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戦闘 1

「あー、ちとまずったかもな……」


 騎士崩れの男は、ひとりごちる。


 目の前の黒髪の少年の雰囲気が、より一層鋭くなったからだ。


 だが、今更気にしても遅い。

 何にせよ、目の前の少年を無力化ないし排除しなければならないことに違いは無いからだ。


 騎士崩れの男は、剣を構えて前に出る。

 彼と同時に、仲間の一人も前に出た。


 そして、もう一人は後方で少年目掛けて弓を構えているところだった。


 騎士崩れの男が少年と言葉を交わしたのは、実は時間稼ぎのためでもあった。


 自分たちが少しでもこの戦いで有利になるための準備を行うための。


 弓を構えた傭兵は、力強く弓を引き絞り――少年目掛けて放つ。


 それが戦闘開始の合図となった。


 矢が少年目掛けて飛来する。

 同時に、騎士崩れの男たちも斬りかかるため、地を蹴った。


 傭兵たちは息を合わせて、連携を行う。

 ここから少しでも誰かの行動が遅れれば、一人だけを狙われて一気に潰されてしまう。


 気の抜けない一瞬一瞬となるのだった。


「――悪くない」


 少年は、傭兵たちの連携を見て笑みを深める。


 ちょうど飛来した矢が彼の目の前まで迫っていた。

 だが、そんなことは意に介した様子もなく、脱力した様子で剣を振る。


 矢は、彼の振った剣により、空中で真っ二つにへし折れるのだった。


「普通に、中距離からの矢を弾きやがった……!」


 傭兵たちは驚愕する。

 だが、彼らも内心そうなるであろうことは予想していたらしく舌打ちをするだけで、動きを止めることは決してない。


 次に騎士崩れの男と仲間の傭兵による、連携攻撃だ。


 二人で、同時に少年へと斬りかかる。


 一人なら簡単に攻撃を受け止められ、反撃されてしまうだろう。

 けれど、二人なら――


 しかし、騎士崩れの男と仲間の傭兵による一撃は、空を切ることとなる。


 少年が体を僅かにずらしてその攻撃を回避したからだ。


 だが、反撃は来ていない。

 好機である。


「畳み掛けろっ!」


 二人して、何度も剣を振るう。

 それは息もつかさぬ連撃だった。


 通常ならばどれほど技量の高い人間が相手であっても、三度ほど剣を振るうだけで相手は防御が追いつかなくなるほどの密の高い連撃であった。


 だが、目の前の少年は、通常の人間ではない。


 二度、三度、四度、五度、六度、七度、八度、九度――


 何度攻撃を繰り返そうと、その全てを紙一重で回避されてしまう。


 騎士崩れの男の中で焦りが膨らんでいく。

 まるで全てを見透かされているような気分であった。


 このままではまずい。一旦、距離を取らなければ。


 そう考えた瞬間、二人の傭兵の間を矢が通り抜ける。


 後方からの支援であった。


 少年の顔目掛けて放たれ、狙い通りに飛来する。


 それに対して少年は、前衛の傭兵二人の攻撃をいなしながらも顔を傾けてその飛来した矢を回避するのだった。


 その瞬間、騎士崩れの男は「下がれ!」と叫び、連携攻撃を行なっていたもう一人の傭兵共に、素早く後退する。


 そして、十分な距離を取ったところで、息を大きく吐いた。


「くそっ、全然だ! 有り得ねぇ……!」


 少年の実力に唯々驚嘆するしかない。

 まさか一回りも歳下であろう少年一人に、ここまで歯が立たないとは……。


 だが、反撃は一度としてされなかった。

 防御に気を割くことしか出来ず、反撃が出来なかったと見る。

 つまり、自分たちの攻撃は通用している。


 なら、このまま押せば――


 乱れた呼吸を整いながらも、騎士崩れの男が、思考を巡らせている時だった。


「――もう終いか? 今度はこちらから行かせてもらうぞ?」


 楽しげな笑みを浮かべながら、少年は涼しい様子で傭兵たちに告げたのだった。

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