第11話:創世の回廊
第11話:創世の回廊
空間の亀裂を通り抜けたトムの視界を、圧倒的な「白」が埋め尽くした。
第7区画——『創世の回廊』。
そこには建造物も、破棄された都市も存在しなかった。果てしなく広がる純白の世界の中、無数の光の筋が巨大な二重螺旋を描きながら、遥か高空へと伸びている。それは人類が誕生してから今日に至るまでに生み出された、すべての遺伝情報、思考、そして歴史の設計図そのものだった。
「ここが……アーカイブの最深部か」
トムの声が、歪んだ空間に静かに響く。
足元からはかすかな拍動が伝わってくる。回廊の中央、巨大な光の螺旋が交差する結節点に、蒼穹と漆黒が入り混じった異質なる球体が浮遊していた。
第五の核——『創世の原核』。
これまでに回収した四つの共鳴球が、トムの体内から激しく共鳴し、胸の奥で焼けるような熱を放つ。
『……聞こえるか、トム』
アレックスの声が届く。通信のノイズはすでに消えていた。いや、ノイズすら存在し得ないほど、この領域の情報密度は純粋を極めていたのだ。
『創世の原核……それがアーカイブの根幹だ。それを取り込めば、すべての共鳴球が揃う。だが……現在の君の適合率は六四パーセント。最後のアダプターを統合すれば、適合率は七〇パーセントの臨界点を確実に突破する』
「七〇パーセントを超えれば……どうなる?」
『……人間への可逆性が失われる。君は「トム」という肉体と自我を完全に失い、このアーカイブを統括する「概念プログラム」へと変質する。……戻ってこれなくなるんだ』
静寂が支配する回廊に、アレックスの言葉が重く落ちる。
トムは静かに自分の手のひらを見つめた。
すでに光の粒子となって揺らめく指先。肉体の感覚は麻痺し、全神経が電子の脈動と同化しかけている。
「最初から……生きて戻るつもりでこの任務を引き受けたわけじゃない」
「……トム!」
「人類の記憶をここで終わらせない。未来へ繋ぐ。そのために俺はここまで来たんだ」
トムは一歩、踏み出した。
だがその時、回廊の光が急激に濁り、純白の世界が黒く染まり始めた。
『創世の原核』の前に、光と影を纏った人型がゆっくりと姿を形成していく。
それは他者ではない。
概念装甲を纏い、冷徹な光の刃を構えた——トム自身の姿をした『終焉の観測者』だった。




