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第9話:過去の亡霊

第9話:過去の亡霊


亡霊たちの咆哮が、歪んだ空間を激しく振るわせる。


かつての Candidate(候補者)たちの残滓——自我を失い、アーカイブの防衛機構へと成り果てた者たちが、実体化した概念の刃を手に襲いかかってきた。その軌跡は重なり合い、逃げ場のない死の網となってトムを追い詰める。


「くっ……!」


トムは概念装甲の刃で初撃を受け止めたが、背後に吹き飛ばされ、崩壊した時計塔の壁面へと背中を強く打ちつけた。衝撃で息が詰まり、口内に鉄の味が広がる。


彼らの攻撃には、個々の洗練された技術と、アーカイブに蓄積された戦闘データが融合した圧倒的な圧力が宿っていた。


『トム! 応答しろ!』


通信機からアレックスの焦燥した声が響く。


『無闇に打ち合うな! 彼らの概念装甲は、君と同じ規格で作られたものだ。正面からぶつかれば、君のエネルギーが先に底をつく!』


「分かっている……だが、生半可な攻撃では突破できない!」


トムは迫り来る三体の亡霊を睨み据えた。


空洞の眼孔から溢れ出る赤光。その奥に、かつて人間として存在し、世界を救おうと抗った者たちの絶望の記憶がかすかに透けて見えた。彼らもまた、トムと同じように誇りと使命感を抱いてこの深淵へ挑み、破れ、飲み込まれたのだ。


「これ以上、彼らの誇りを汚させはしない」


トムは胸の奥に眠る三つの共鳴球(レゾナンス・ボール)を強く意識した。


体内をめぐるエーテルが激しく乱高下し、皮膚の表面に細かな亀裂のような光の紋様が浮かび上がる。適合率は瞬く間に上昇し、五八パーセントの境界線を踏み越えた。


脳裏を刺す強烈な激痛。自分が「トム」という一個人であることを忘却しそうになるほどの恐怖。


『ダメだ、トム! それ以上適合率を上げるな! 君の意識がデータへと分解される!』


「黙って見ていろ、アレックス……! 俺はまだ、ここで終わるわけにはいかない!」


トムは牙を剥き出しにし、概念装甲の出力を限界まで解放した。


「検索要求(リクエスト)——対象:『安息の引導』!」


手元の刃が、静寂の如き深い群青色の光を放ち始める。


それは攻撃のための概念ではない。アーカイブに捕らわれた記憶の記述を解凍し、本来あるべき「無」へと還すための解放のコード。


「記録コード:0009——『静かなる終幕』!」


トムの一歩は音もなく、光の軌跡すら残さなかった。


すれ違いざまに放たれた一閃が、亡霊たちの胸核を正確に貫く。


時間が停止したかのような錯覚の後、かつての同胞たちの身体が青い光の粒子となって崩壊し始めた。彼らの空洞だった瞳に、一瞬だけ人間らしい穏やかな光が戻り、静かに消滅していく。


「……眠れ。後はおれが引き受ける」


トムは剣を収め、崩れ去る亡霊たちの中心に浮遊していた第四のコア——『時間の断層核』へとゆっくり手を伸ばし

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