その3(全3回) 敵が大軍で強いなら、バラして弱めればいい
「今は大事な会議をしているのだから、邪魔をしてはいけないよ」
族長は、やさしい目をクリーに向け、だだっ子をさとすように言った。
「まって。よい策がある」
いくらクリーが言っても、相手にされなかった。
まあ当然だろう。ようやく8歳になったばかりの女の子が作戦について語ったとして、それをありがたく聞くような大人がいるだろうか。
クリーは警備係から抱えられるようにして、広間からつまみ出された。
そのまま役場の外へと連れて行かれる。
「お願いだから、聞いて!」
抱えられながらも手足をばたつかせ、必死になって言う。しかし、だれからも相手にしてもらえない。
「あの娘は、家族全員を殺されたらしいよ」
「血まみれになって死んでいる親御さんたちを見たらしいね」
「そのショックで、その場にへたりこんでいたのだろう?」
「それなら、おかしくなっても無理はない」
役場にいた大人たちは、あわれみの目でクリーを見るばかりだった。
「どうして聞いてくれないのーっ!」
クリーは役場の前でわめく。
だれもふりかえりすらしない。まったくの無視だ。
くやしい。悲しい。どうしようもない?
「このままじゃ、みんな死んじゃうのに……」
その場にへたりこむクリー。
イグ族が頼りとする砦も、あっけなく三の丸が陥落した。あれだけの猛攻を受ければ、こんな砦なんて「風前の灯」みたいなものだ。
今後も連邦の大軍による猛攻を受ければ、あっという間に二の丸も陥落し、本丸も制圧されてしまうだろう。そのくらい子どもにだって分かる。
だけどクリーは、なにもできない。無力感が心を支配していく。
「やっぱりクリーか――」
クリーが膝をかかえ、力なくうつむいていると、聞き覚えのある声がした。
顔をあげると、アルキンがいた。
「アルキンさん……!」
クリーは、ふっと全身の力がぬけるような感覚にとらわれた。知らず目からは涙があふれてくる。緊張の糸がほどけたのだろうか。
クリーの家族と、お隣のアルキンの家族は、昔から家族ぐるみの付き合いをしていた。クリーは生まれたときから、「お兄ちゃん」のアルキンにかわいがってもらっている。
だから、家族を皆殺しにされたクリーにとって、今やアルキンだけが唯一の甘えられる「家族」だった。
そして、それは家族を虐殺され、妻子を惨殺されたアルキンにとっても同じだった。アルキンにとってクリーは、今や唯一の守るべき「家族」だ。
「避難所でおとなしくしているのかと思えば、こんなところに出てきて騒いでいるとは、びっくりしたぞ」
アルキンは、その巨体をかがめ、視線をクリーにあわせながら言った。
「……」
クリーはうつむき、黙っている。
「とりあえず話してみろ。さっきからわめいていた、クリーの考えた策とやらを」
「聞いてくれるの?」
クリーは顔をあげ、アルキンの顔をまじまじと見つめる。
「もちろんだ」
アルキンは、その巨体に似合わないような笑顔で言った。
(だれかが話を聞いてやれば、クリーも少しは気もちが晴れるだろう)
そんな軽い気持ちでクリーの話を聞きはじめたアルキンだったが、聞き終わって驚いた。
「それは本当にクリーが自分で考えたのか?」
「うん。領主先生から教えてもらった話をヒントにして考えた――」
クリーは笑顔で言う。
「――ミン族の昔話に出てくるユエフェイさんは、こんなふうにして勝ったんだって。だから、それをマネして考えてみた」
(おれたちは今まで力だけで戦ってきた。だが力だけでは、強大な力をもつ連邦軍に勝ってこない。だが、この手を使えば、もしかすると起死回生をはかれるか)
「なかなかの名案だと思うぞ。さっそく仲間に話してみよう」
アルキンは今、自分と同じように家族を殺された者たちとつるんで、小さな自警団をつくり、戦士隊といっしょになって戦っていた。それがアルキンの言う仲間だ。
ちなみに、アルキンは、自警団の武器弾薬が尽きたので、補充してもらうために役場をおとずれた。すると、わめきながら連れ出されているクリーを見かけ、驚いたらしい。
「――というわけなんだが、どうだろうか? やってみないか?」
アルキンは、数十人の屈強そうな男たちを前にして言った。
彼らはアルキンの仲間たちだ。その全員が家族を惨殺されており、天涯孤独の身の上になっていた。だから――
「もはや失うものは、命くらいしかない。この命にかえても、必ず復讐してやる!」
そう心に強く誓っていた。
「連邦のやつらは兵力も、食料も、武器も、おれたちより格段に上だ」
「このまま戦っても、どのみち勝ち目はない。いずれ追いつめられ、まちがいなく死ぬ」
「どうせ殺されるなら、一か八かやってみるのも悪くない」
「連邦のやつらに一泡ふかせられる可能性があるのなら、なんでも試してみたほうがいい」
仲間たちは、アルキンの提案をこころよく受け入れた。
そこでアルキンは、すぐさま話しあって段取りを決めると、その足で役場の地下牢に行った。
「自警団の活動で来た。入っていいか?」
アルキンが問いかけると、警備担当者は笑顔で答えた。
「お疲れ様です。アルキンさん。どうぞ」
地下牢には、いくつもの部屋――牢屋がある。そこには三の丸での爆発に巻きこまれ、逃げそこない、捕虜となった連邦軍の兵士たちが収容されていた。
アルキンは巡回しながら、捕虜たちのいる牢屋をのぞきこんでまわる。そして、とある牢屋の前にくると、びっくりしたように足を止めた。
「タルじゃないか!?」
アルキンは、1人の捕虜へと驚きの視線を向けながら言う。
「こんなところにいたのか!」
そう言われたほうの捕虜は、キョトンとしている。
しかし、アルキンは気にせず、うれしそうに話しかけ続けた。
「まったく返事をよこさないから、心配していたのだぞ。だが、こうして再会できてよかった。安心したぞ」
アルキンは、警備担当者に事情を話し、アルキンが“タル”と呼ぶ捕虜を釈放してもらった。
いっぽう“タル”と呼ばれた捕虜のほうは、わけが分からない。
(こいつは人違いをしているようだが、どうする?)
捕虜は、思いもよらないことになり、とまどっていた。
「ここは窮屈だったろう? とりあえず広いところに出てから話そうか」
アルキンは、捕虜をいざないながら地下牢を出て、役場の外に向かう。
「……」
「どうした? さっきから変だぞ。捕虜になったショックでおかしくなったか? ははは」
アルキンは、快活に笑った。
しばしの沈黙。捕虜はなにやら思案しているようすに見える。
「……どうも頭を強打したらしい。そのせいか、どうも記憶があいまいでな」
どうやら捕虜は、かんちがいで釈放してもらえたことを利用して脱走しようと心を決めたようだ。
「なに!? だいじょうぶか?」
アルキンは、心配そうに捕虜の顔をのぞきこむ。
「あ、ああ……。おそらく問題ないだろう。戦場ではよくあることだし……」
「あいかわらず考え方がポジティブだな。安心したぞ」
「ま、まあな」
「ところで、あの件は、どうなった?」
アルキンは、声のトーンを落として言った。周囲のことをかなり警戒している。
「?」
「まさか忘れたのか?」
「……すまない」
「この非常時に、かんべんしてくれよ」
アルキンは、がっくりと肩を落とす。
しかし、すぐに気をとりなおしたようだ。真剣な表情で捕虜を見た。
「まあ、その件は終わりにしよう。ちょうど新しい任務を与えられ、捕虜のなかにスパイになってくれそうなのがいないか、物色していたのだが、おまえに再会できてよかった。渡りに船とは、このことだな。一つ頼まれてくれないか」
「内容にもよるが、名誉挽回のためにも、できることはしたい」
「それは助かる。急いで連邦軍の野営地に戻り、あいつに族長の密書を手渡してほしいのだが、できるか?」
(あいつって、だれだよ? 知らねぇし)
捕虜は思う。そして、頭をフル回転させて計算する。
(だけど、それを質問すれば、人違いであることがばれるかもしれない。そうなると逃げられなくなる。とりあえず知ったかぶりをしたほうがいいな)
「わかった。確実に届けてやる。任せろ」
「おお! それは心強い」
かくして捕虜はアルキンから密書を受け取ると、自警団の手引きで夜陰にまぎれてイグ族の砦を出た。そのまま連邦軍の野営地に戻る。
(敵から重要機密を手に入れることに成功したのだから、恩賞も期待できる)
そんな下心をいだきながら、事情を報告したうえで、密書を軍吏に差し出した。
軍吏とは、軍隊の管理を担当する役人のようなものだ。部活で言うなら、マネージャーみたいな役割に相当する。
軍吏は、密書を受けとると、すぐさま直属の上官であるヤオ委員のもとに届けた。
ヤオ委員は、寝ているところを起こされ、不機嫌になる。しかも、寝起きなので、まだ頭のなかがボンヤリしていた。
しかし、密書の中身を確認したとたん、驚きのあまり、一気に目が覚める。そして、すぐさま将校たちを本部テントに召集した。
「このなかに裏切り者がいる」
ヤオ委員は、厳しい目つきで将校たちをにらめつける。
「「「?」」」
将校たちはキョトンとしていた。
「これを見ろ」
ヤオ委員は、放り投げるように密書を将校たちに渡す。そこには、こんなことが書いてあった。
『あなたがイグ族のために尽力してくれるということで感謝している。計画どおりに司令官の寝首をかいてくれたなら、われらの秘宝をまちがいなく提供する。安心してほしい。ただ状況が差し迫っているので、計画の前倒しをお願いしたい』
「で、だれだ? だれが裏切り者なんだ?」
ヤオ委員は、いまいましそうに言う。
もちろん、自分から「私が裏切り者です」と名乗り出る人間などいるわけがない。それに密書がイグ族による謀略の可能性もある。うのみにするのは危険だ。
しかし、そんなことを言えば、ヤオ委員のことだから、こう言うだろう。
「おまえが裏切り者だな。だから敵の謀略だとか言って、密書のことを否定しようとするのだろう」
そうなれば、わが身に危険が及ぶ。だから、将校たちは黙っている。
(もしかして、こいつら全員が裏切り者なのではないか?)
ヤオ委員は、将校たちの無反応な反応を見て、疑心暗鬼になっていく。
そのとき前線から緊急の報告が届く。
「わが前哨基地の1つが壊滅しました!」
「は?」
ヤオ委員は、あんぐりと口をあけたまま、言葉を失った。
「イグ族の夜襲か?」
将校のひとりが問う。
「それが、たまたま生き残ることのできた兵士の報告では、味方に襲撃されたとのことでした。そのせいで油断して前哨基地を失ったのだとのことです」
「なんだと!?」
ヤオ委員は、怒り狂った。テーブル上のものを手当たり次第に投げ飛ばし、その辺にあったイスなどをすべて蹴とばしてまわる。
もはやだれの手にも負えないような状況だった。
ちなみに連邦軍の前哨基地を襲撃したのは、連邦軍の軍服を身にまとったアルキンの仲間たちだった。軍服は捕虜から奪ったものだ。
「たくさんの兵隊さんがいて、食べ物もたっぷりあって、武器もいっぱいあるなら、強いと思うけど、強いものほど折れやすいって、領主先生が言っていた――」
クリーは、アルキンとその仲間たちを前にして「策」を説明していた。
「――ポキポキ折って、バラバラにしてしまえば、かんたんに勝てるって言っていた」
「つまりは、3本の矢みたいなものだな――」
仲間の1人が言う。
「――3本の矢をまとめて折ろうとすれば難しいが、1本ずつ折るならかんたんに折れるようになる」
「だが、どうやってバラバラにするんだ?」
別の仲間が言った。
それはだれもが抱いた疑問らしく、その場にいた全員がうなずき、クリーに注目した。「どうするのか教えてほしい」と言わんばかりの表情をしている。
クリーは、たくさんの大人たちに見つめられ、思わずひるんだ。
だけど、がんばって話す。死にたくないし、みんなで生き残りたいから。クリーは、クリーなりに必死だった。
「領主先生から教えてもらった話だけど、昔、ユエフェイさんという人は、ウソの手紙を書いて敵をだましたから、それをマネしたらいいと思う」
こうして用意されたのが、族長の密書だった。
「連邦軍のえらい人たちは、だれに宛てられたものか分からない秘密の手紙を見たら、だれが裏切り者か分からないから、お互いに“あいつが裏切り者かもしれない”と疑いあうようになる」
「いわゆる疑心暗鬼ってやつだな」
アルキンがぽつりと言った。
「えっ? なに?」
「なにかを疑う心をもっていると、なんでもかんでも疑わしくなってしまうという意味だ」
「だったら、それだと思う。お互いがお互いのことを疑うようになれば、みんなの心がバラバラになる。心がバラバラになれば、チームプレイがとれなくなるから、弱くなる」
「「「なるほど」」」
アルキンとその仲間たちは、感心したようにうなずく。
「あとはウソを本当だと信じてもらいやすくするため、連邦軍のふりをして、連邦軍を襲ってみたらいいと思う」
「どういうことだ?」
アルキンが問うた。
「味方だと思っていた人から襲われたら、連邦軍の兵士たちは“味方のように見えても、本当は敵のやつがいる”と思うようになる。そうなると、秘密の手紙を知ったとき、連邦軍のなかに裏切り者がいるということを信じやすくなると思う」
「お嬢ちゃん、あんたは神童か?」
仲間のうち1人が、冗談まじりにクリーをほめた。
「だいの大人だって、なかなか思いつかないぜ。ははは」
「領主先生が教えてくれた。困ったことがあっても、歴史をヒントにしたら、どうにかする方法が見つかるものだって。だから、領主先生に教えてもらえば、だれだって思いつくようになれるから……だから……」
でも、領主先生は、死んでしまった。殺されてしまった。もう二度と会えない。
そのことを思い出すと悲しくなる。とめどなく涙がこぼれる。言葉がつまって、話せなくなる。
「とにかく策は分かったな?」
アルキンが、むせいで言葉を失っているクリーを励ますかのように、その肩にポンと手をおきながら言った。
仲間たちは、決意に満ちた表情でうなずく。
(これ以上、子どもたちを悲しませるわけにはいかない。そのためにも今、おれたち大人が全力をつくさないといけない)
こんなことがあって、アルキンとその仲間たちは、連邦軍の兵士に化けて、連邦軍の前哨基地を奇襲したのだった。
このとき、彼らは憎しみのままに連邦軍の兵士を斬り殺してまわる。復讐心に燃える彼らは、まるで鬼神のように強かった。
「ひとり残らず殺してやる」
こういう思いだったが、しかし、わざと1人だけは逃がした。
「味方から襲撃されました」
そのように報告させるためだ。
はたしてヤオ委員は、まんまとだまされた。
「やっぱり、わが軍には裏切り者がいる!」
そう思いこんだヤオ委員は、怒り心頭だった
(もはや猶予はならない。グズグズしていれば、このボクが寝首をかかれてしまう!)
「であえっ!」
ヤオ委員が叫ぶ。
軍警察がわらわらとテント内に走りこんできた。
「こいつらをひとり残らず逮捕しろ」
「「「!?」」」
この遠征軍の幹部たち全員を逮捕するって?
そんなことをすれば、現場で指揮をとる者がいなくなり、まちがいなく混乱する。
まともに戦えなくなることはもちろんだし、そこを奇襲でもされたら、目もあてられない。あっけなく敗退するだろう。
(ヤオ委員の命令は、どう考えても、まともじゃない!)
だから、軍警察は、だれ1人として動こうとしない。と言うか、動けない。
たとえ上官の命令であっても、あきらかに常軌を逸した命令なら、従わないほうがいい。従えば大変なことになる。従って失敗すれば、従った自分までも罪に問われる。
軍警察は、だれもがとまどい、固まってしまった。
「おまえらもグルかっ!? 逮捕するぞっ! 処分するぞっ!」
ヤオ委員は感情的になって叫ぶ。腰の拳銃を抜き、軍警察に向けようとする。
「!」
その瞬間。
将校のうち、1人がすばやく動き、ヤオ委員を取り押さえた。
「なにをするか!? 無礼者め! 離せ!」
ヤオ委員はもがくが、さらにギュッと押さえこまれる。
「うっ、ぐぅ……」
いくらもがいても、あがいても逃げられない。
「ヤオ委員の狼藉ぶりは、もはや看過できないものがあります。軍規を維持するためにも、その身柄を拘束します」
将校は、ヤオ委員をおさえこんだまま、その拳銃をとりあげる。
「くそっ! これは軍法会議ものだぞっ! 覚悟しとけっ!」
「どうぞ好きにしてください」
言いながら将校は、ヤオ委員をロープで縛りあげる。
「連行しろっ」
将校はヤオ委員を縛りあげると、その身柄を軍警察に引き渡しながら言った。
「はっ!」
軍警察は、さっと敬礼すると、そのままヤオ委員を「独房」に監禁した。
かくして一晩のうちに形勢が大きく逆転することになる。
翌朝、イグ族は連邦軍による二度目の総攻撃に備え、戦える男たち全員を武装させ、配置につかせていた。
しかし、まてど暮らせど、連邦軍は姿をあらわさない。
そうこうしているうちに昼になった。
「連邦軍が野営地を引きあげ、退却しています!」
偵察に出ていた斥候から連絡が入る。
(なにかの策略ではないか?)
族長は思った。
「油断するな。警戒を厳にせよ」
しかし、夕方になっても、連邦軍による攻撃はなかった。翌日になってもない。数日が過ぎても、なにもなかった。
そうこうしているうちに、ミン族の援軍が無事に到着した。ここでイグ族の族長は、ミン族の族長から意外なことを聞かされる。
「貴殿らは、多大な犠牲を払われたが、みごと連邦軍を退けられましたな」
「退けた……? と申しますと?」
「わがほうの斥候によれば、連邦軍の将兵は貴殿の手紙がキッカケとなり、内輪もめが起きて退却するしかなくなったと話しておるとのことでしたぞ。なにか離間策でも使われたのでしょう? そのみごとなお手並み、ぜひお聞かせ願いたい」
「?」
イグ族の族長は、なんのことやら、さっぱり分からなかった。
しかし、その後、今回の戦役について情報を整理しているなかで、こういう結論にいたる。
「どうやらクリーが考案し、アルキンとその仲間たちが実行した策が功を奏したらしい」
このことは、ふつうに考えたら「ありえない話」だ。だから、みんなが話題にした。
「わずか8歳の女の子が、知略を使って、連邦の大軍を追いかえしたそうだ」
この話は、またたく間に広まっていき、ついには連邦にまで伝わることになる。
なお連邦では、イグ族の村「チムル」にちなんで、その少女のことを「チムルの魔女」と呼ぶようになった。
全文訳『孫ピン兵法』客主人分
軍事には、攻め手の兵力配分があり、守り手の兵力配分があります。攻め手の兵力配分は多くが必要ですし、守り手の兵力配分は少しで足ります。攻め手が通常の2倍の兵力をもち、守り手が通常の半分の兵力しかもたなくても、両者の力は対等になります。~2倍~
~定まるものです。攻め手は、あとで定まるものです。守り手は、のんびり現地にいて、じっくり勢いを蓄えることで、攻め手を待ち構えます。
そもそも攻め手は、無理を承知で隘路を通りぬけ、苦労を承知で難所を乗りこえて、やってきます。そもそも無理を承知で隘路を通りぬけ~
~退くときにはあえて首を切りますし、進むときにはあえて敵に抗戦しようとしません。その理由は、どうしてでしょうか。それは、形勢が不便で、地形が不利だからです。
形勢が便利で、地形が有利であれば、人民はみずから(進み)~みずから退きます。いわゆる戦いのうまい人とは、形勢を便利にし、地形を有利にする人です。
率いる完全武装の兵士が数十万人であれば、(軍隊にとられるので)人民は余分な食糧をもっていても食べられなくなります。余分な~をもっていても~。所属する兵士が多くても、戦える兵士は少なくなります。いる人が豊富でも、使える人は不足します。
数十万人の完全武装の兵士が、千人規模で次から次に出征していけば、そのぶんだけ次から次に補給し~一万人規模で次から次にこちらから行かせます。いわゆる戦いのうまい人とは、たとえば~が解かれるように、うまく敵を分断する人です。
敵兵を分断でき、敵兵をコントロールできれば、勝算をはかって優勢となります。敵兵を分断できず、敵兵をコントロールできなければ、数倍の兵力があっても劣勢となります。
兵士が多いと勝てるのかと言えば、(そんなことはなく)ただソロバンをはじいて戦っているだけです。物資が豊かだと勝てるのかと言えば、(そんなことはなく)ただ物量を見積もって戦っているだけです。武器が鋭利で、防具が堅固だと勝てるのかと言えば、(そんなことはなく)ただ勝ちやすいとわかるだけです。
ですから、富んでいるから安全だとは限りませんし、貧しいから危険だとは限りません。多いから勝てるとは限りませんし、少ないから負けるとは限りません。勝つか負けるか、安全か危険かを決めるのは、道理です。
敵兵が多いとき、敵兵をバラバラにさせて互いに助け合えないようにさせられたとします。すると、攻撃を受けた場合に互いに~することができず~。
~それによって堅固になる(ことはできません)。防具が堅固で、武器が鋭利でも、それによって強くなることはできません。兵士が勇ましくて力強くても、それによって将軍を守ることはできません。以上のようであれば、勝つのは道理にかなっています[勝って当たり前です]。
ですから、賢明な君主や道理のわかっている将軍は、必ず先に~し、開戦する前から成功が見えていますから、しくじりません。開戦した後は予定していた成功を実現するだけですから、出兵すれば成功しますし、退くときも損害を受けません。そのようであれば、軍事のわかった人です。
五百十四字
※その他、残っている言葉
~です。敵に対して攻め手となれば、敵に先んじて~をなして~
~兵法に、こうあります。守り手が国境で攻め手を迎撃~
~攻め手が好戦的なときには~
~疲れさせ、全軍の兵士は分散させ、(そうして)敵の意欲を失わせれば、まちがいなく勝てます。そういうわけで、左をけん制して右を攻めれば、右が負けても左は救いに行けません。右をけん制して左を攻めれば、左が負けても右は救いに行けません。そういうわけで、兵士はしゃがんで立ち上がりませんし、逃げ腰になって使い物になりません。近くでは少なくて役に立ちませんし、遠くでは~できません~




