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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第14話 官一篇=兵士をうまく動かし、たくみに布陣し、きっちり武装する
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その2(全3回) シャオ隊長は、裏切った

「キミらがグズグズして進まないから、負けたんだよ」


 オウツカ少将は忌々(いまいま)しそうに言った。


 その目の前には、シャオ隊長が(ひざまず)いている。


 オウツカ少将の左右には、数十名の守備兵が銃をかまえ、護衛にあたっていた。


 ここは海港都市・ゴトーの中央広場。周囲には、たくさんのやじ馬が群がって、興味深そうに推移を見守っている。


 やじ馬の前には守備兵がいて、シャオ隊長らのいる広場中央に近づけないように警備していた。


「処分を言いわたす!」


 シモダ准将は、おもむろに進み出て、文書を高らかに読み上げた。


「民族義勇軍・指揮官シャオは、わざと進軍速度を落とし、帝国軍の作戦行動を阻害した! その罪は重い! よって、ここに仗刑(じょうけい)50を言いわたすものである!」


 数人の守備兵が、シャオ隊長を押さえる。


 シャオ隊長は無念の表情で、オウツカ少将をにらみつけた。しかし、抵抗はしない。そんなことをしてもムダであると分かっているからだ。


 守備兵の一人が、「軍人精神注入棒ぐんじんせいしんちゅうにゅうぼう」と記されたバットのような棍棒(こんぼう)を振り上げる。


 棍棒(こんぼう)がシャオ隊長の臀部(おしり)を目がけて勢いよく振り下ろされた。鈍い打撃音が響く。


 あまりもの激痛に思わず顔をゆがめるシャオ隊長。


「ふふん。よい見せしめになるね」


 オウツカ少将は、ニヤニヤしながら言った。


「はい。善戦健闘(ぜんせんけんとう)できぬ者がどうなるか、目に見える形で示すことができます」


 シモダ准将は、能面のような表情で、シャオ隊長を見ている。


 仗刑が後半に近づくころにはシャオ隊長の臀部(おしり)の皮が破れ、ズボンから血がにじみ出てきた。


 その威力は、仗刑が終わったとき、一人で立ち上がれないほどだった。守備兵たちは、そんなシャオ隊長を抱えて放り出す。その場に倒れこむシャオ隊長。


「「「隊長っ!」」


 民族自治会のメンバー数人が駆けよってきて、シャオ隊長をかかえあげた。


「本来ならば死罪にあたるところ、司令官閣下のご恩情により、この程度で許されたことを忘れるでないぞ」


 シモダ准将は、たんたんと言った。


「今後は心をいれかえ、忠勤に励め」


 そう言うオウツカ少将は、汚らわしいものでも見るかのような目つきをしていた。


 シャオ隊長は黙って激痛に耐えながらオウツカ少将を(にら)みつけるしかできなかった。


 オウツカ少将は、敗戦後、これ以外にも「戦後処理」を矢継(やつ)(ばや)に打ち出していた。


 その一つに「商人が海賊と商売することを禁じる」というものもあった。


 海賊たちは高価な金品ばかりを強奪(ごうだつ)して、食料品を強奪することはしなかった。海賊行為は、すばやく襲い、すばやく奪って、すばやく逃げる必要がある。そうしないと、救難信号を見つけた帝国軍の軍艦が救援に駆けつけてきて、戦闘になる恐れがあるからだ。


 だから、単価が安い食料品を強奪するのは、割にあわない。わざわざ身の危険を冒してまで手に入れる価値がない。商人から買ったほうが安くつく。


 ちなみに、武器弾薬などの軍需品も、かさばるし、重いし、強奪するのが大変なので、武器商人から購入することが多かった。


 そこで、商人と海賊との商売を禁じ、それを取り締まれば、海賊は食べるものに困るようになる。戦い続けることもできなくなる。


兵糧(ひょうろう)()めだよ。こうすれば、海賊は自滅する。まさに戦わずして勝つ妙手(みょうしゅ)だ」


 オウツカ少将は、自慢げに言っていた。


 しかし、しょせんは机上の空論だった。西部は、未開拓の地域であり、帝国の威令がゆきわたっていない。海賊、山賊、馬賊が横行している。


「賊と取り引きしている商人は、襲わない」


 これは賊(海賊、山賊、馬賊)たちの暗黙の了解だった。いずれかの賊と商売している商人なら、どの賊も襲わない。


 たとえば馬賊と商売している商人は、馬賊だけでなく、海賊や山賊からも襲われることがない。商人の安全は保障される。もし商人たちが来なくなれば、どの賊も必要なものを手に入れられなくなり、困るからだ。


 だから西部で商売する商人としては、帝国の命令に従うよりも、賊との関係を保ったほうが安全に商売できる。


 というわけで、商人たちは、密かに賊との商売を続けた。この日も、海賊に依頼された食料品を満載したキャラバン隊が、海賊のアジトに向かっていた。


 キャラバン隊(荷馬車40台)は、砂州(さす)を通り、海賊のアジト――半島に向かう。砂州には丈夫(じょうぶ)なシートが臨時に()かれ、車輪が砂に沈まないようにしてあった。


 先の戦いで戦死した民族義勇軍の兵士たちの死体は砂州(さす)に放置されたままで、鼻をつくような腐臭(ふしゅう)が辺り一帯に(ただよ)っている。その光景は、おぞましく、目を背けたくなる。


 キャラバン隊のうち1台を見ると、大柄の男性が馬車を運転していた。その隣には、小柄な少年が助手として御者台(ぎょしゃだい)に腰かけている。


「痛ましいな……」


 大柄の男性がぽつりと言った。


「うん」


 小柄な少年はこくりとうなずく。


「だが“勝敗は兵家の常”と言う。だから、気にするな、クリー」


「ありがとう、アルキン……」


 今回、クリーとアルキンは、海賊のことを知るため、運搬人のふりをして、キャラバン隊に同行していた。


 二人は死者を(とむら)いたかったが、そんなことをすれば海賊に目をつけられかねない。だから、心の中で冥福を祈った。


 今回のキャラバン隊を取り仕切っていた商人も、皇太子のもとにいる軍人に協力すれば、たとえ西部辺境守備軍の命令に背いて海賊と商売し、それがバレたとしても「皇族からの命令」とすれば言い訳がつく。だから、2人に協力することにしたのだった。


 人は損得で動かせる。そんな教えが『孫子』の兵法にあったと思う。


 キャラバン隊は砂州を渡り終えると、そのまま(ゆる)やかな山道を登っていく。


 中腹までくると、火口縁(かこうえん)――外輪山(がいりんざん)屹立(きつりつ)していて、断崖絶壁(だんがいぜっぺき)が行く手を(はば)む。その断崖絶壁(だんがいぜっぺき)には、大きな門扉(ゲート)があった。


 キャラバン隊が近づくと、そこを警備していた海賊が商人の身元を確認する。そのうえで門扉(ゲート)を開く。なかは大きな鍾乳洞(しょうにゅうどう)を利用したトンネルになっていた。路面は平坦に(けず)られていて、馬車が通りやすくしある。


 トンネルと抜けると、そこは火口跡の内部だった。ぐるりと断崖絶壁(だんがいぜっぺき)に囲まれた大きなくぼ地の(はし)っこにあたる場所だ。目の前には、ちょっとした田畑が広がっている。海賊のアジトのある集落も見えた。


 海賊の集落は、意外と人数も多く、広くてにぎわっていた。ただし無計画に建物の増改築や、集落の拡張をしてきたようで、集落内は雑然とした感じがする。


 商人は、海賊のアジトに1週間ほど滞在して、海賊に食糧品を受け渡し、海賊の強奪品を買い取る。そのための商談を毎日のように行っていた。


 その間、運搬人たちは、集落の一角にある宿泊施設に滞在することになる。


 海賊の性格がズボラなのか、それとも「ここまで敵が来ることはない」とタカをくくっているのか、運搬人たちは集落内を自由に出歩くことができた。


 だから、クリーとアルキンも、できるだけ目立たないように注意しながら、集落内を歩き回り、情報を集めた。


 ――ワンジー船長は、親分肌(おやぶんはだ)豪傑(ごうけつ)で、いくつもの海賊を(たば)ねている。清濁をあわせのむ人物で、来るものは拒まない。ただし、去る者には厳しい制裁を課す。


 ――シューハイ副長は、良家の出身らしいが、詳細は分からない。なかなかの策士である。今はなきハン王国の貴族の血筋(ちずじ)だという話もある。


 ――商人のうち、武器商人だけは、帝国軍との取り引きのほうがもうかるので、すなおに西部辺境守備軍の命令に従い、海賊との取り引きを停止している。


 ――海賊には、先の戦いで武器弾薬を大量に消耗しており、あと2回くらいしか大がかりな戦闘をできない。


 ――海賊たちの首脳部は、帝国軍との次なる戦いに備え、必死になって策をねっている。


 ――小型ボートによるテロ行為は、どうも海賊の仕業(しわざ)ではないらしい。


 そんなことが分かった。


 なお、今回のように商人のふりをして敵地に潜入し、スパイするというやり方には先例がある。


 ミン族の故地での話だが、(ミン)国の熊景(ションジン)は、政府に反抗的な少数民族の内情をさぐるため、部下に商人のふりをさせて潜入させている。


 このスパイ活動は成功し、少数民族を平定するために役立った。


 では、今回のクリーたちの潜入捜査は、どうだったろうか?


「どうだ? 収穫はあったか?」


 アルキンが、こっそりたずねる。


「うん。少しはあった」


 クリーは、こくりとうなずく。


 ところで、商人は予定どおり1週間で商売を終わり、帰路についた。


 行きの馬車には食料品が満載してあったが、帰りの馬車には高価な工芸品などが積みこまれていた。いずれも海賊から買い取った「強奪品」だった。


 クリーとアルキンも、もちろん一緒に帰還する。


 それから数日後のことだった。


 海港都市・ゴトーは、こんな話題でもちきりだった。


「シャオ隊長が、民族義勇軍の数十名をひきつれ、帝国軍の倉庫から大量の武器を持ち去ったらしいぞ」


「聞いた話じゃ、その中には最新鋭の武器もあるって話だ」


「あいつらは、それらの武器を手土産(てみやげ)にして、海賊のもとに走ったそうだな」


「連中も、今回の処分が、よほど気に食わなかったのだろう。まあ、たしかに、あれは“とんだ言いがかり”みたいなもんだったしなぁ」


 海港都市・ゴトーの住民たちは、だれもがシャオ隊長に対し、同情的だった。


 これはシャオ隊長に人望があったというより、オウツカ少将に人望がなさすぎたからだろう。


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