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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第20話 客主人分=兵数・物資・武器が少なくても、守り手は敵を分断すれば勝てる
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その2(全3回) 連邦にまつろわぬ者どもは滅ぼす!

 イグ族のたてこもる高台は、3つの(くるわ)から構成されていた。本丸・二の丸・三の丸の3つだ。それらが3段構えの防衛拠点を形成している。


 もし三の丸が陥落しても、二の丸にたてこもって守ればいい。二の丸が陥落しても、「本丸」にたてこもって守ればいい。こうやって持久すれば、時間をかせぐことができる。


 しかも、それぞれの(くるわ)は、空堀(からぼり)をめぐらし、土塁で囲み、そのうえには柵をつくってある。たやすく攻めこめない構造になっている。


「遠征軍というものは、携行できる食料や弾薬に限りがある。だから、時間をかせげば、遠征してきた敵も食料や弾薬がなくなって、退却するしかなくなる」


 そういう思想のもとに構築された防衛拠点だった。


「とりあえず盟友ミン族に援軍を要請する使者を出した――」


 村長すなわちイグ族の族長は説明した。


「――ミン族は信義に篤い部族だ。必ず助けに来てくれる。だから、援軍が到着するまでの時間をかせげば、なんとかなる」


 ここは役場にある広間だ。10数名の大人たちが代表として集まっている。連邦軍の侵略に対処する方法を協議するためだ。


「だが、問題もある。奇襲されたせいで避難が間に合わず、多くが殺された。戦える人手も半減してしまった」


「これで持久戦を戦えるのか?」


「奇襲されたせいで、大きな痛手をこうむってしまった」


 その場にいる全員が暗い表情になる。


「それにしても連邦軍は、どうして奇襲してきたのか」


 これは出席者に共通する疑問だった。


 ふつう戦争をしかける場合、事前になんらかの通告がある。


「こういう理由で戦争をしかけるから、それがイヤなら、なになにしろ」


 そんな感じの通告だ。


 もちろん、強大な相手に戦いをしかける場合は、奇襲もある。


 しかし、イグ族は弱々しい少数民族だ。連邦軍にとっては(ぎょ)しやすい相手だ。奇襲する必要もない。


「奇襲の目的は分からぬが――」


 領主先生がおもむろに口を開いた。


「――襲撃の目的は分かる。吾輩(わがはい)であろう。連邦では革命以来ずっと、いろんな形で王族狩り、貴族狩りが行われてきた。その一環として、吾輩(わがはい)の所在を見つけ、“狩り”に来たのであろう」


 みんなの視線が領主先生に集まる。


「だったら……」


 とある出席者が発言しようとしたが、途中で口をつぐんだ。しかし、言いたいことは、だれにも分かっている。


「うむ。吾輩(わがはい)が連邦軍のもとに出頭しよう。これまで世話になりながら、最後に迷惑をかけてしまった。申し訳なく思っている。願わくば許せ」


「……」


 出席者たちは、どんな言葉を言えばよいのか分からなかった。


 たしかに領主先生が連邦軍のもとに行けば、イグ族は助かるかもしれない。しかし、領主先生を見殺しにしてよいのか。そんなジレンマが頭を悩ます。


「これまで領主先生には、よくしてもらいました。それなのに、申し訳ない」


 族長が決然として言った。


 こんなときに汚れ役を引き受けるのが族長としての役目だ。


「いや。吾輩(わがはい)のほうこそ、諸君らのおかげでこれまで生きながらえることができ、多くの若者と接して未来を夢見ることができた。感謝しておる」


 かくして領主先生は柵の外に出て、連邦軍のもとに出頭していった。


「これで戦争も終わる。平和な日常が戻ってくる」


 イグ族のだれもが、そう思い、期待した。


 しかし、その期待は、無残にも打ち砕かれることになる。


 領主先生が出頭してから数日後、連邦軍からの使者――兵士たちが柵の前までやってきて、なにかを柵のなかに放りこんできた。


 どすっと鈍い音を立てて地面に落ちてきたのは、人の生首だった。


「「「領主先生!?」」」


 あまりにも予想外のできごとに、その場にいた全員の表情が凍りついた。


「われら連邦軍は、イグ族を浄化(じょうか)するであろう!」


 使者の代表が大声で宣言した。


「浄化って……?」


「つまり、おれたちを皆殺しにするってことか?」


 柵のなかにいて、その宣言を聞いただれもが青ざめた。


「もうダメだ」


 あきらめの感情がイグ族に間に広がっていく。


 翌日から、連邦軍による猛攻がはじまった。イグ族の戦士たちが激しく銃撃しても、連邦軍の兵士たちはひるまずに前進してくる。


 目の前で戦友が銃弾を受けて倒れても、その(しかばね)を平然とふみこえて前進してくる。死に対する恐れというものを感じさせない。


「あいつら正気かよ」


 イグ族の戦士たちは勇敢だが、それでも恐怖心にとらわれてしまった。


 しかし、恐怖心に負けるわけにはいかない。戦士なのだから。


 堀を渡って柵にとりついてくる連邦軍の兵士たちを排除するため、抜刀(ばっとう)し、勇猛果敢に白兵戦をしかける。


 だが、いくら斬り殺しても、きりがなかった。どうやら連邦軍は、数にものを言わせる作戦できているようだ。次から次に兵士がわいて出てくる。


 まさに「多勢(たぜい)無勢(ぶぜい)」だ。かなわない。


「退却っ」


 イグ族は三の丸を放棄することに決めたようだ。戦いに参加していたイグ族の男たちは、すばやく二の丸に走る。殿軍(しんがり)は戦士隊が担当した。


 連邦軍の兵士たちは、放棄された三の丸に次から次に入ってくる。そこで隊形を整えながら、二の丸に対する攻撃の準備をはじめた。


「この調子なら、イグ族の砦も数日のうちに陥落するだろう」


 ヤオ委員がうれしそうにつぶやいたとき、三の丸で大爆発が起きた。


 あっちでも、こっちでも、地面が爆発している。そのせいで連邦軍の兵士たちは吹き飛ばされ、大打撃をこうむった。


 イグ族は、あらかじめ三の丸のあちこちに爆弾を()めていたのだ。二の丸に退却するとき、導火線に火をつけてから逃げた。


 こうして連邦軍の兵士たちが打撃を受け、ひるんでいるところをねらい、イグ族の戦士たちが斬りこんでいく。


 さすがの連邦軍の兵士たちも、パニックになり、あわてて逃げていった。


 その日の戦いは、こうして終わった。


 イグ族のたてこもる砦のなかにある役場――その広間では、さっそく10数名の代表が集まり、翌日からの戦いに備えて協議に入る。


「連邦軍に大打撃を与え、その攻勢を退けたとはいえ、初日から三の丸を失ってしまったのは痛い」


 族長が言った。


 持久して援軍の到来をまつという作戦計画にも陰りが生じる。


「わがほうにも多くの死傷者が出ている。この調子で死傷者が出るとすれば、近いうちに持久できなくなるのは確実だ」


 ある人が発言したのだが、そのせいで場の雰囲気が暗くなった。


 今日の戦いで、戦闘に参加した戦士や住民のうち、その半数近くが死傷している。このままいけば、数日のうちに戦闘を継続できなくなるだろう。


 だれの目にも明らかな現実だが、できれば目を背けたい現実でもあった。


「あとは運次第か……」


 族長がつぶやいたとき、広間の扉が開いた。


「それは違います――」


 かわいらしい声がした。


「――運に頼らなくても、みずから運命を切り開いていける策があります」


 見ると、扉のところに1人の少女が(りん)として立っていた。クリーだ。


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