第12話:己という壁
第12話:己という壁
純白と漆黒が交錯する創世の回廊に、二つの刃が激突する高金属音が響き渡った。
火花を散らす先で、トムは息を呑む。
目の前に立つ『敵』は、己とまったく同じ構え、同じ間合い、そして同じ概念装甲を纏っていた。
「くっ……!」
押し込まれ、トムは後方へと大きく跳躍した。
着地と同時に、鏡像の敵が寸分たがわぬ速度で肉薄してくる。繰り出される刃の軌跡は、トム自身が無意識に選ぶ最善の攻撃パターンそのものだった。
『トム、そいつはアーカイブが君の戦闘データを完璧に複製して作り出した防衛システムだ!』
アレックスの叫びが響く。
『君が思考し、動こうとした瞬間、相手はすでにその未来を予測して対応している! 己自身と戦って勝てる人間なんて存在しない!』
「なら……思考の先を行くまでだ!」
トムは概念装甲の出力を跳ね上げ、踏み込んだ。
一閃。しかし、鏡像の刃によって完璧に受け流され、強烈な蹴りがトムの腹部を穿つ。
衝撃で吹き飛ばされ、白い床を滑りながら血を吐き出した。
視界が赤く染まり、体内の4つの共鳴球が狂ったように警鐘を鳴らす。
(勝てない……? 自分の写し身に……?)
鏡像の敵は、感情のない冷徹な瞳でトムを見下ろしながら、ゆっくりと刃を掲げた。
「お前の限界はそこだ、トム。お前が『人間』である限り、全記憶を統括するアーカイブの演算を超えることはできない」
無機質な声が回廊に響く。
(そうだ……俺は人間だ。迷い、傷つき、過去を悔やむ……不完全な存在だ)
トムは倒れたまま、震える手で血を拭った。
脳裏に浮かぶのは、これまでの凄絶な戦い。自我を失っていった candidate(候補者)たちの無念、命を懸けて繋いでくれたアレックスの声、そして消えていった無数の人々の記憶。
(だが……だからこそ、俺はここに立っている!)
完璧な計算だけで動く機械にはないもの。
それは、絶望の淵でも未来を信じて抗い続ける『意志』だ。
「適合率……臨界突破を許可——!」
トムの叫びと共に、全身の概念装甲が限界を超えた蒼炎の光を放ち始めた。
『やめろ、トム! 適合率が七〇パーセントを超えてしまう!』
「アレックス……俺を信じろ!」
適合率、七二パーセント。
肉体の感覚が消え去り、意識が世界の記述と完全に融合する。
トムの姿は実体を失い、眩い光の奔流へと変化した。
予測不能な、純粋な意志の閃光。
「おおおあああぁぁぁっ!」
鏡像の敵が予測演算を展開するより早く、トムは自らの存在そのものを一筋の光の刃に変えて疾走した。
計算を超えた一撃が、鏡像の胸核を真っ直ぐに貫く。
「……見事だ」
鏡像の敵はかすかな微笑を残し、光の粒子となって霧散した。
その背後で、第五の核——『創世の原核』が、静かに脈動しながらトムの差し出す手へと引き寄せられていく。




