第7話:記憶の波紋
第7話:記憶の波紋
崩壊の激しさを増す神殿の最奥で、激突した二つの概念の交差が残した残光が、ゆっくりと粒子となって空間に拡散していく。
トムは概念装甲のグリップを強く握りしめたまま、膝をつきそうになる体をどうにか踏みとどませていた。激戦の余波によって全身の細胞が軋み、体内を循環するエーテルが異常な熱を帯びている。
だが、眼前に浮遊する『神話の核』は、その蒼穹の如き輝きを緩やかに静め、まるでトムの存在を認めたかのように穏やかな脈動へと変化していた。
「……回収、完了」
トムがかすれた声で呟くと同時に、第三の共鳴球は彼の胸元へと静かに吸い込まれ、体内の脈動とひとつに統合された。
その瞬間、途絶えていた通信機から爆発的なノイズと共にアレックスの叫び声が跳ね返ってきた。
『——ム! トム、聞こえるか!? 応答しろ!』
「……ああ、聞こえている。アレックス、騒がしいぞ」
『無事だったのか! 第5区画からの概念波形が完全に途絶えたから、自我が霧散したかと……待て、適合率の数値を再計測している。……五二パーセントだと!?』
「共鳴球を取り込むごとに、アーカイブとの同期が深まっている。感覚が……研ぎ澄まされていくのが分かる」
『喜んでいる場合じゃない! 適合率が五〇パーセントを超えたということは、君の肉体そのものが半分近くアーカイブの記述に侵食されているということだ!』
アレックスの切迫した声が、ノイズの隙間から途切れ途切れに届く。
『それに、空間の歪みがさらに悪化している。神話領域の崩壊に伴って、第6区画へと続く『記憶の断層』が開き始めた。そこは過去の観測データが未修正のまま放置された、精神の迷宮だ』
トムはゆっくりと立ち上がり、足元から広がる漆黒の亀裂を見下ろした。
深淵の底から風が吹き抜けてくる。そこには、誰のものでもない無数の『起こり得たかもしれない未来』と『消し去られた過去』の残滓が、渦を巻いて蠢いていた。
「迷宮だろうと関係ない。踏み越えるだけだ」
『正気か……。だが、後戻りする道も既に消滅しているな。トム、第6区画の深部には、これまでとは違う異質すぎるシグナルが感知されている。十分に警戒しろ』
「了解した」
トムは溢れ出るエーテルの光を身に纏い、歪む空間の断層へと迷いなく足を踏み出した。
物語の深層へ向かうごとに、現実に残された彼の影は少しずつ薄くなっていく。それでも、彼の瞳に宿る意志の光




