。


「――よくもやってくれたな、溝鼠共」


 少年のやや高めの声には、怒りと呆れが含まれていた。


 その他者を見下したような目には、自分たちに対しての煩わしさが見て取れる。


 それはまるで、駆除に手間をかけさせられている害獣を見るような目だと、騎士崩れの男は、そう思うのだった。


 ――ああ、なるほど。だから、溝鼠なのか。


 少年の態度により、先程の彼の言葉の意味を理解する。


 目の前の少年は、一目で分かるほどの強敵だ。


 細身であるため力は無さそうだが、身につけている技量は目に見えて凄まじい。


 おそらく一対一での闘いならば、自分は負けるだろうな、と騎士崩れの男は冷静に判断する。


 よって、戦闘になれば可能な限り少年と剣を交える際は一人にならないよう立ち回らなければならないだろう。


 こちらは三人。相手は一人。


 常に数の優位性を活かさなければ、勝機はない。


 ――まったく、生きた心地がしないな……。


 極限の緊張状態の中、冷や汗が頬を伝う。


 現状を突破するため頭の中でいくつも案を練るが、そのどれもが少年の前では無に帰ってしまう。


 捕らえたヘリアン王子はひとまずこの場に捨て置くことにして、問題は中年男だ。自分たちは無理でも、彼だけは無事に逃したい。


 けれど、目の前の少年がそれを間違いなく阻んでくる。

 状況は、絶望的だった。


 たった一人の相手に絶体絶命の危機となっている。

 その現状に思わず笑いがこみ上げた。


 自嘲ではない。

 歓喜である。


 騎士崩れの男は、無意識のうちに口元を歪め強敵との戦闘を心の底から歓迎したのだった。


「――なあ、坊主。名前はなんて言うんだっけ。もう一度教えてくれよ」


 気がつけば騎士崩れの男は、少年に対して問いかけていた。


 対して少年は、鼻を鳴らす。


「相手の名を聞く前に自分から名乗るのが道理だろう。そんな当然の礼儀も知らんとは、どうやら厚顔無恥とは貴様のような人間を言うらしいな」

「あー、確かに。そりゃそうだ。悪かったな。俺の名は、ケルヴィンだ。再度問う。貴殿の名を教えて頂きたい」

「自惚れるな。賊に名乗る名などない」


 そう、会話を即座に終わらせる少年に対して、なんだそりゃと、苦笑する騎士崩れの男。


「ははっ、めちゃくちゃだな、坊主。おもしれー野郎だ」


 その言葉に対して、少年は一切の気にも留めず、ただ通告を行うかのようにしておもむろに剣を構える。


「それを今すぐに返せ。そいつは俺の玩具だ」

「ほう、なら今から遊んでやるよ、坊主。遊び相手が欲しいんだろ?」


 騎士崩れの男の言葉に、少年は笑う。


 その瞬間、誰もが息を飲んだ。


 その笑みはあまりにも無邪気で、残酷で、悪辣で、嗜虐的で、思わず見惚れてしまいそうなほどに魅力的な美しさを秘めていたからである。


 そんな見る者全てを虜にするような、実に悪魔めいた笑顔を浮かべて、少年は言った。


「――ああ、なるほどな。それはいい。是非そうさせてもらおうか。精々、俺を楽しませてくれよ、溝鼠共?」

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