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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第9話 勢備篇=兵器の大切さ
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その2(全2回) 兵器には象徴するものがある

 フミト皇太子は、北部辺境守備軍の司令部に隣接するアパートのワンフロアを借り切って、私邸としていた。


 住居としては広いが、そこには身の回りの世話をする執事やメイドたちも一緒に住んでいる。だから、フミト皇太子がプライベートに使えるのは、その私室くらいなものだった。


 トラックが納品された日の夜、そのアパートで、ハナ皇姫の歓迎会が開かれた。フミト皇太子が主催し、副司令官ヤマキ中将、クリー、アルキンが招待された。


 ハナ皇姫は、饒舌(じょうぜつだ)だ。


「フミトお兄様は、頼りなく見えるけど、良心的だから、接しやすいのよね――」


 うれしそうにしゃべるハナ皇姫。


「――それに比べたら、タケトお兄様は、野心的でしょ? 昔はもっとやさしかった気もするんだけど、今はなにを考えているのか分からないから、とっつきにくいのよね。だから、息がつまっちゃう」


「そうか」


 フミト皇太子は、ほほ笑みながらハナ皇姫の話を聞いている。


 しかし、話題が皇族批判だと、ヤマキ中将としては困る。あいづちの打ちようがない。


 クリーとアルキンは、基本的に無口なので、あまり気にならないようだが。


「だからね、あたしとしては、フミトお兄様に早く帰ってきてほしいわけ」


「そう言われてもなぁ」


「帰還を早めるためにも、フミトお兄様は、クリーを師匠だと思って、しっかり兵法を教えてもらわないとダメよ」


「そうだね。ははは」


「たとえば、今日だって、兵器のシンボル的な意味を知らなかったでしょ?」


「シンボル的な……? 昼の話か?」


「そうよ。あれくらい常識よ」


「そうなのか」


「そうよ。戦争するなら、未開の野蛮人じゃあるまいし、まさか素手(すで)で戦うわけにはいかないわ。なにはさておき兵器が必要になるわよね?」


「うむ。必要になるな」


「だから、兵器のことを知らないと、はじまらないわけ」


「なるほどな。昼の話だと、たしか4種類あったかな?」


 フミト皇子は、クリーを見た。ちょっと説明してくれと言わんばかりに。


「わが一族に伝わる兵器には、刀剣、弓矢、乗物(のりもの)長物(ながもの)の4種類がある」


 クリーが答える。


「うん。そう言ってたな」


「はい。そして、それぞれが陣形、勢力、臨機応変、権謀術数を象徴している」


「そこまでは、たしか聞いたね?」


「はい。これは言いかえると、戦うとき、陣形、勢力、臨機応変、権謀術数の4つが兵器の代わりになるということでもある」


「まあ、熟語ばかりで、フミトお兄様には難しいかもしれないから、あたしがかみくだいて教えてあげるけど――」



 ハナ皇姫が会話に割って入ってきた。黙っているのは苦手なのだろうか。


「――つまりね、フォーメーションを組み、エネルギッシュになり、ケースバイケースでやり、トリックを使うことで、勝利をつかめるということよ」


 ドヤ顔で語るハナ皇姫。


 フミト皇太子は、ほほえましそうに見ている。


「姫様、お言葉ではありますが――」


 ヤマキ中将が、恐縮しながら、口をはさんだ。


「――そのようなことでありましたら、わが軍もふだんから考慮し、取り組んでいる事柄であります」


 ヤマキ中将の言葉は、乱暴に言うなら、「言われなくても、それくらい分かってますよ」と言うことだ。


 もちろん、ヤマキ中将には、ハナ皇姫のあげ足をとるつもりなど毛頭(もうとう)ない。ただ、フミト皇太子もがんばっていることを伝えたかったのだ。


 ともあれ、ハナ皇姫は、兵法の定石(じょうせき)から考えて、たしかに特別なことは言っていない。


「そうよ。だから言ったでしょ、“あれくらい常識”って」


「あ、ああ、はい、たしかに……。いやはや恐れいりました」


 恐縮するヤマキ中将。


(姫様も、なかなかの巧弁家(こうべんか)でいらっしゃる。おしゃべりは軍人には向かないものだが、しかし、姫様は政治家には向いておられるかもしれんな。ある意味、将来が楽しみではある)


「あたしなりに先の連邦“百万の大軍”との戦いを分析してみたんだけど、これにピッタリあてはまるわ」


「ほう」


 フミト皇太子は、興味深そうにうなずいた。


「まずはフォーメーションだけど、フミトお兄様たちは、敵の砲弾が飛んできても、隊列を乱さずに突撃していった。きちんとフォーメーションが組めていた証拠よね」


「まあ、このへんは、ふだんからヤマキ中将が、将兵らを厳しく訓練しているからね。どんな状況でも足なみを乱す将兵がひとりも出ないのは、ほんとうにスゴイと思っている。ヤマキ中将には、いくら感謝しても、したりないくらいだ」


「おお! 殿下、自分は果報者です!」


 ヤマキ中将の目からは感動の涙が。


「殿下のためなら、このヤマキ、いつでも死んでみせますぞ!」


 苦笑いするフミト皇太子。


「ヤマキ中将ったら、大げさねぇ。でも、ヤマキ中将がいなければ、フミトお兄様もとっくの昔に戦死していたであろうことは、たしかね」


「そうかもな。ははは」


「もう。笑いごとじゃないんだけど――」


 ハナ皇姫は、ムスっとした。


「――まあ、いいわ。それからエネルギッシュだけど、突撃するとき、すべての将兵が勢いよく突撃していったわよね」


「まあ、急がないと、敵からの第2斉射で、大きなダメージを受けるからね。みんな必死だったから、けっこう勢いがよかった」


「それがエネルギッシュってやつよ。そんでもって、ケースバイケースだけど、こちらが少数で、敵が大軍なら、本来なら城にたてこもっているべきところよね?」


「うむ。そうだね」


「でも、あのときの状況からして、出ていったほうがよかったから、出ていった。こんな感じで、ケースバイケースで戦ったわ」


「なるほどな」


「で、最後にトリックだけど、左右にいた伏兵が突如として軍旗を立てたり、ラッパを吹いたりして、大軍がいるように見せかけた。それから、潜入部隊が“負けたぞ”って叫んでまわって、敵をかんちがいさせた。これはトリックよね」


「だな。しかし、まあ、そう考えると、先の戦いは、4つのシンボルがみごとに反映されていたのだなぁ」


「あたりまえよ。だって、クリーが考えた作戦なんだもの」


「ああ、そうか。ははは」


 かくしてハナ皇姫の歓迎会は、はからずも兵法談義となった。


 こうして和気あいあいと歓迎会がおこなわれていたころ、格納庫では納品されたトラックすべての点検と整備がようやく終わった。


 予定より大幅に遅れてしまったが、こなれてしまえば、もう少し早く終わるようになるだろう。


 格納庫は、司令部の裏手、軍需倉庫地区の一角にあった。


 その地区に入るには、正面ゲートを通るしかない。そこには、当然のことながら警備兵がいる。


 ゲートの脇には、警備兵のための詰所(つめしょ)もあった。食堂、寝室、浴室、トイレなどもあり、つねに数十人が詰めている大がかりな詰所だ。


 当番の警備兵4名が、ゲートのところで歩哨(ほしょう)に立っていると、向かいの路地から、ふらふらといくつかの人影が近づいてきた。


「酔っ払いか?」


「こんなところに珍しいな」


 警備兵は、けげんそうに見やりながら話す。


 人影は、さらに近づいてくる。


 ゲートの明かりに照らし出された人影は、どうやら旅行者のようだ。


 よく見ると、目がうつろで、大きめのリュックを背負っている。


 そういった旅行者が1人(ひとり)2人(ふたり)3人(さんにん)と、次から次にわいてくるように現れる。


「「「止まれっ!」」」


 異常を感じた警備兵たちは、小銃をかまえて威嚇(いかく)する。


 しかし、旅行者たちは止まらない。


 ひとり目の旅行者は、警備兵たちの間近までくると、いきなり叫んだ。


「科学と真理のためにっ!」


 ニヤッと笑う。


 その瞬間、背中のリュックが炸裂(さくれつ)した。


 耳をつんざくような爆音が響きわたり、すさまじい衝撃波が走り、爆風が吹きわたる。そのせいで近くの建物の窓ガラスも砕け散った。


 もちろん旅行者は、4人の警備兵もろとも吹き飛ばされる。木端微塵(こっぱみじん)だ。ただ血まみれの肉片だけが飛び地って、残されていた。


 爆発音を聞いて、詰所から警備兵たちがあわてて飛び出してくる。


 その瞬間、数名の旅行者たちはダッシュして、ゲート内に突入し、施設内を四方八方に散らばっていった。


「科学と真理のためにっ!」


 旅行者たちは、いずれもそう叫んで、各所で爆発する。


 そのつど警備兵たちもまきこまれ、木端微塵(こっぱみじん)にされる。


 警備兵だけではない。格納庫や倉庫の一部もダメージを受けた。


 ところどころで火の手もあがり、まさに大惨事だ。


 夜の静けさを打ち破るように、城塞都市には銃声、爆音、警報が鳴り響いていた。


全文訳『孫ピン兵法』勢備


 孫子は言いました。

 そもそも(野獣は)口に牙をもち、頭に角をはやし、前足にはひっかく爪があり、後ろ足には蹴る爪があります。(それらを使って)喜んでいるときはじゃれあい、怒っているときはケンカします。これは天の道(つまり自然なこと)です。止めようがありません。

 ですから、(牙、角、爪などの)生まれながら身についている武器をもっていない人間は、みずから武器をつくって準備しました。それを指導したのは聖人です。

 黄帝は、剣をつくり、布陣のシンボルとしました。后羿は、弓や弩をつくり、態勢のシンボルとしました。禹王は、舟や車をつくり、臨機応変のシンボルとしました。湯王と武王は、矛や槍をつくり、権謀術数のシンボルとしました。以上の4つは、軍事の作用です。

 どうして剣が布陣の参考となるのでしょうか。(剣は)朝から晩まで身につけていても、いつも使っているわけではありません。ですから、「布陣しても戦わないのは、剣が布陣に似ているところだ」と言われるのです。剣に鋭い先端がなければ、孟賁~でも、~しようとしません。布陣に鋭い先鋒がなく、孟賁ほどの勇士でもないのに、兵士の先頭に立って進んでいこうとするのは、軍事を知らなさすぎです。剣に手で持って支える部分がなければ、スキルの高い兵士であっても、進んで~できません。布陣に後方で支える部隊がなく、スキルの高い兵士でもないのに、兵士の先頭に立って進んでいこうとするのは、軍事の実情を知らなさすぎです。ですから、前方に鋭い先鋒があり、後方に支援部隊があって、互いに信頼しあって動揺しなければ、敵兵は必ず敗走することになります。前方に先鋒がなく、後方に支援部隊がなくて~券~道理にあっていません。

 どうして弓や弩が態勢の参考となるのでしょうか。(矢は弓や弩を使って)肩と胸の間(という身近なところ)から発射されて、百歩[約135メートル]以上のところにいる人を殺し、(殺されたほうは)どこからやって来たのかわかりません。ですから、「弓や弩は態勢である」と言うのです。

 どうして(舟や車が)臨機応変の参考となるのでしょうか。高ければ~。

 どうして矛や槍が権謀術数の参考となるのでしょうか。攻撃は、高低に関係なく、~に関係なく~頬を~肩を傷つけます。ですから、「矛や槍は権謀術数である」と言われるのです。およそ以上の4つは

~4つをそろえられたならば生き、4つをそろえられなかったなら死~

~従うところで、そうすることで道理を完成させられます。そういった道理を知っている人は、軍人なら成功を得られますし、君主なら名声を得られます。~用~して、そういった道理を知らない人は、(軍人なら)成功を得られません。

 およそ軍事の道理は、4つです。布陣であり、態勢であり、臨機応変であり、権謀術数です。この4つをよくわきまえるのが、強敵を打ち破り、猛将を討ち取る方法です。

~態勢にあっては、無防備なところを攻撃し、思いもよらないところに出撃し~その近いところをヒットし~それに近づいているように見えて、その遠いところをヒットします。権謀術数にあっては、昼は旗を多く掲げ、夜は太鼓を多く鳴らすわけですが、それは戦い抜く方法です。

 およそ以上の4つは、軍事の作用です。すべてを以上のようにして役立たせ(ることがなくし)て、そういった道理に精通することはありません。


※その他、残っている言葉

~の先鋒を有している者は、布陣を選択するにあたって慎重です~爵~


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