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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第9話 勢備篇=兵器の大切さ
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その1(全2回) ハナ皇姫は、じゃじゃ馬だ

(ゆえ)天兵(てんぺい)なき(もの)(みずか)(そな)えを()すは、聖人(せいじん)(こと)なり。」


(野獣のように牙や爪といった敵を攻撃できる武器を生まれながらに身に付けていない人間は、聖人の指導のもと、身を守るために武器を開発し、武装した。)


孫臏兵法(そんぴんへいほう)』「勢備(せいび)」篇より


挿絵(By みてみん)

(イラストはハナ皇女)


 北部辺境地帯にも春がやってきた。


 城塞都市(エンガル)の北側に広がる平原は、一面の畑だ。農民たちが農耕馬をあやつり、耕作している。


 いっぽう城塞都市(エンガル)の南側は、起伏のある丘陵地帯になっている。くねくねした谷に沿って、帝都と城塞都市(エンガル)を結ぶ幹線道路が通っている。


 その幹線道路を珍しいものが走っていた。「馬を使わなくても走る馬車」だ。


 それは、近ごろ実用化された内燃機関(エンジン)を動力として走る荷車(にぐるま)で、「トラック」と言うらしい。


 トラックは、全部で21台だ。車列を組んで、城塞都市(エンガル)に向かって走っていた。まもなく城門をぬけて城塞都市(エンガル)に入り、商業地区にある広場に向かう。


 広場では、フミト皇太子、ヤマキ中将、それに主計将校と、その部下たちが待っていた。もちろんクリーと、アルキンもいる。


「ああ、どうも、どうも」


 言いながら、小太りで人好きのする感じの青い目をした中年男性が、トラックからおりてくる。


 なじみの武器商人――ビゼン・アルスタッドだった。はるか西のほうから流れてきた商人で、もともと連邦で商売していたらしい。


 しかし、連邦では経済界を資本家(ギルド)が支配しており、新規参入は難しい。だから、東に移住して、シン帝国で商売をすることにしたそうだ。


「御注文をいただきましたトラック20台を納品いたしますので、どうぞご検品かた、よろしくお願いいたします」


 トラック21台のうち、20台が納品用で、1台が武器商人の移動用だった。


「了解した」


 主計将校が合図を出すと、部下たちが20台のトラックに分散していった。それぞれトラックのところで待機していた作業員から説明を受けつつ、書類をチェックする。


 主計将校は、武器商人をともない、トラックをみてまわる。


「この荷車(にぐるま)は馬車よりも馬力があるそうですな――」


 ヤマキ中将は、感心したような口ぶりだった。


「――となりますれば、重たい大砲も運びやすくなりますし、スピードも速いので兵士をすばやく移動させることもできます。便利な世の中になったものですなぁ」


「そうだな。軍事においては打撃力、防御力、機動力が大切と言われるが、トラックを使えば機動力が高くなる。だが、費用の面が難点だったな」


 フミト皇太子は苦笑い。


「さようでございますな。トラックとやらを格納し、整備するための倉庫――格納庫(ガレージ)でしたか、それを新築する費用もかかりました。あと、整備に必要な技術者(エンジニア)も新たに雇いましたので、その費用も必要となりました」


「ほんと、お金が出ていくばかりだな」


「しかしながら、国を守るためには、兵器の更新は欠かせませんから、必要な出費ではあります」


「そうだね。戦争のない世の中になれば、いいんだろうけどな――」


 言いながらフミト皇太子は、少しだけ遠い目をした。


「――そう言えば、軍師殿は、兵器について、どう思う?」


「えっと……」


 クリーは思案する。しばしの沈黙のあと、口を開いた。


「わが一族の教えには、こうある――」


 動物は生まれながらに、戦うための牙や爪を持っている。


 しかし、人間は持っていない。


 だから、りっぱな人は兵器をつくった。


「――つまり、身を守るために必要なものが、兵器なのだと思う」


「たしかにね。兵器をそろえれば、出費がかさむが、しかし、兵器がなければ、敵から帝国や臣民を守れない。なかなかうまくいかないものだな」


 と、その瞬間。


「テヤーッ!」


 作業服を着た長髪の少女が、薙刀(なぎなた)を手に、いきなりフミト皇太子に襲いかかってきた。


 だが、フミト皇太子も歴戦の武人だ。そう簡単にはやられない。


 さっと身をかわすと軍刀をぬき、かまえる。


 少女は間髪をいれず、すばやく身をひるがえし、第2撃をフミト皇太子に加えてくる。


 フミト皇太子は、猛烈な勢いで軍刀をふり、向かってくる薙刀(なぎなた)をはらった。


 刃から火花が飛び散り、(すさ)まじい打撃音が響きわたる。それは耳にツーンとくるほどであった。


「痛っ!」


 猛烈な衝撃が薙刀(なぎなた)をとおして少女の両腕に伝わってきた。


 思わず薙刀(なぎなた)を落としてしまう。


 手首がひどく痛い。


 少女は手首をかばうようにしながら、その場にうずくまった。


 フミト皇太子は、薙刀(なぎなた)をひろいあげると、少女のほうに差し出す。


「あいかわらずだな」


 あきれたように言うフミト皇太子。


「ちょっとは、手加減してよ。ケガでもしたら、どうするつもり?」


 少女は涙目でフミト皇太子を見上げながら言った。


「だったら、いきなり襲ってくるんじゃない」


 フミト皇太子は、さとすように言った。


 少女は、よろよろと立ち上がりながら、薙刀(なぎなた)を受け取る。


「でも、さすがよね。あたしも鍛錬を積んだんだけど、やっぱり“救国の英雄”サマにはかなわないわ」


 そう言いながら、少女はイタズラな笑みを浮かべる。


「!?」


「わずか3万の手勢で連邦“百万の大軍”を退け、敵前で要害の地に砦を築き、鉄壁の守りを突破して敵地から生還した名将だ。そんな評判どおりの名将ぶりね。クスッ」


「……」


「フミトお兄様のようなリッパな兄上をもち、ハナは幸せです」


 少女は、ニヤリとしながら言った。


 この少女は、フミト皇太子の妹、ハナ皇姫(こうき)だ。ととのった顔つきで、スタイルもよい。しおらしくしていれば「絶世の美少女」として、若い貴族たちの話題となったことだろう。おてんばなのが「玉に(きず)」だった。


「“救国の英雄”か……。帝都ではそのように言われているらしいが、そう言われるたびに心苦しく感じる」


「どういうこと?」


「あれは、わたしの手柄ではなく、わたしのところにいる軍師殿の手柄なんだよ。おまえも驚くかもしれないが、その軍師殿と言うのが、おまえと同じ年ごろの女の子でね……」


「知ってるわよ」


「はい?」


「あいかわらずバカ正直で、安心したわ。こんな辺境にとばされ、危ない目に合わされてきたから、心がひねくれてるんじゃないかと心配してたのよ。やさしい妹でしょ?」


「?」


「帝都に返り咲きたいからって、人の手柄を横取りするかな? どうするかな? って試したのよ」


「はぁ?」


 フミト皇太子は、顔をしかめる。


「というわけで、お久しぶり~♪」


 ハナ皇姫は、笑顔でクリーのほうを見る。


 薙刀(なぎなた)を片手にもったまま、クリーをギュッとハグした。


「大活躍してくれて、ありがとう!」


「う、うん……」


 クリーは、照れたように顔が真っ赤だけど、うれしそうだ。


「?」


 フミト皇太子も、ヤマキ中将も、よく分からない。


「ふたりとも知りあいなのか?」


「そうだよ」


 ハナ皇姫は、クリーから離れる。


「だって、帝都では、しばらく一緒に暮らしてたもん」


「一緒に……?」


(あぁ、そう言えば、ハナは小さいころから、おばあさまの離宮によく「お泊まり」に行っていたよな。それは今でも変わらない。で、クリーは、しばらく離宮で暮らしていたって言っていた)


 フミト皇太子は、合点(がてん)がいった。


「でも、少し残念でもあるかな。クリーの手柄を横取りしてでも、フミトお兄様が自分のことを“名将”だとアピールしてくれたら、宮廷にカムバックできたかもしれないのに」


「どうだかな?」


 フッと軽く笑うフミト皇太子。


「――まあ、わたしは、ここの生活も気にいっている。で、おまえは、こんなところまで一体なにをしにきたんだ?」


皇太后陛下(おばあさま)から、様子を見てきてって頼まれたの。あと――」


 ハナ皇姫の顔が少し曇る。


「――宮廷がこれだから、息抜きにきたのよ」


 ハナ皇姫が薙刀(なぎなた)を前につき出しながら言った。


薙刀(なぎなた)……、が流行(はや)ってるのか?」


「はい? フミトお兄様、クリーから聞いてないの?」


「なにを?」


「クリーからたくさん“兵法”を学んでくれているかと思えば全然ね。がっかりだわ」


「?」


「クリー、フミトお兄様に、長物(ながもの)のことを教えてあげて」


 長物とは、槍や矛などの長い武器のことだ。薙刀(なぎなた)も長物にあたる。


「えっと、一族の教えに“刀剣は陣形のシンボル、弓矢は勢力のシンボル、乗物(のりもの)は臨機応変のシンボル、長物(ながもの)は権謀術数のシンボル”とあるけど、これでいい?」


「うん、それ。ありがとう♪」


「で、なにが言いたいんだ?」


「つまり、宮廷は権謀術数がうずまいていて、息苦しいっていう話よ」


「まわりくどいな……」


「とにかくね、フミトお兄様も知ってるとおり、イチマツ宰相がタケトお兄様をたきつけているんだけど、なんか裏にありそうな感じ。それに、なにかと足を引っぱられて追い落とされる大臣たちもいて、なんかドロドロしてる……」


「そうか……。だが、公衆の面前で、そういう話をするのは望ましくないぞ」


「あ、そうね。ごめんなさい。でもね、だいたいフミトお兄様がいけないのよ。タケトお兄様にガツンと言わないから。序列を乱すなってね。フミトお兄様は皇太子なんだから」


 プンプンしているハナ皇姫。


 うんうんとうなずくヤマキ中将。


「皇太子だからって、そんな指導をする権限なんてないだろう?」


 苦笑いするフミト皇太子。


「はぁ。そんな弱気だから、なめられるのよ」


 ハナ皇姫は、大きくため息をついた。


「皇帝の息子たちが、へたに兄弟ゲンカなんかすれば、帝国がゆらぐ。これだけは避けないといけない」


「だからって――」


 ハナ皇姫は、言いかけて、言葉をのんだ。


「――まあ、いいわ。帰るまで、楽しませてもおうっと」


 そう言いながら、ハナ皇姫はクリーの手をとった。


「じゃあ、クリー、この街を案内して♪」


「え、えっと……」


 クリーはフミト皇太子をチラッと見た。


 フミト皇太子は笑顔でうなずく。


「軍師殿、面倒をかけて申し訳ないが、わが妹をお願いしたい」


「はい」


 ペコリと頭を下げるクリー。


 ハナ皇姫は、クリーと手をつないで、ルンルン♪ ランラン♪ 上機嫌で街にくりだしていった。


 黒服の男たちが数名、そのあとを追っていく。あやしげに見えるが、あやしい者たちではない。帝都からハナ皇姫を護衛してきた特殊部隊の隊員たちだ。


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